勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです

ミナト日記

迷宮の侵攻 04

 すこし待つと、ゴブリンたちと岩狼が戻ってくる。
 そしてゴブリンの手には赤い鱗が握られていた。


『それはどうした?』


「エエト、オソッテキタ、デス、タタカイマシタ、イワロウガ」


「ギュウッ!」


 自慢げに頷き唸る岩狼。
 その鋭い牙には確かに赤く染まり、体の左前足が少し欠けていた。


『戦っただと? そして勝つだと……?』


 確かに岩狼の戦力はスライム王に匹敵するほどではあった。だがそれにしたって倒してくるとは想像以上だ。
 だが、確かに手に持つ赤鱗で現実味を浴びてくる。


『よくやった、岩狼。そしてゴブリンたちは……何かしたのか?』


 少し疑問に思い聞いてみると、ゴブリンたちが一斉に首を振り、


「ワタシタイはナニもしてまセン」


 と、やはり岩狼だけで討伐したようだ。
 だが、それはまあいいことだ。
 2千Pで買った戦力が弱かったという最悪の結末は避がれたのだ。


『よし、ということは、この先には赤竜が待ち構えているということか?』


「イエ、イッタイだけデス」


 はぐれ赤竜だったということか。
 それならば、この先をもう少し進むべきなのかもしれない。
 それに、赤竜の死体の血が襲ってきた奴よりも各上ならばこのまま帰っても問題ないのだ。別に俺たちはこの迷宮を滅ぼしに来たわけではないのだからな。




『よし。では先に――』


 行こう、と言いかけた時。
 突然、右肩がカタガタと震え、そして砕け散る。


『グアア、なん、これは』


 辺りを見ても何もいない、それなのに右肩が砕け散る。
 ということは、遠距離からの攻撃ということか!


『岩兵、岩狼! 警戒しろ、ゴブリンたちは後ろへと下がって待機!』


「「「はっ!」」」


 指示に従い前方を岩兵が覆い隠し、その後ろに状況を伺う岩狼、そして俺。その後ろに隠れるゴブリンたちの戦型がすぐにでき上がる。


「ぐっ、マエからです」


 と、攻撃から守ってくれる岩兵だが徐々に体が欠けて小さくなっていく
 その陰から前方をみるとそこには影がある。
 だが、その陰には翼なんてものはなかった。それどころか、カギ爪も、牙も何もない。
 だが、しなる棒を持っていた。
 先端が尖った弓の束を握っていた。




 ――そこに立っていたのは少年であった。
 モンスターではなく人だった。




◆――




 人だった。
 それはどこからどう見ても少年だった。
 少年は俺たちに弓を放ち攻撃してくる。
 その弓は変哲もないただの木で出来た弓矢にしか見えない。それなのに少年の手を離れ着弾するまで輝かしい光を放っていた。
 そしてそれは、その威力は竜のブレスに匹敵しようかという力技だ。


 話に聞いたことがある。
 勇者の素質を持つ者だけが使える力。
 それは、世界を変える力だと……モンスターを殺すのに特化した英雄の力だと。


『なぜ、こんな場所に素質を持つ少年が……いや、まずは』


 殺す、と言いかけてなんとか抑えた。
 今までは、モンスターだから容易に殺すという考えに至った。
 だが、目の前で立ち向かってくるのは人だ。
 それも、年端もいかない少年だ。


「ぐう、どうじますか」


「ギュギュギュ!」


 俺に訪ねる岩兵と岩狼。
 もし、俺が殺せと言えば、その俊足を持って首を砕きに行くだろう。岩兵もその圧倒的な重量で押しつぶしにかかるだろう。
 だが、あの少年は敵といえども同類だ。
 同じ人間だ、それを俺は殺せるのか……?


『くそっ』


 前に斧の勇者は殺す気になれた。あの時、斧の勇者はやってはいけない勇者殺しの寸前だった。だが、少年はゴーレムたちに挑む、ある意味勇者に近い者だ。
 それも勇者の素質を持つ者だ。
 いつかアンリ様たちと同じ英雄の一人になるかもしれない存在だ。


 それで、いつかアンリ様が不利な状況に、人間が不利な状況に陥ることまで考えられる。
 それだけ、勇者の素質は貴重だ。誰もが持つ力では無い。


 前に、元勇者らしき爺さんに迷宮を壊されかけた。殺されそうになった。
 だが、それでも……




『撤退だ、ここから離れる!』




 俺は、少年を殺すことはできなかった。




◆――




 部下たちは何も言わず、素早くその場を後にした。
 あの先には赤竜の死体が転がっていたはずだ、それでもその先にはあの少年もいる。
 だから死体だけを持って行くのは難しく、ゆえに逃げたのだった。


 それにしたって、なぜ赤竜の迷宮に少年が居たのかはよくわからない。
 それも一人で来るなんて正気ではない。


『あいつは、だれだったんだ……』


 少しばかり、面倒ごとが増えたようだ。
 赤竜に、勇者の素質を持つ少年。
 これらをどうにかしないといけない。


 だが少年は殺すことが難しい、半殺しでさえ止めは赤竜が射すだろう。
 だから、あくまでもあの少年に関わるのは避けたいところだが。


『はあっ、くそっ』


 辺りを軽く蹴りつけ怒りを発散する。
 それを見たゴブリンたちは恐怖で怯え、岩兵と岩狼は静かに見つめている。
 その眼は俺の判断に対して疑問は抱いてはないように見える。


『……とりあえず、岩兵とゴブリンたちはもう一度偵察に向かってくれ。あの少年が一人か、それとも仲間と一緒かを探ってきてくれ。あと、出来れば赤竜の死体を持ってこい』


「「はい」」


 頷き、ゴブリンと岩兵が前へと進んでいく。
 焦ってはダメだ。焦って適当にやっても物事は何も上手くはいかない。
 だから、まずは落ちつけ、落ち着くんだ。


『スゥウウウーーーーーハアアアアッ』


 大きく息を吸い込み大きく吐く。
 少しは落ち着いてくる。


 あの少年はこちらに来るのだろうか、それとも来ないのか。
 赤竜は俺たちに襲ってくるのか、それとも襲ってこないか。


 どちらもわからない。
 わからないことだらけだ。だが、部下の命を救うためにも、俺たちがやるほかない。


『岩狼よ、回復をする。こちらへと来い』


「ギュア」


 岩狼の体に岩を与えて回復させていく。すると瞬く間に足の欠が埋まっていき。
 元通りの姿へとなる。


『とりあえずは、ここで待機か……』


 俺は足元の岩狼と待つのであった。





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