神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第33話 王都ラルス

『それで、どうします?』
「うーん、どうしようか……」


 つい先日、酒場で情報収集のとき、炎神絡みの話と交換でこの周辺の情報を手に入れたのは良いのだが、一つ問題があった。


 なんでも、俺たちが目指していた王都ラルトルスがもうこの世に存在しないというのだ。それも、少し前に竜獣―世界7大獣の一角―が出現したことで半壊状態。さらに魔帝国からの攻めのダブルアタックにより、国土は焼土と化し、いまや、繁栄の都から没落都市となっているようだ。


 当然ながら王も死に、跡継ぎともども全滅したとのこと。
 それにより、ガリレア王国最大の首都、王都ラルトルスはもうこの世には存在しないとのことだ。
 そして、ガリレア王国も本拠地でもある最大都市を失い、大幅な戦力ダウンだとのこと。


「それでも、今もなお、維持していると。 それにしても、まさか、話には聞いてたが、魔族が攻めてくるなんてな」
『そうですね、でも、精霊神の活躍によりギリギリセーフだったのですから良かったです。
もしも、ガリレア王国が滅んでいたらあっという間に、人類はエルフ、魔族に滅ぼされていましたよ……本当、精霊神が居なかったら、人類史はもう終わっていてもおかしくはありえませんね』


 ほんと精霊神様さまだ。
 それにしても、王が死んでも国って維持できるものなのか?


「そういえば、王族が死んだけど、誰が管理しているんだ?」
『それは、風神ことカリア・ダンドリアさ、彼なら混乱を抑え、国を一つにまとめることが出来るからね。それに、ガリレア王国が圧倒的不利な状況から、なんとか耐えきったのは彼の力のお陰さ』
「へえ、って!? 誰!?」


 とうとつに会話に参加してきたのに驚く俺の目の前には誰も居ない。
 首を振り全方向を確認するも、誰も居ない。
 もしや、幽霊?


『ここ! ここだよ!』
「ここってどこだよ……それに誰なんだ?」
『ああ、そうか、君には見えないのか……でも、彼女には見えているようだね。 ってことは君も僕と同じ同種か』
『誰なの?』


 とりあえず、幽霊ではないようだ。
 で、ルシアは見えていることや、話から察するに、精霊が目の前に居るようだ。


『おっと、実体化をしたほうがいいか……』


 そう精霊が言うと、ルシアの時みたく、煙が集まってくる。そして、わずか数秒で人の姿になった。
 ルシアの変化スピードとは比べ物にならない。ということは、能力ではルシアの上を行くということか。


 ……外見は少年? 
 ニヤッと笑い、つり目な為、狐のようにも見える。いや、人の姿ではあるのだ。だから狐顔とでも言うべきか。


『さて、僕はバール。 風の精霊だ、因みに契約人はいるぜ、ってつっても、今この場には居ないけどな』
「バールか、俺はバルだ。 そして、こっちが俺の契約精霊でもあるルシアだ」
『よろしく? ……貴方とはどこかで会ったような?』
『さて? 気のせいでは?』
『そうなのかなあ? でも、確かに……』


 まあ、おそらくルシアの記憶違いだろう。
 それに、精霊なんてこの世には多く居るし、知り合いに雰囲気が似ていたのだろう。
 まあ、いいか。


「それで、バールは何をしているんだ? いきなり、俺たちの会話に入り込んできたということは暇人ならぬ暇精霊か?」
『いいやあ、これでも僕は忙しい身だよ、ただ、君たちが王都ラルトルスについて話していて、情報が足りなそうに思えたから教えてあげようと思ってね』
「そうか、それは助かる」


 さて、こいつの話は信じていいのだろうか。
 そもそも、精霊って嘘をつくのか?
 ルシアを見る限り正直者という感じに思えるが、他の精霊はどうか知らんしな。
 ……まあ、情報が合ってようが、間違っていようが、参考程度に聞いとくか。


