神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第10話 神獣との遭遇 

 男は精霊を喰っていた。
 男が喰えば喰うほど精霊のボールは徐々に小さくなっていく。
 精霊は異常に気づいたのか逃げ出そうとするが男の両手に挟まれ逃げられない。
 それならばと、精霊は炎を吐いて攻撃するが男は気にせずに喰い続けた。
 そして精霊は消えた。


 ……男に喰われたんだ。そう頭では理解していても、俺は男が精霊を喰う間何も出来ずにいた。
 ヒートに助けを求めたり、町まで走って逃げることも出来たはずだ。
 なぜなら男が精霊を喰い終わるのに約10分以上かかったからだ。
 だが俺はかつてない恐怖で足がすくみその場で固まっていた。
 この男にはそれだけの覇気があった。
 いや恐怖を与える力が。


 ……男は精霊を喰い終わると後ろを向いた。
 当然男の先には俺が居るわけで目が合う。
 男は俺を見てくる。だが先ほどとは違く殺意を持った目だ。
 男は右手を前に突き出し何かを呟いた。
 直後男の右手から火の玉が飛び出し俺の方に向かってきた。
 ああ、死ぬのかな。
 この世界で死ぬことに悔いはないがもう少しだけ生きていたかった。
 まだ死にたくないな、この世界でなら頑張れると思ったんだけどな。
 死にたくない。
 ……俺は死にたくはない。
 ……だれでもいいから……助けてくれ。


 と、そう思った瞬間後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「シールド」


 火の玉が俺にぶつかる寸前、急に炎壁が現れ火の玉とぶつかり消えた。
 そしてエネルギーがぶつかったためか辺り一面が煙で包まれる。
 これはいったい?
 ……どうしようか悩んでいるといきなり右腕をつかまれた。もしや男が俺を殺そうとしているのか。
 だが、俺の耳には聞きなれた声が聞こえた。


「逃げるぞ」
「ああ……はい」


 俺は謎の声の主に引きずられるような形で走る。
 白い煙を抜けると一人の男性が俺の右腕を引っ張っているのがわかった。
 ヒートだ。


「大丈夫か、走れるか」


 ヒートは早口で俺に訪ねてくる。
 ヒートの表情は青く今にも死にそうな顔をしている。
 それだけ男は危険な存在なのだろう。


「だ、大丈夫です。それよりあいつはいったいなんですか?」
「あいつか、おそらくは神獣だ」
「神獣がなんでここに」
「会った時に言っただろ、仕留め損ねた神獣がこの地方に逃げて来ているって」
「ああ、そういえば」
「急いで逃げるぞ」
「はい」


 俺は転びそうになりながらも懸命にヒートについていく。
 ヒートは町とは反対の方向に足を運んでいる。
 だがヒートは国道ではなくけもの道を進んでいく。
 ……足元には草や石、木の根や枝が落ちていて走りづらい。前を見ても全長2mはあるだろう植物でよく見えない。
 ふむ。神獣から逃げるには最適な道かもしれない。
 だが、木や草が体をひっかいたのか体中のあらゆるところが傷ついていく。
 走りながらヒートになぜ町とは逆の向きに進んでいるのかを聞いてみるか。
 だって町には守護木のユグドラシルがあるのだ。
 門さえ抜ければ安全だろう。




「町には逃げないんですか、あの町ならユグドラシルが居るし安全じゃないですか?」
「無理だ、神獣を止めることはユグドラシルにはできない」
「なんで……ユグドラシルは町に危害を加えるモノを入れないようにすることができるはずじゃあないんですか、あの門番たちみたいに」
「ユグドラシルが止めることが出来るのは人間だけだ。人間もどきの神獣は止めれない」
「そうですか……そういえば神獣は追ってきているんでしょうか?さっきから後ろを見ても見えないんですが」
「わからない、だが一つだけ言えることは追いつかれたら殺されるのは間違いない」
「やっぱり、殺されるんですか。だから奴は俺を殺意の目で見てきたんだ。でもなんで俺たちを殺そうとしているんですかね」
「さあな、俺もよくは知らない」
「そうですか」


