神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第48話 王女の英雄

王女の仲間。
それは英雄と呼ばれる凄腕しかなれないと思っていた。
だからこそ、マレイアと冒険することなど想定していなかった。


だけど、仲間なら冒険するのが当たり前なのだろう。
自分の発言で、マレイアがそう思ったのだとしたら、俺は引くわけにはいかない。


「姫様、第二王女とはいえ、それは許可できませんよ。いくら俺とリーナが護衛にいても、民衆が許してくれないです」
「ええ、少しばかり現実的ではありません。王女の自覚を持ってください」


今まで、朗らかな表情しか見ていなかった俺とルシアは面喰ってしまう。
だが、マレイアは二人の視線から逃げない。


「これは、運命なのだ。きっと、そうなのだ」


マレイアは頑なに王女としての責務を放棄しようとしている。
何がそうさせたのか、部下が死んで、国の為に奉仕する。それがベストな判断だと思うのに。


「私は、王女として未熟なのだ。弱い、弱すぎるのだ。だから、学院で学んで、そして、二人と冒険して強くなるのだ——今の、国には強者が必要なのだ!」


国の為、そうマレイアは言った。
だけど、それは本音なのだろうか。確かに強者は王族と共に打ち取られ、精霊神がギリギリで保っているのが現状だ。
仮に、風神が病に倒れてしまえば、一気に戦力は弱まるだろう。それこそ、今度は王族が誰一人助かることもないかもしれない。


「ですが、姫様。貴方が強くなるとしても、それはいつになりますか?」


静かにギールが諭す。
正論で問われ、マレイアも少し黙る。


最強にはなれなくても、強者にはなれる。
だけど、今は時間が惜しい。少しの緩みで形成が逆転してしまう。
だからこそ、二人ともマレイアには別のことをして欲しいみたいだ。
適材適所。
それを言いたいのか、二人は如何に王族という存在が民にとって必要かを示す。


そんなことの為に、彼らは命を懸けて王女を守ったのではないと——


「い、今すぐは無理でも数年以内に名を挙げてみせるのだ。きっと、バルとルシアが仲間なら、可能なのだ」
「買いかぶりだよ、マレイア。俺はそんなに才能があるわけではない。ただ、ルシアと契約できただけだ」
『うん、バルは魔力量が多いけど、それ以外は平凡だよ。英雄になるのは難しいと思う』
「ああ、師匠の俺が言うのもなんだが、王国騎士団隊長には成れても、風神や炎神に並ぶまでは無理だろうな。なんたって、俺ですら、炎神の足元にも及ばないからな」
「そうね。過去に、同じような状況で、王女でありながら精霊使いとして名を挙げた方が居ました。けれど、結果は……死にました」


立て続けに、事実を突きつけられた。
確かに、俺は弱い。だけど、未来がどうなるか分からない。


「そ、それなら、どうすればいいいのだ」


マレイアが俯き、泣きそうな声で問う。
幼い王女には背負える問題ではない。だけど、王族であるという事実がマレイアをこうまで苦しめている。
精霊神ですら、現状維持が限界。解決するなんて、無理だろう。


それを理解しているからこそ、師匠たちは止めようとする。
かつて、同じように身を犠牲にして、それでも救えなかった人が居るとリーナは言う。
それの再来になるだけだと。


ああ、全く笑えない。
これがゲームなら、俺がどうにかしてやるって主役が啖呵を切る所なのに。
英雄は現れない。


きっと、この世界に英雄として称される人物は俺なのだろう。
この世界にきて、何かと強敵と戦うことが多い。とうとう、国家の問題にまで立ち会ってしまう始末だ。


無の精霊神。
アンタが、勝手に消えなければ……無の精霊神が居れば何か現状は変わっていたのかな。


6系統の精霊神が束になっても叶わない天才魔導士。
それが、スキルや転生時に受け持った才ではないとすれば、きっと無の精霊に意味があるのだろう。


今では、消えかけている精霊たち。
だけど、俺が転生し、この世界には無の精霊使いが居る。


これが、何かを変えるキッカケだというのなら、これがゲームみたいに俺の行動で何かが変わるのだとしたら……


「俺が精霊神になるよ。俺が、この国を建て直してやる」


思わず、そんな言葉を言ってしまう。
いきなり、突拍子もない発言に流石にルシアも含め黙ってしまう。


「本気かい?」


師匠の眼と介する。
何かしら、案があるのか聞いているようにも思える。


実際、案は一つだけある。
今は伝承しか残っていない、無の精霊神。
だが、ユグドラシルの大樹が始まりの町を今なお守っているように、その力は強大だ。


もしも、その力が手に入れば、世界は変わるだろう。


学院に行けば、そのヒントがあるかもしれない。
だから、期限は一年。


「一年後、僕は師匠を超えます。だから、マレイアが仲間になるかどうかは、その時に決めてくれませんか?」
「おいおい、それは無謀だ——って言いたいところだが、姫様の幸福を奪い取るのみ後味悪いしなあ……」
「そうね。もしも、貴方が無の精霊使いとして、私たち以上に成長する見込みがあるとすれば、その時は認めてあげます」


悩む素振りを見せつつも、二人が了承する。
思ったよりも、簡単に認めてくれた。だけど、その条件はあまりにも重い。


二人は、こう言っているのだろう。
“王国騎士団隊長である俺たちを超えて見せろと”


きっと、それは生半可な気持ちで成し遂げられない。
だけど、一年。


俺たちは足掻くとそう決めたのだった。



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