神獣殺しの精霊使い
第30話 入国許可証
カルカル塔。
世界で三番目に大きな構造物として人々に認知される巨大な塔。
かつては、世界最強とも謡われた【初代・無の精霊神】が拠点として使用されたと噂されている最古の建造物でもある。
そんな塔には特別な魔石を加工されて作られているのもあり、未だに傷一つ負わない、不変の塔であるため、今もなお、貴重な住居として、コレクター達は高値で取引をしていた。
当然ながら、そんな塔の最上階、遥か遠くまで見通せる360度ガラスで覆われた巨大な部屋は当然ながら、人気は高い。
ただ、【無の精霊神】が消えてからは、住居用では無く、とある別の役割として使われており、国が保有していた。
「おい、今日も異常はねえのか?」
塔の頂上に位置する、遠くまで見渡せる一面窓ガラスで囲まれた部屋にリュウヤは入ってきた。
髪色は白でありながら、肌は黒いため、より白髪が目立っている。目は黒く、鼻立ちも整っており、平均以上はあるだろう。
服装は、紺色の作業服と地味な格好だ。だが、リュウヤの腰には光を反射する一刀の短剣が備え付けられており、見た目と反して異質に見える。
だが、当の本人は気にしないのか、どうどうと近づいてくる。
「ああ、今日も平和なもんだ」
と、そんな彼に部屋の中心部に座る僕はため息交じりに返した。
僕とリュウヤ以外には誰もいないカルカル塔、それが王国防衛課の居場所である。
普段は他にもメンバーは居るのだが、最近テロの被害にあったのもあり、今この場には僕とリュウヤ、二人がいるのみだ。
そんな僕の手元には大量の書類がドンっと置いてあり、見るだけでも嫌になってくる。
「もしかして、それ全てが入国検査証の手続き書なのか?」
僕のすぐ側の椅子に豪快に腰かけたリュウヤは、机の大量の紙の中から一枚無造作に掴み目を向けると、僕と同じようにため息をついた。
「はあぁっあああああ! ……なんで、事前に取り組んどかねえんだよ! おかげで俺までやらなきゃいけねえじゃねえか……」
本来は入国許可の申請を担当するのは僕の仕事なのもあり、リュウヤは怒り狂う。
まあ、仕方ないかもしれない。
休み明け出勤した途端にこんなめんどい仕事があったらそりゃあイラッとするもんだ。
でも、なあ。
「ごめん、色々とやることがあってさ……」
「だからって…」
「……炎神に頼まれたんだよ、辺り一帯を砂漠にしてほしいって、それも理由も言わずにだ、ほんと、僕自身ですらよくわからないんだよ」
「砂漠にするだと? そんなことをして、炎神は何がしたかったんだろうな?」
「さあ? それはいくら聞いても教えてはくれなかったんだ」
「まあ、どうせ、いつものくだらねえお遊びってやつだろ? まったく、最強なくせに何でトレインなんかに頼むんだろうなぁあ?」
炎神の実力は世界最高位に位置する最強の精霊使いだ。ただし、炎神は気まぐれな者として有名である、そんなわけで何故、炎神が砂漠にしてほしいなんて頼んできたのかは想像もつかない。
それこそ、何か、とても凄いことに加わっていたのかもしれないが。
まあ、今はそんなことを考えるよりも目の前にある、膨大な入国許可書にハンコを次々と押していく。
隣をチラッと見てみると、リュウヤも文句は言いつつだが、手伝ってくれていた。
そして、半分ほど押した頃、僕は一枚の紙の前で指を止めた。
名は、バルーシュ。
いたって、普通の冒険者だ。同行人は精霊のみ。
だが、この名は、依頼されたときに炎神がボソッと呟いていた人物と同じ名だったはず。
炎神が興味を示すくらいだ、もしかしたら、相当な腕前なのかもしれない。
「……」
しばらく考え込む僕だが、決めた。
「なあ、リュウヤ、さっきの話なんだけど……」
僕たちは仕事を切り上げ、調査へと向かった。
炎神が興味を抱いたかもしれない少年、バルーシュのもとへと。
☆☆
入国許可書を出してから、早一日。
俺たちは、国の入り口付近に建てられたホテルの一室で、入国許可書が発行されるのを待ち続けていた。
