神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第8話 2人の家 

 2人が連れていく先には一軒の家があった。
 ほぼ一般的な大きさの2階建ての家だ。


「ほんとうにいいんですか、お世話になっても?」


 俺は2人に最終確認をする。いくら二人がいいと言っても他の家族がいるなら俺は迷惑だろう。
 その時は野宿するべきかもしれない。
 それくらい俺は2人に迷惑をかけているつもりだ。だからこれ以上は迷惑を掛けたくない。


「……はあ?さっきから何回も言ってるだろ。しばらく住んでもいいぞって」
「いや、でも家族の方とかに確認しなくて……」




 俺は遠慮気味に俯きながら言うが2人は三度大丈夫だと力強く言った。




「この家の住人は俺とリアだけだ、何も心配するな」






 ……ヒートの案内に従い、俺は家の2階にある部屋の一室に居た。
 リアは眠たいらしく自室に行ってしまった。


「バルは眠くはないかい?」
「大丈夫です」
「そうか、じゃあ、あと少し付き合ってもらうぞ」




 案内された部屋は6畳ほどだろうか。部屋の中にはソファと机が一組置いてあるだけの殺風景な部屋である。
 だが壁際にはたくさんの剣がかかっていた。総数は20ほどだろうか。
どれもこれも剣の柄頭には宝石みたいなものが組み込まれて証明の明かりに照らされ光り輝いていた。
 色は赤、青、緑、紫と色々である。だが見た目からしてとても高そうな逸品である。


「どうだ、立派な剣ばかりだろ?」


ヒートは驚く俺に自慢げに聞いてくる。


「ええ、すごく綺麗だし強そうな剣ですね」
「おお、わかるか」
「ええ、どの剣もなんだか威圧感がありますよ」
「……」


 俺がそう言うといきなり、ヒートは黙ってしまった。
 あれ、可笑しなこと言ったか?
 いや、大丈夫なはずだ。
 だけど、いきなり黙るしちょっと怖いな。




「……ふ、ふはははははっ」


 心配する俺だったが、ヒートは大きな声で笑い始めた。
 いったいヒートはどうしたんだ?




「あの、どうして笑ったんですか?」
「ああ、実はなこの部屋に置いてある剣は全て俺が作ったんだ。だから褒められてうれしくなってな」
「そうだったんですか、ということはヒートさんは鍛冶職人だったんだ」
「ああ、そうだ。と言っても商人の仕事もしてるし、たまには戦士としての仕事もしてるがな。だが、まあ鍛冶職人がメインだな」
「へえ、そんなたくさんの事をしているなんてすごいですね」
「そんなことねえよ……そうだバル」
「はい、何でしょうか?」
「君は何の精霊を使えるんだ?」
「精霊?」
「ああ、君も見た感じ10歳は超えてるだろ?」
「はい、今年で10になります」
「精霊は9歳の誕生日に儀式として授けられるんだ。だから君も何らかの精霊を持っているんじゃないのか?」


 精霊か、俺がこの世界に来てからまだ1週間も過ぎてない。
 当然この世界には住んでいなかった。だから精霊の儀式はしていないんだよな。
 そもそも精霊ってそんな簡単に使えるようになるのかよ。




「ああ、もしかしてだが精霊に関しても記憶はないのか?」
「はい、そうみたいです」
「ふーむ……じゃあちょっと待っていてくれ。今下の部屋から精霊を持っているか確認をする魔法陣を持ってくるから」
「魔法陣とは?」
「うん?魔法陣か、そうだな見本を見せながらのほうがわかりやすいか。ちょっと待ってくれ、今すぐ持ってくるから」




 そう言うとヒートは部屋を出て下の部屋に行ってしまった。
 それにしても、精霊か。俺は儀式をしていないから魔法陣で確認をしても何も出てこないと思うけどもしかしたらこの世界に来るときに授かってる可能性があるし、何にせよ楽しみだな。
 それにしても魔法陣までこの世界にあるのか。
 ゲームでは魔法陣は無かったような気がする。ただ単に覚えていないだけかもしれないが、もしも本当にゲームには無いとするならこの世界は似ているだけで別の世界と言うことになるな。
 まあ、今の時点では情報が少なさ過ぎて確証はない。
 まあ、そのうち何かわかるだろう。
 ……多分。




「またせたな、これが魔法陣だ」


 考えているうちに気づくとヒートがドアを開け部屋に入っていた。
 右手には一枚の紙を持っていた。紙には複雑な絵が描かれていた。


「それが魔法陣ですか?」
「ああ、そうだ」


 ヒートは紙を机に置きかみの4端に丸い宝石みたいなものを乗せた。
 直後宝石は光り輝き、そして魔法陣の絵も一緒に光り始めた。


「魔法陣を使うのには精霊石と呼ばれるエネルギーを秘めた石が必要なのだ。それじゃあバル、紙の上に右手を乗せて見ろ」
「手を乗せるのですか?」
「ああ。精霊を宿しているのならば置くことで手の真上にその精霊のシンボルの色が浮かび上がるのだ。例えば炎の精霊なら赤、水の精霊なら青と言った具合にな」
「なるほど」


 

 俺は魔法陣の真ん中付近に手を置いてみる。
 ……?
 あれ、変化が無い。と言うことは。


「どうやら精霊を持ってないみたいです」
「そうみたいだな。だがおかしいな、普通は君くらいの年齢なら持っているものなんだが?」
「そうなんですか……もしかして記憶が無いことと関係しているのかな」


