二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜

ユユセ

第6話.洞穴



『ドゴッッ』


その音と共に、体がゴツい鱗で覆われた謎の生き物を、身体強化バフをのせた脚で勢いよく蹴り飛ばす。


拡散爆破リザーハ


宙に舞った巨体目掛けて爆散魔法をぶつけ、そいつが地面にドサリと落ちたのを確認して一息つき、強化バフをシュピーンと解除する。

ひとまず、戦闘終了であった。


「うっし、今ので最後だな。いったい何体目だ?」

「そうですわね。ざっと、27体ってところかしら」


振り返って尋ねると、シェリアが上品に身だしなみを整えながら応えた。
 

「イヴ様のお手を煩わせるまでも無い低レベルな獣しかいなかったけれど、回収できる魔力はやはりなかなか美味ですわね。イヴ様の魔力を感じますもの」

「うむ、魔獣本来の魔力と混じり合って中途半端にはなっておるだろうがな。それでも、私の魔力を少しでも含んでさえいれば、依然として上質な魔力となっているだろうよ」

「イヴ様の魔力は濃くて体に沁み渡るねぇ。ボクも、もうお腹いっぱ〜い!」


返り血のついた頬を手で拭い、『やっぱ栄養で言えば、パンケーキより断然魔力だね!』と笑うリンゼラの言葉を聞きながら、やれやれと辺りを見回した。


アーテリア王国を出てから訳一時間後。

草原からララリダにかけての道中、出るわ出るわ謎の魔獣軍団。

俺の勇者時代、かつイヴの世界支配時代とは比べものにならないほどの魔獣の量だった。


「いくらココが魔獣の増えた林の中っていっても、コレは襲われすぎだよな」


そこらへんに転がった大量の魔獣の死骸を眺めながら俺がそう言うと、シェリアがうんざりとした顔で口を開いた。 


「これだけの魔獣を呼び寄せている原因が不明だなんて、本気で思ってるのであれば貴方の脳みそは虫ケラ以下というものですわ」


ひどい。


「分かりやすくレクチャーするのならば、例えばそのペンダントとか、或いはそのペンダントとかが原因なのではなくて?」

「ペンダントにロックオンしすぎだろ…。まぁ俺も、原因はこれだと思うけど。多分、なにかしらの呪いとかそんな感じだろうな」

「呪いと分かって引き取るあたり、貴様はお人好しが過ぎるんじゃないか?勇者らしくいくのは構わんが、いつか身を滅ぼすことにならんと良いな、ルークよ」


悪い顔をしたイヴにそう言われ、俺は胸元にしまっておいた問題のペンダント__カフェの店員マイム=マリーダから預かったそれを、そっと撫でる。

あいも変わらず禍々しい謎のオーラを放つそれが、魔獣たちを次々と引き寄せているに違いなかった。


「こいつら、イヴ様が元魔王ってこととか、ボクたちがその第一家臣ってこと忘れちゃってるのかな?なんで襲い掛かってくるんだろ。無能な元部下たちだね!」

「万一私たちを把握していないとしても、魔力の差を察して平伏して然るべきだと思うのだけれど…。それとも、魔王たるイヴ様のお力を肌で感じて判別できないほど、知能指数が下がったなんてオチかしら。ふふふふ、…笑えませんわ」


魔王の元家臣の2人は、可愛らしい顔をしながら魔獣の残骸を踏みにじり、恐ろしいことを言っている。


…ところで、今の俺には、声を大にして言いたいことが一つあった。

果たしてコレは言うべきか、聞いていいやつなのかどうかと迷いもしたが、意を決して口を開く。


「てか、リンゼラとシェリアはなんで俺に向かって攻撃してくるんだよ!!気のせいじゃないよな?!」

「あらあら…」

「ありゃ、バレてた〜?」


リンゼラはテヘペロ♡という顔をしているが、俺は誤魔化されない。


「魔獣を1体蹴散らしてはリンゼラの蹴りを避け、2体目を吹き飛ばしながら同じく味方からの斬撃を避け、3体目を終えて振り向いた時には背後にシェリアの巨大な火炎柱が向かってきてた俺の気持ちにもなれよ!!」


