勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです

ミナト日記

迷宮の侵攻 06





 体中から憎しみが絶え間なく溢れ止まらない。
 体を流れ、だが落ちることなく全身を包み込んで覆っていく。
 それは悲しみと怒りが交わる暗い闇だ。そして今まで感じたことがない程の力がみなぎってくる。


『コロスッ、コロス、コロスゥウウッ!!』


 既に意識は途絶えつつある。ただただあの人のためだと自分に言い聞かせ赤子のように暴れ全てを終わりにするベク力をフルウ。


 知能は消え、ただ怒りを糧に力を振るい尽くすゴーレム。それを見た二人は距離を取る。だが、斧の勇者だけは嘲笑し、その場で斧を担ぎ直した。


「おいおい、なにを粋がっている? おいっ!」


 斧の勇者バンの攻撃は斧を振り下ろすだけだ。
 だが、その一撃は万物の破壊に特化した神器によるものだ。
 だから、例え一撃であろうとも、


『グググウウウアアアアオオオオオオオオオオオ!!』


 足が砕け散り、ゴーレムは絶叫を上げた。
 そこには、もう人だった記憶など消えうせつつある半モンスターが蹲っていた。
 ゴーレムは、怒りと憎しみ全てを闇へとゆだね、


『グガガガガアガッガ!』


――もはや言葉ですらないほどに壊れた声を放った。


「おいおい、闇にゆだねるとはなあ……己を捨てたか」


「どうするの? あれって、あれでしょ? あれあれ」


「だろうな、おいレイナ! ――焼き払え」


「ファイヤー」


 バンの指示を受けたレイナは杖を構え、そして炎塊を闇と化したゴーレムへ打ち放つ。
 ゴーレムは強大な質量を武器にモンスターの中でも最大級の防御力を誇る防御に特化したモンスターだ。
 だが、それは相手が物理攻撃に限る。
 故に、赤く燃えあがるゴーレムがジタバタと苦しみ地を震わせた。


『ガウグハアフアアア』


 苦しみもがき、それでも闇は強くなる。
 闇は暴走し、さらにどこからか闇が増えていく。


 
 まだまだ足りない。
 力が、力こそあれば。
 それが悪だとしても、使えるものがあるというのであれば、殺すことが可能な力があるというのであれば。


『ヨコオセッエエエエエエ! モットモットチカラヲ――』


 崩れそうな体を闇に委ねる。もう俺の意志はいらない。
 全ていらない。
 弱い力なんて、俺には――


「グルルウッ!」


 と、腹に何かが体当たりしてきた。
 それは怒り唸り、腹へ爪を立て、牙で噛みつき。
 そして、小さく唸る。


「グルルルッ!!」


 それは、岩狼だった。
 先ほどまで後ろに控え状況を伺っていた部下によるものであった。


『グググ、ナ、ナン』


 闇が視界を妨げる。だが、それでも岩狼は諦めずに呼びかける。


「おいおい。無駄だ、諦めろ。そいつはもう闇だよ、くふっ」


 斧の勇者バンは憐れみを込め小さく笑い。そして、手元の斧へ力を注ぐ。


「まあいい。お前らごと壊してやるよ!」
「グルルッ!」


 勇者の前に立ちはだかるように唸る岩狼。
 岩狼ごときでは勇者には勝てない。それは誰もが、岩狼もわかってはいた。
 だが、それでも岩狼は戦う。


 それを知ったゴーレムは微かに目を閉じた。
 もう目には闇に包まれた世界しか広がってない。それが力を求めた代償だということもわかっている。
諦め、全ての怒りを斧の勇者にぶつけ、その先に俺は――


 何を求めていたのだろうか。
 アンリ様のためと言い聞かせ、結局は怒りに任せ暴れた。
 もう少しだけ考えれば、おとなしく引けば。
 まだやり直すことは出来たかもしれない。