 ふむ。神獣に追いつかれたら殺されるのは間違いないらしい。まあ、じゃなきゃあんな殺意のこもった目で睨んではこないか。
 ……それにしても神獣は討伐隊によって力が弱っていたはずだ。あれで弱まっているなら本来の力はどれほどのものなのか見当も着かない。
 いや。もしかしたら精霊を食べたことが関係しているのかもしれないな。
 最初歩いてきたときはあんなにフラフラしていたのに喰い終わるととてつもない存在感を放っていた。
 ということは、神獣は精霊を食べると力を回復させることが出来るのかな?
 いや、まだ確証は無い。
 ……でもなあ。


「……あの、そういえば神獣って精霊を食べるんですか?」
「うん、そうだが……もしかしてさっきの神獣は祠に居た精霊を食べたのか?」
「はい」
「そうか……」


 ヒートの顔色がさらに悪くなったような気がする。
 それに走る速度も上がっている。


「神獣が精霊を食べるともしかして強くなるんですか?」
「ああ、神獣は精霊を食べることで精霊の力を吸い取り自分の力とすることが出来るんだ。例えば炎の精霊と水の精霊を食べたら両方の力を使うことが出来るようになる」
「二つも使えるんだ」
「いや、食べれば何でも使えるようになるぞ。今まで6種類全ての精霊を食べることでとんでもない強さを得た神獣がいたしな」
「へえ、凄いですね。想像もつきません」
「ああ、確かにな……でも最強と言うわけではないぞ。その6種類使えた神獣も初代無の精霊神に倒されたらしいからな」
「無の精霊神って確か6種類全ての力を使うことが出来る歴代屈指の実力者でしたっけ」
「ああそうだ、まあ今となっては後継者が誰もいないから実際には居なかったのではと言われてるけどな」
「まあ、確かに全ての力を使えるなんてチートですもんね」
「チート?」
「ああ、ズルをすることをチートって言うんですよ」
「ふーん、なるほどなあ、最近はそんな言葉があるのか……」
「まあ、それよりもこれからどこに逃げるんですか」
「ああ、特には決めてないな」
「えっ?」
「どうした?」
「いや、えっ?てっきり逃げる当てがあるのかと」
「残念ながら無いな、だが神獣はそこまで足は速くは無いしこのまま走り続ければいつか興味を失い追いかけなくなるだろう」
「そうですか……この近くにはリタリア以外に町は無いんですか?」
「うーむ、そうだな……あることはあるけど行く手段は無いな」
「ちなみにどこにあるんですか?」
「初めて会ったときに言ったろ?龍の巣と呼ばれる山を通らなければ行けない都市が近くにあることはあるって。だけど2人であの山を越えるのは絶対に無理だ。それこそ精霊神クラスじゃないと通るのは不可能だな」
「ああ、そういえば言ってましたね」
「まあ、大丈夫だろう獣神も追いかけてこないし」
「本当にそうでしょうか?」
「うん?なぜそう思う?」
「いや、さっきから後ろからいやな気配を感じるんですよね」
「嫌な気配?どんな感じの?」
「なんていうか、暗く冷たいような感じの気配ですね」
「暗く…冷たい…」
「たぶん、気のせいだとは思いますけど」
「ふーむ。いや、まさか、いや、でもなあ」


 ヒートは考え込んでいるのか突然立ち止まった。
 さらに顔色が悪くなったような気がしないでもない。
 ヒートはズボンのポケットに手を突っ込み一枚の紙を取り出した。
 紙には様々な色の円が何重にも重なっており複雑な模様である。


 ヒートは地面に座りその場に紙と4つの石を置いた。
 そして昨日俺に見せた魔法陣みたいに手を紙に乗せた。
 すると、紙が真っ白な白紙になり、赤で記された点と青で記された点が出現した。


