神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第42話 圧倒的な力

 空から強力な光が降り注ぎ、地上を火炎が覆い尽くす。
 森の木々は燃え移り大参事だ。
 ほんと、どれだけの生物が消えていくのだろうか。
 って、それよりも!


「なんでっ、こいつが来た!」
『わかりません! でも、前よりも酷い状況かもしれないです!』
「どういうこと?」
『前よりも怒り狂っています! それに、今にも降りてきそうです!』


 空を見ると、確かに羽ばたきの速度が落ちている。
 それに少しずつ大きく見える。


「やばい、どうしようルシア!?」
『地中深くに潜りましょう!』
「了解だ!」


 土魔法の制御をし、辺りを変化させていく。
 すると、俺たち付近だけの空間が地中に沈んでいく。
 だが、途中何かにぶつかりそれ以上潜ることができなくなった。


 どうやら巨大な岩が埋まっているためぶつかり、これ以上は無理なようで、岩を壊すには、高威力の土魔法が必要なようだ。


「くそっ、どうすれば!」
『落ち着いて!』


 隣のルシアがそう言い、俺の手を握りしめていく。
 ――少しは落ち着いた気がする。
 だが、解決策は見つからない。


 魔力も少なくなり、このままじゃあ前みたいに水魔法で防ぐこともままならなくなってしまう。
 ほんと、終わりだ。


『また光が……』


 と、マレイアの腕輪がまたもや光り始める。
 それに、今度は長く消える気配が無い。


「どういうことだ?」


 何がなんだかわからない。
 マレイアが未だに気を失い、外に荒れ狂う雷鳥電王が……。
 うん?


「……音が聞こえなく、なった?」
『ほんとですね。なんで……?』


 先ほどまで地上を響いていた轟音がピタリと鳴りやんでいた。
 それに、辺りを照らしていた光も消え失せていた。


 そして、代わりに聞こえてくるのは土を蹴る足音。
 一つではない、複数だ。


 それに、声らしきものも微かに聞こえる。
 もしかして、救援か?


 とりあえず、敵の可能性もあるため少しずつ高度を上げていく。
 そして、地上が見えるとそこには二つの人影があった。


「燃弾!」
「水冷風壁」


 と、空に向かって魔法を飛ばしていた。
 どうやら、雷鳥電王に向かって攻撃していようだ。
 そして、一瞬エルフとかの人外の仕業かとも思ったがそうではなく人だ。
 ほんとの本当に救援かもしれない。


 二人とも赤のローブを身にまとっているため顔はよくわからない。
 だが、声からして拳銃を持つのが男で、杖みたいなもので水の防御壁を貼っているのが女のようだ。


「ギール! そろそろ魔法の限界! とっと、ぶっ飛ばしなさい!」
「よし、わかった!」


 と、男の拳銃が赤く光り、弾丸が発射される。
 雷鳥電王も黙っておらず、落雷を放つ。


『garuuuuuuuuuuuuuuuuuu!』
「舐め過ぎだよ」


 だが、弾丸は止まることなく空を飛び、雷鳥電王の羽へと突き刺さり。
 そして破裂した。


 弾丸を起点に爆風が吹き荒れる。
 そして雷鳥電王の体を薙ぎ払うかのように振れ。
 地上へと落ちてくる。
 雷鳥電王の前身には鋭い傷が多数残り、動く気配はない。


「うん、こんなもんかな」
「さすがね、魔法を展開する必要なんて無かったわね」
「そんなことないさ、リーナが魔法を貼ってくれたおかげで安心して全力をだせたのさ」
「そんなこと言って、本当は自分の力に己惚れているんじゃないの? 俺ってこんなに強いんだぜって」
「ははっ……そ、それよりも姫様は無事なのかな? 魔法道具ではこの辺なんだろ?」
「はぁ。まあ、そうよ」


 と、話す二人。
 その二人を俺は知っていた。
 いや、すぐに気づくべきだったのかもしれない。
 なんせ、二人は命の恩人なのだから。




 ◆




 ギールにリーナ。
 二人とも王国騎士団に属する騎士である。
 そして、竜の子に襲われていた俺を助けてくれた張本人でもある。
 そして、またもや助けられたということか。