『オレは……』


「グウウ、グルウ、グ……」


 何回も響き渡った斧と岩狼の激突が唐突に途絶え静かになる。そして静かに一人こちらへと向かってくる。
 微かに唇を震わせ、呆れる様に嘲笑し。


「終わり…だ、死ね。愚かな勇者の付き人――いや、化け物」


 空気を切り開く音が空間に響きつくし
 ゴーレムは消失したのだった。














 目の前には何もない、でも意識はあった。
 二度目となる死さえ許されなかったのだろうか。
 歩き回る足すらなく、何も聞こえず、何も見えず。
 空間なのかさえわからない。


 俺は死んだはずだ。
 だが、なぜか意識は途絶えない。
 これが死の世界とでもいうのか?




「あなたが嫌いです」




 と、いきなり場が白く光りそして声が聞こえた。
 それはどこか懐かしく、そして聞き覚えのある声であった。




「力のないあなたに出来ることなどありません、帰ってください」




 これは過去の記憶か。
 そう言えば、あの人との第一印象は最悪からのスタートだったな。
 力の無い俺だけど望んだのだ。




『君の力になりたい』


「やめて、あなたはただの弱い人なの! わからないの!? あなたが来てもすぐに――」


『やだ、俺はついていくよ。君が嫌がってもね』


「あなたは馬鹿よ――好きにしなさい。どうせ死んじゃうだけよ」




 馬鹿と罵られ、それでも俺は付き添った。
 迷宮内で何度もモンスターに出くわし致命傷を負いそうになりながらも。
 道中、力が足りないと何度も否定され。それでも彼女の力になりたいと願い惨めにも追いかけたあの日。


 何度も死にかけ、それでも彼女のとの距離は近づいた。
 それは、拙くも確かな信頼につながった。
 帰りのとき彼女はその日一番の笑顔で言った。




「あなたはバカよ。力の差を感じてなお、ついてくるなんて――だけどもう来ないほうがあなたのためよ」


『――――』




 あの時俺は何を言ったのだったか……
 あの時、俺は確かに何かを決断して――


 うむ――?
 景色が変動する。
 感触が蘇り、温かな風が体中を流れていく。
 体を飲みこんでいた闇が浄化され、少しずつ恨み辛みが弱まっていく。


『――ァ』


 顔全体が崩壊しているのか上手く声が出ない。
 だけど、意志が逆流から遡っていく。
 そして唐突にそれは響いた。




「――……ォオル……起きて!」


 すぐ耳元から小さな声が届いた。
 その声は今にも泣きそうな程にか弱く、それでも決意に満ちていた。


「待っていて……今助けるから――岩はこれでも大丈夫よね?」


 消失したはずなのに、それなのに未だに声が聞こえる。
 触感も消えていない。


「岩は初めてだけど、でも同じよね……パーヒール」


 切断され消えうせた足先や腕先から痛みが刹那訪れ消える。
 まだまだ全快には程遠いがそれでも移動することくらいは出来そうだ。


「大丈夫? トオル、意識はあります?」


『うん、これは夢――じゃないか。アンリ様が助けてくれたのですね。すみません』


「ううん、好きでやったことよ。それにもう一度失うなんて無理だもん」


 少し拗ねた口調で言うアンリ様の様子から判断してここは安全な場所のようだ。
 だが、ここはどこだ? 
 未だに目が回復せず辺りを伺うことが出来ない。


「安心して、ここには私とトオルしかいないから。だから今は休んで、疲れたでしょう」


『アンリ様、斧は……?』


「斧ならトオルを殴って満足して帰ったわ。でも、石核は無傷だったからなんとかできたの」


 ソウル ストーン?
 それはいったい……?


「とにかく、今は休んで。回復しないと、まだまだ全快には程遠いでしょう?」


『はい――』




 聞きたいことが山ほどあるけど今はとりあえず休まないと。
 起きたら全てを聞こう――迷宮内の出来事を。







「勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く