残念なことにこの国は、ラルトルス国では無く、別の国だった。
それもつい先日、敵対している帝国のスパイが自国のホテル内で自爆テロを決行したということもあり、いまだにテロリストを再発させないという名目のもと、ホテルに監禁……、束縛されていた。
まあ良いことに、三食付だ。そのかわり、部屋からの外出は禁止ではあるのだが。
そして、俺の隣に位置するベッドの上にはルシアが寝転がっていた。
流石の長寿の精霊とはいえ、一日近く部屋から出られないというものはこたえるみたいで、先ほどから何を思ったのか、倒立の練習をしている。
具体的に言えば三点倒立、頭と手の力を用いた技の練習をしている。
正直、なんの役にも立たない。それこそ、暇つぶしだ。
一方、俺はというと、複数の力の複合技の練習に励んでいた。
右手には炎、左手には風。
この二つの力を融合させべく、練習に取り組んでいる。
切っ掛けはルシアが、
『そういえば、初代無の精霊が最強と謡われたのは、彼だけが複数の力を融合させることが可能だったからなんですよ』
と、何気なく言ったからだ。
そのため、二人とも集中と継続。
これをひたすら続けていた。
トン、トン、トン
そんな中、部屋のドアが三回ノックされた。
そして、ドアが開き一人の男が入ってきた。
肌色は白く、病欠にも見えるが、全身を見てみると思った以上に筋肉が付いている。
そして、表情はというと、どこか警戒しているように見えた。
まあ、つい先日テロにあったばかりなのだ、警戒するのも仕方ないかもしれない。
「……あの、何かようでしょうか?」
とりあえず、黙り続けたままだと何も話は進まないと思い、なぜか、俺から聞いてみる。
すると、男は右手を腰のポーチに入れたかと思うと、一枚の長方形の紙を二枚取り出すと、俺たちに渡してきた。
『(どうやら、入国許可証みたいです)』
「(へえ、これがか……)」
入国許可書は上等な生地を使用しているのか、力を込めても折れない。そして、真ん中には、俺の顔写真と名前、契約精霊の名前が書かれている。
チラッと隣のルシアのを見てみるも、どうやら同じようであり、違うことと言えば、名前が逆になっているということくらいだ。
「入国許可証を無くした場合は、国の役場まで来てください、でないと、国外に出ることは不可能となりますので……あと、国内での武器の使用は禁止となっており、万が一使用した場合は捕まえることとなっておりますので、お気をつけください」
「はい、わかりました」
「では、この扉を潜り抜け、右方面に向かいますと入り口となりますので」
男の指示に従い歩くと数分程度で、外へと出ることができた。
そして、目の前には、町が広がっており、多くの人々で賑わっていた。
「じゃあ、腹も減ったし何か食べるか……」
屋台の匂いにつられ、ついつい俺たちは、買い食いをしていく。
その中に、ルシアお気に入り、クレープもあったようで、終始笑顔で俺たちは、真っ直ぐな商店街を観光した。
それにしても、未だに目的地のラルトルス国には着けない。
それこそ、何か呪いでもかかっているのだろうか。
それか、目的地と反対方向に向かっているのかもしれない。
情報収集。
ひとまずは、それをしなくちゃならないだろう。
このまま、適当に旅を続けても、いつまで経ってもたどり着けなければ意味がない。
ヒートたちも報奨金が届くのを今か今かと待っているはずだし。
「なあ、酒場ってこの近くにないのか?」
てきとうに町を歩く人に訪ねてみる。
「旅人さんですか? 残念ながら子どもにはお酒は出せないですよ?」
「いや、そうでは無くて、情報収集でもしようかと思いまして……」
「ああ、そういうことなら、この道を真っ直ぐ行って、次の交差点を右に曲がれば、大き目な店がありますよ」
「ありがとうございます」
とりあえず、俺たちは情報収集のため、酒場へと向かった。