「ううん、あれ? 私はどうしたのだ?」


 と、ようやくマレイアが起きたようだ。
 眼をゴシゴシ擦りつつ、その場で伸びをする。


「ちょうどよかった、マレイア、あの二人を知っているか?」
「あのふたり?」
「うん、ほらあの二人」
「うんん、あれは師匠なのだ」
「師匠? ってことは、マレイアに魔法道具を持たせたのはあの人ってこと?」
「うん、師匠~」


 と、マレイアが外に出ていく。


「姫様、ご無事でしたか?」
「遅くなってしまいごめんなさい」


 と、二人が首を垂れ、その場で膝をついた。
 うん、どういうことだ?
 マレイアが姫様?


「あの二人のお陰でなんとかなったのだ!」
「あの二人?」
「うん、あの洞窟内の二人は救世主なのだ!」


 と、ギールとリーナの視線が突き刺さる。
 流石にこのままという訳にはいかなそうだ。
 ――とりえあず、穴から出て深々と頭を下げて挨拶をするか


「は、初めまして、バルです」
「うん、よろしくなバル」
「どこかで、会ったような気が……?」


 と、リーナが首を傾げ聞いてくる。
 流石に完璧に覚えているという訳ではないみたいだ。


「ええと、前に竜の子に襲われたときに助けていただきました。あの時はありがとうございました」
「ああ、あの時の少年か!」
「傷はもう大丈夫みたいね、よかったわ。あの時は魔力が少なかったから応急処置までしか出来なかったのよ」
「?」


 あれで、応急処置?
 別に気分が優れていないとか無かったと思うけど。
 と、俺の疑問に気づいたのか、ギールが言う。


「あはははっ、リーナは完璧主義者だからさ、傷跡を完璧に消したまではいいけど、襲われたことの恐怖の記憶の緩和をするのが出来なかったことを悔いているのさ」
「まあ、ね。それで、恐怖は大丈夫かしら?」
「はい」
「そう、良かったわ」
『――私はルシアと言います。バルの契約精霊です』


 と、俺の後ろにいたルシアが自己紹介をする。
 だが、なぜかギールだけ不思議そうな顔をし。


「どこかで見たことがあるような……?」
「ルシアはシーラ姫を参考に人化していますから。まあ、髪や目の色は変えていますが」
「なるほど、どうりでシーラ姫に似ているという訳か。だが、少し違う気が……」
『やっぱり、わかる人にはわかるんですね』
「ルシア、どういうこと?」
『私の人化のもとは確かにシーラ姫ですが、今のシーラ姫は知りませんよ』
「うん、わけが分からない」
「おお、そうか。ということは、数世紀前のあのシーラ姫ということか。確かに悠久の時を生きる精霊だからこそ可能というわけか」
「ギール、一人で盛り上がってないで、わかるように説明して」


 と、リーナが少し強めにギールに言う。
 すると、みるみるうちにギールの表情が真面目になっていき。


「えへん。つまりは、昔のシーラ姫、ええと、初代シーラ姫のことさ。現シーラ姫の本名は、シーラ・ド・カフィア。初代シーラ姫は、シーラ・ド・カルティアってわけで、シーラは名前では無く、王族特有の名ってことかな」


 ああ、そういうことか。
 ようはクレオパトラとかみたいな感じで何代にもわたって使われる名のことか。
 ということは、結構前の人の顔をルシアは再現しているってことになるのか。


「一つ聞いてもいいですか?」
「もちろんいいよ」


 と、ギールが代表して頷いてくる。


「ええと、マレイアさんは、姫様なんですか?」
「知らないのかい? 姫様は、第2王女だよ」
「ええと、つまりはシーラ姫の姉ってことでいいのかな……?」
「ええ、そうです。因みに、リーナがマレイアの師匠に当たりますね」


 人は見かけによらないとはまさにこういった状況をさすのかもしれない。


「大丈夫なのだ?」
「はい、平気です」
「近くに小型飛行艇を止めていますし、そこでゆっくりとお話しましょう」


 と、リーナが提案し。


「うん、そうしよう」
「いいと思うのだ」
『賛成です』
「はい」


皆が賛成し、リーナを筆頭に俺たちは小型飛行艇へと向かった。



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