 俺は精霊が無いことを不自然だと思われないように適当に言ってみる。
 だがヒートは真面目に受け取ったのか、なるほどなと言い考え始めた。


「確か……精霊は人の記憶を書き換えることで精霊を使えるようにする……みたいな噂があるからその通りなのかもしれんな」
「記憶を書き換えるですか?」
「ああ。なんというかだな、通常人は精霊から力を引き出すことは出来ないような構造になっている。だが精霊と契約を結ぶことで力を引き出せるようになる。だが君は不思議に思うだろ?なぜ契約を結ぶと使えるようになるのかと?」
「ええ、そうですね。契約を結ぶと何か変わるのでしょうか……ああ、それで記憶ですか」
「俺も詳しくは知らんが、精霊は人の記憶を書き換えることで精霊の存在に近くすることで力を与えているらしい」
「なるほど、と言うことは記憶喪失と関係あるかもしれないですね」
「ああ、だが例え今の君が記憶を思い出しても精霊は使えないぞ。記憶を失うと精霊との契約は途絶えるんだ。そして2度とその精霊とは契約を結べないからな」


 そう言うヒートの目はどこか遠いところを見ているようだ。
 昔の事を思い出しているのだろうか。


「それでだ、どうする?」
「ん?どうするとは?」
「ああ、君は精霊と契約をもう一度結ぶか?結ぶなら精霊が居る祠まで案内するが」




 ふむ。ヒートには嘘をついたが俺は精霊と契約を一度も結んではいない。だから精霊がどのようなものなのかは正直興味がある。
 それに、これから先この世界で生き抜くためには精霊の力おそらく必要になるだろう。
 なにせ、この世界の戦争では精霊が大活躍していると移動中ヒートは言っていた。
 ならば、契約をしといた方がいいかな。


「はい、お願いします」
「ああ、任せとけ。それじゃあ明日出かけるとしよう。それでは今日はゆっくりと休んでくれ」
「はい、色々とありがとうございました」
「はは、別に敬語なんて使わなくてもいいぞ、俺が勝手にやってるだけだからな」
「でも……」
「よしわかった。それなら君が将来、儲かっていたらその時はうちに来て剣の1本でも買ってくれ」
「わかりました……因みにどれくらいするんですか?」
「うーんそうだな、モノによっては違うがだいたい10万アルスだな」
「10万アルスですか、えーと何か比べる物はありますかね。正直どれくらい高いのかわからなくて」


 この世界ではアルスが通貨の名前なのか。
 ……それにしても10万アルスか、どれくらいの値段なのか見当もつかない。
 日本円の10万円ではこの剣は買えないよな。だったら1アルス、10円くらいなのかな?
 それなら10万アルスは日本円で100万円となるし別に変ではないか。


「そうだな、この世界の平均年収が10万アルスくらいだから、高いと言えば高いのかなあ」
「へっ?……そんなに高くて売れるんですか?」
「ああ、売れるぞ」


 ちょっと待てよ、剣一本が年収と同じ?
 と言うことはかなり高額なんじゃないか?
 俺が住む日本の平均年収は確か、400万円だったはずだ。
 物価が仮に同じだとするなら10万アルスは400万円ということになるのか。
 それなら1アルスは40円なのか。
 ……この世界で生きる事さえ難しそうなのに買えるのかな。
 ああ、でもヒートは将来稼いだらでいいと言ったしなんとか頑張るか。


「うん、大丈夫か顔が真っ青だぞ?」
「はは、もともとですよ」
「そうは見えんが……剣を今すぐ買えと言ってるわけではないからな、将来でいいからな」
「はい、できるだけ早く買います」
「はあ、まあがんばれ。今日はもう寝ろ、明日精霊の祠に行くぞ」
「はい、それでは明日はお願いします」
「ああ。そうだ寝床は隣の部屋を利用してくれ、じゃあまた明日だ」


 そう言うとヒートは部屋からでてしまった。
 自分の寝床に行ったのだろう。階段がきしむ音がかすかに聞こえる。
 ……俺も寝るか。
 ヒートは確か隣の部屋だと言ってたな。
 今いる部屋から出て見て右側が壁だから左側にある部屋か。
 コンコン。
 一応ノックはするが誰もいないのか反応は帰ってこない。
 よし、入るか。


 入ってみるとそこにはベッドが一つ置いてあった。
 近くには椅子とテーブル、それに本がたくさんしまわれた本棚が置いてあった。
 ……何気なく俺は本を一冊とってみる。だが何が書いてあるのかはわからない。
 日本語ではないか。どちらかというと英語みたいな感じだが。
 まあいいか。俺は本を元の位置に戻しさっそくベッドに横たわる。
 久しぶりに気持ちよく寝れそうだ。
 思い返せばこの世界に来てから硬い地面で寝てばかりだったな。
 人生頑張ってればなんとかなるもんだな。
いきなり映画館からこの世界に飛ばされたときはどうなることやと思ったが今の所順調だな。
 ……それにしてもこの世界は不思議なことばかりだ。
 魔法陣、精霊、ステータス、神獣。
 どれも現実世界では無かったものだ。
 そして俺が欲しかったものばかりだ。
 ……案外、俺はこの世界に来て良かったかもしれない。


 とりあえずヒートの言う通り明日は精霊と契約し近くのモンスターを倒して稼ぐか。
 精霊には未だ会ってないから不安だが、ヒートの言葉を聞くかぎり大丈夫だろう。
 できれば全ての力を持つ精霊が欲しいがそんなのいるわけが無いし、できたら炎の精霊がいいな。剣に炎をまとわせて戦ってみたいし。




 ……寝るか。


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