「これをみたことはあるか?」
「ないです」
「これはだな、半径10キロ圏内に居る生き物の位置を示している魔法の地図だ。これを使えば半径10キロ圏内に神獣が居た場合赤で表示させることができる」
「へえ、便利ですね」
「ああ、だけど高価な物だから滅多なことでは使わないんだけどな」
「因みにどれくらいの値段なんですか」
「ああそうだな、だいたい5万アルスくらいだな」
「5万アルス?!」


 ヒートが言ってた限りではこの世界の平均年収が10万アルスだからその半分か。
 現実世界だと200万くらいか、とんでもなく高いな。


「そしてこれを見てみろ」


 ヒートが指さす場所には赤い点があった。
 ということは……。


「神獣は追いかけてきているようですね」
「ああ、どうやらその通りみたいらしい」
「どう…するんですか。このまま逃げますか」
「ふーむ。」
「他に何か考えがあるんですか?」
「いや、あくまで言い伝えだから本当にあるかはわからないが、この近くには野生の精霊が住んでいるというのを聞いたことがあるのを思いだしてな」
「野生の精霊?それは上級精霊とか神級精霊ということですか?」
「ああ、本当かはわからんが。だが俺たち二人が生き残るためにはその精霊と契約を結び戦うしか方法は無いな」
「戦うですか、でもどっちが契約をしますか?確か精霊は一か所に一体しかいないんですよね?」
「ああ、そうだが、バル、お前が契約しろ。俺は既に炎の精霊と結んでいるからな」
「あれ、ヒートは戦えないんですか?」
「ああ、俺の精霊は中級精霊だ。俺がいくら頑張っても神獣には勝てない」


 ふむ。ヒートは炎の精霊と契約を結んでいたのか。でも中級精霊か。確か中級精霊は直接契約をする精霊核人だったが戦うには向いてないって言ってたな。
 それこそ鍛冶職人とかの技能には向いているが攻撃力などの一瞬のうちに作り出す攻撃エネルギーは上級や神級に比べれば弱いって言ってたな。
 まあ、俺も精霊の力が欲しいと思っていたしちょうどいいか。


「わかりました。それで場所とかはわかりますか?」
「大まかな場所ならわかるぞ、この地図を見てくれ」
「はい」


 俺は地面に置いてある地図を見てみる。そこには赤の点、青の点がずらっとありチカチカ点滅していた。
 その中に一つだけ赤に成ったり青に成ったりと変な点が一つあった。


「……この色が変わっているのが場所ですかね?」
「ああ、そうだ。」
「ずいぶんとここから近いですね。これなら15分程度走れば着きますかね」
「ああ、多分15分もあれば着くだろう。だが先に一つだけ言っておくからな」
「はい?なんですか?」
「いやな、確かにそこに精霊は居るが契約できるとは限らないからな」
「えっ?なんでですか?」
「野生の精霊と契約するには波長の相性が良くないと無理なんだ」
「波長の相性?」
「簡単に言えば魔力の質だ。質が良ければいいほど精霊は契約しやすくなる。逆に質が悪ければ精霊と契約は出来ない」
「そうなんですか、俺の魔力の質はどうなんでしょう?」
「さあな、俺は精霊ではないからお前のが質がいいかはわからんな」
「ですよねー」


 ……まあとにかう精霊が居るとされている場所に行ってみるか。このまま逃げ続けるのは体力的にも無理だし、誰かが神獣を倒さないと犠牲者が出る可能性があるしな。
 魔力の質がいいことに期待するしかないな。


「それじゃあいきましょうか、野生の精霊のところに」
「ああ、そうだな。」


 俺とヒートは着々と近づきつつある神獣を対峙するために必要な精霊と契約をするために地図の場所に向かうことにした。
 契約できなかったら終わりだが、期待するしかない。


「待ってろよ、精霊」


 俺はヒートに聞こえないように小さく呟き拳を握りしめた。
 神獣は俺が倒すんだ!!





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