世界で三番目に大きな構造物として人々に認知される巨大な塔。
かつては、世界最強とも謡われた【初代・無の精霊神】が拠点として使用されたと噂されている最古の建造物でもある。
そんな塔には特別な魔石を加工されて作られているのもあり、未だに傷一つ負わない、不変の塔であるため、今もなお、貴重な住居として、コレクター達は高値で取引をしていた。
当然ながら、そんな塔の最上階、遥か遠くまで見通せる360度ガラスで覆われた巨大な部屋は当然ながら、人気は高い。
ただ、【無の精霊神】が消えてからは、住居用では無く、とある別の役割として使われており、国が保有していた。
「おい、今日も異常はねえのか?」
塔の頂上に位置する、遠くまで見渡せる一面窓ガラスで囲まれた部屋にリュウヤは入ってきた。
髪色は白でありながら、肌は黒いため、より白髪が目立っている。目は黒く、鼻立ちも整っており、平均以上はあるだろう。
服装は、紺色の作業服と地味な格好だ。だが、リュウヤの腰には光を反射する一刀の短剣が備え付けられており、見た目と反して異質に見える。
だが、当の本人は気にしないのか、どうどうと近づいてくる。
「ああ、今日も平和なもんだ」
と、そんな彼に部屋の中心部に座る僕はため息交じりに返した。
僕とリュウヤ以外には誰もいないカルカル塔、それが王国防衛課の居場所である。
普段は他にもメンバーは居るのだが、最近テロの被害にあったのもあり、今この場には僕とリュウヤ、二人がいるのみだ。
そんな僕の手元には大量の書類がドンっと置いてあり、見るだけでも嫌になってくる。
「もしかして、それ全てが入国検査証の手続き書なのか?」
僕のすぐ側の椅子に豪快に腰かけたリュウヤは、机の大量の紙の中から一枚無造作に掴み目を向けると、僕と同じようにため息をついた。
「はあぁっあああああ! ……なんで、事前に取り組んどかねえんだよ! おかげで俺までやらなきゃいけねえじゃねえか……」
本来は入国許可の申請を担当するのは僕の仕事なのもあり、リュウヤは怒り狂う。
まあ、仕方ないかもしれない。
休み明け出勤した途端にこんなめんどい仕事があったらそりゃあイラッとするもんだ。
でも、なあ。
「ごめん、色々とやることがあってさ……」
「だからって…」
「……炎神に頼まれたんだよ、辺り一帯を砂漠にしてほしいって、それも理由も言わずにだ、ほんと、僕自身ですらよくわからないんだよ」
「砂漠にするだと? そんなことをして、炎神は何がしたかったんだろうな?」
「さあ? それはいくら聞いても教えてはくれなかったんだ」
「まあ、どうせ、いつものくだらねえお遊びってやつだろ? まったく、最強なくせに何でトレインなんかに頼むんだろうなぁあ?」
炎神の実力は世界最高位に位置する最強の精霊使いだ。ただし、炎神は気まぐれな者として有名である、そんなわけで何故、炎神が砂漠にしてほしいなんて頼んできたのかは想像もつかない。
それこそ、何か、とても凄いことに加わっていたのかもしれないが。
まあ、今はそんなことを考えるよりも目の前にある、膨大な入国許可書にハンコを次々と押していく。
隣をチラッと見てみると、リュウヤも文句は言いつつだが、手伝ってくれていた。
そして、半分ほど押した頃、僕は一枚の紙の前で指を止めた。
名は、バルーシュ。
いたって、普通の冒険者だ。同行人は精霊のみ。
だが、この名は、依頼されたときに炎神がボソッと呟いていた人物と同じ名だったはず。
炎神が興味を示すくらいだ、もしかしたら、相当な腕前なのかもしれない。
「……」
しばらく考え込む僕だが、決めた。
「なあ、リュウヤ、さっきの話なんだけど……」
僕たちは仕事を切り上げ、調査へと向かった。
炎神が興味を抱いたかもしれない少年、バルーシュのもとへと。
☆☆
入国許可書を出してから、早一日。
俺たちは、国の入り口付近に建てられたホテルの一室で、入国許可書が発行されるのを待ち続けていた。
残念なことにこの国は、ラルトルス国では無く、別の国だった。