「それで、カリア・ダンドリアだったか? こいつは強いのか? それとも、政治に強いのか?」
『ん? そうだなあ、両方かな。 カリアは年寄だけど、頭のキレはまだまだ一線を越えているし、実力も最強クラスだからなあ……まあ、天才ってやつだよ、彼は精霊神でもあるからね』
「なるほど、それだけ強者であり、頭もキレるなら半壊状態の国を維持することも可能ということか」


 それに、まさか精霊神の一角とは。
 だからこそ、魔族の攻撃により、半壊状態に陥ったガリレア王国を守りきり、なおかつ国を維持できたといわけか。
 だが、そうだとするなら、カリアは相当な実力を持つということだろう。
 それこそ。
 炎神、闇神。
 この二人よりも圧倒的な力の持ち主なのかもしれない。


 この二人とは既に会ったがどちらも強かった。となると、その上をいく存在か。
 なんだか、想像もつかない。


『それで、君たちはどこに行くのかい?』
「ああ、本当は王都ラルトルスに行く予定で行動していたんだが、それが、もう存在しないならどうするべきか……」
『うーん? あれ? 君たちはもしかして何の目的もなく旅をしているのかい?』


 目的?
 そういえば、なんで俺たちは旅をしているんだっけ。
 確か……。


「ああ、そうだった。 バール、王都ラルトルス以外に神獣を換金出来る場所ってないのかな?」
『神獣? それはまたレアものだな。そうだなあ、あれって、王国くらいしか買い取ってくれないしなあ、そもそも、神獣の死体なんて使い道もないし』
「え? そうなのか?」
『ああ、王国が買い取っている理由だって、町の平和を脅かす存在だから懸賞金を掛けているから、金と交換しているだけだし』


 そうなのか。
 てっきり、ゲームの世界みたいに神獣の死体を武器や道具、とかみたいに使うのかと思っていた。
 ただ、懸賞金を払ってただけなのか。ということは、王都ラルトルスが無い今、神獣を買い取ってくるところなんてあるのか?
 いや、でも、王都ラルトルスが買い取るということは、そのボスでもある、ガリレア王国なら買い取ってくれるかもしれない。


「この辺に、王都ラルトルス以外にガリレア王国の都市はないのか?」
『都市ねえ、王都ラルトルスに劣るけど、一つだけあるかな』
『それって、どこなの?』
「バール。 それは近いか?」
『ああ、すぐ近くさ』


 そして、バールは後ろを向き。
 何かつぶやいている。
 断片的にしか、聞こえないが、なんだか、訳の分からない言葉だ。


『……うん、じゃあ、行こうか』
「ん? なんだこれ?」
『え? なにこれ?』


 俺とルシア。
 そして、バール。
 三人は、空を飛んでいた。
 それも、物凄い勢いでだ。


「何が起きた? あ、あれ? バール!? いったいこれは、なんだ?」
『ええええっ? これって……もしかして?』


『ああ、心配はいらないよ、これでも、僕の能力操作は神にも劣らないからね……それに、ほら、見えた。あれが、新しい王都、ラルスさ!』


 風に舞い、空を移動し、着いた先には大きな都市が広がっていた。
 陣地の周りは、高い壁が覆い被さり、俺から見て真正面には、これまた巨大な門があり、多くの人々が武器を持っている。


「こ、これは? なんだ?」
『ああ、これが、新王都。カリアが作り上げた、再建の都、王都ラルスさ!』


 王都ラルス?
 それに、カリアが作り上げた、都?
 もしや、これが、王都ラルトルスが再建した国のことなのか?


『まあ、心配するな、神獣だってここなら、買い取ってくれるからさ!』




 
 その日、俺たちは奇妙な精霊に半ば強制的に連れられて、とある都市に来た。
 名は、王都ラルス。
 王都ラルトルスに変わる、新しい最強都市へと。
 

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