それもつい先日、敵対している帝国のスパイが自国のホテル内で自爆テロを決行したということもあり、いまだにテロリストを再発させないという名目のもと、ホテルに監禁……、束縛されていた。
まあ良いことに、三食付だ。そのかわり、部屋からの外出は禁止ではあるのだが。
そして、俺の隣に位置するベッドの上にはルシアが寝転がっていた。
流石の長寿の精霊とはいえ、一日近く部屋から出られないというものはこたえるみたいで、先ほどから何を思ったのか、倒立の練習をしている。
具体的に言えば三点倒立、頭と手の力を用いた技の練習をしている。
正直、なんの役にも立たない。それこそ、暇つぶしだ。
一方、俺はというと、複数の力の複合技の練習に励んでいた。
右手には炎、左手には風。
この二つの力を融合させべく、練習に取り組んでいる。
切っ掛けはルシアが、
『そういえば、初代無の精霊が最強と謡われたのは、彼だけが複数の力を融合させることが可能だったからなんですよ』
と、何気なく言ったからだ。
そのため、二人とも集中と継続。
これをひたすら続けていた。
トン、トン、トン
そんな中、部屋のドアが三回ノックされた。
そして、ドアが開き一人の男が入ってきた。
肌色は白く、病欠にも見えるが、全身を見てみると思った以上に筋肉が付いている。
そして、表情はというと、どこか警戒しているように見えた。
まあ、つい先日テロにあったばかりなのだ、警戒するのも仕方ないかもしれない。
「……あの、何かようでしょうか?」
とりあえず、黙り続けたままだと何も話は進まないと思い、なぜか、俺から聞いてみる。
すると、男は右手を腰のポーチに入れたかと思うと、一枚の長方形の紙を二枚取り出すと、俺たちに渡してきた。
『(どうやら、入国許可証みたいです)』
「(へえ、これがか……)」
入国許可書は上等な生地を使用しているのか、力を込めても折れない。そして、真ん中には、俺の顔写真と名前、契約精霊の名前が書かれている。
チラッと隣のルシアのを見てみるも、どうやら同じようであり、違うことと言えば、名前が逆になっているということくらいだ。
「入国許可証を無くした場合は、国の役場まで来てください、でないと、国外に出ることは不可能となりますので……あと、国内での武器の使用は禁止となっており、万が一使用した場合は捕まえることとなっておりますので、お気をつけください」
「はい、わかりました」
「では、この扉を潜り抜け、右方面に向かいますと入り口となりますので」
男の指示に従い歩くと数分程度で、外へと出ることができた。
そして、目の前には、町が広がっており、多くの人々で賑わっていた。
「じゃあ、腹も減ったし何か食べるか……」
屋台の匂いにつられ、ついつい俺たちは、買い食いをしていく。
その中に、ルシアお気に入り、クレープもあったようで、終始笑顔で俺たちは、真っ直ぐな商店街を観光した。
それにしても、未だに目的地のラルトルス国には着けない。
それこそ、何か呪いでもかかっているのだろうか。
それか、目的地と反対方向に向かっているのかもしれない。
情報収集。
ひとまずは、それをしなくちゃならないだろう。
このまま、適当に旅を続けても、いつまで経ってもたどり着けなければ意味がない。
ヒートたちも報奨金が届くのを今か今かと待っているはずだし。
「なあ、酒場ってこの近くにないのか?」
てきとうに町を歩く人に訪ねてみる。
「旅人さんですか? 残念ながら子どもにはお酒は出せないですよ?」
「いや、そうでは無くて、情報収集でもしようかと思いまして……」
「ああ、そういうことなら、この道を真っ直ぐ行って、次の交差点を右に曲がれば、大き目な店がありますよ」
「ありがとうございます」
とりあえず、俺たちは情報収集のため、酒場へと向かった。
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