先程の戦闘シーンの衝撃をクソデカボイスで訴える。
散々であった。


「まぁそりゃあね?逆に避けられたのがびっくりだったくらいだし?」

「実際、当てるつもりでしたものね」

「もしかして、2人はけっこうまじで俺の命狙ってんの?」

「前に一度そう言ったでしょう?イヴ様に手をかけた罪、一度死を経験した程度でチャラになると思わないことですわね」

「そうそう!イヴ様は許してもボクは許さない!ボクから逃げられると思うなよ♡」


さも当たり前のような言い分に頭を抱える。


「いやそうだけど…。確かに俺はイヴを倒してるし、宿敵なのは分かるけど…。戦闘中くらいは許してくれませんかね…?」

「無理ですわね」

「ダ〜メ!!」


俺のわずかばかりの勇気、撃沈。

魔獣大群と戦いながら、身内からの攻撃を避けることの、まぁめんどうなこと。

でもまぁ、この問題は今訴えてもどうにもならない気がするのも事実で。
時間が解決してくれるハズだと信じたい。


「…しかし、ララリダへはまだ着けないものか?戦闘と言っても、似たような魔獣ばかりではないか。私もそろそろ飽いてきたぞ」


俺の悶々などどこ吹く風、イヴが涼しい顔で腕を組んでそう言うと、リンゼラが大きなあくびをした。


「イヴ様ぁ、ボク、お腹が膨れたら眠くなってきちゃった。もう“戻って”もいいかなぁ?」

「…えぇ、私も少しばかり食事後の休憩が頂きたいところですわ。よろしいかしら?」


俺との会話の時との温度差は気にしないとして、彼女らの言うここでの“戻る”とは、恐らく“指輪の中へ一旦戻る”という意味合いだと思われる。

イヴの持つその2つの指輪の中がどうなっているのか、3人の契約システムの詳細はどうなっているのかについて今の俺に知る由はないが、実に便利なシステムである。


「うむ、ひとまずのララリダ散策は私とルークのみでも問題無かろう。構わん、下がれ」


イヴのその言葉を聞くなり、家臣2人はペコリと一度頭を下げ、クルリとスカートを翻して姿を消した。

指輪に戻ったらしい。


「じゃあ、こっからは俺とイヴの2人行動か」

「この先は、辺境集落ララリダだ。探るにしても、人数は少ない方がやりやすかろう」


そうしてまた集落を目指し、林をかき分けて歩き出す。


「イヴからもあの2人になんか言ってくれねぇか?俺、せっかく2度目の人生で自由な旅を始めたのに、また身内からの攻撃で死ぬとか嫌なんですけど」

「文句を言うでない。シェリアとリンゼラが居れば、戦闘後にわざわざ魔獣の骸を処理する手間が省けるぞ。奴らは戦闘と同時に魔力を吸い付くし、亡骸を空にできるからな」

「まぁ、それは確かにそうなんだよな。助かるし、ありがたいと思ってるよ。でもさぁ…」

「なんだ貴様、我が家臣に敗北しそうで恐ろしいと?」

「違ーう!イヴなら分かると思うが、シンプルな戦闘能力はあの2人より俺の方が上だ!」

「であろう?さすれば問題あるまい」

「俺が言いたいのは、身内ならゴタゴタ無く仲良くしようって話だ!」

「今も十分良好に見えるがな」


嘘だろ?と、疑惑たっぷりの視線をイヴに送る。


「ああ見えて、リンゼラとシェリアは弱者にはカケラの興味も抱かぬ冷酷さを持ちあわせておる。故に、興味を持たれ会話が成立しておるだけ、ルークはまだ救いようはあるぞ」

「えっ、…そうなのか?!」

「多分な」

「多分?!?!?!」


などと(とても友好的かつ平和な)会話をしつつ、カフェの店員マイム=マリーダからもらった地図を参考に、道とはいえぬ道をガンガン進んだ。


歩いてしばらくしてから、ようやく集落らしいところへたどり着く。


「おっ、到着か!家も沢山見えるし、人も何人かいるな。ペンダントの持ち主がいるか、早速声かけてみようぜ」

「ここは凡ゆる種族やハーフが混在する地域と聞いておるぞ。相手が必ずしも人間とは限らんからな、注意するがいい」

「分かってる、分かってるって」

「しかしなんだ?何か催しでもしておるのか、奴らは今忙しない様子であるな」


その言葉通り、目下に見える人影はみな忙しなく、あちこちを行き来していた。

集落の中央の広場らしいところには、祭壇のようなものも建てられている。
もしかすると、なにかの祭りや儀式を行う準備中なのかもしれない。


「まぁ、俺たちの探し人は緑髪で長髪、オッドアイっつー分かりやすい見た目の相手だ。そんなに話に手間どらないだろ」


情報収集に大した時間もかかるまいと踏んですぐ側の家へ近づき、そこにいた1人の男性に声をかける。


「すみません、ちょっと良いですか?」

「ん?なんだ?…って、お前たち、よそ者じゃないか!今は大事な時なんだ、しばらく他所へ行ってくれ!」


しかし男性から返ってきたのは、想定外のすごい剣幕。


「えっと…大事な時、ですか?」

「見ればすぐに分かるだろう!今は大切な儀し……、さ、祭典を執り行うための、準備の真っ最中だ!」


これから行うのが、なんらかの“儀式”である、というのは、どうやら隠したい事実らしい。


「そうでしたか、それはすみませんでした…。でも、来たばかりで何も分からないので、少しだけ話を聞かせてください」

「…駄目だ!この祭典には俺たちの今後がかかってる。他所者の介入で予定が狂えば、それこそ俺たちはおしまいだ。ほら、さっさとどっか行っちまえ!!」

「あの、一瞬でいいんです。俺たち、人を探してるだけなので。緑の髪の…」

「うるさい!お前も魔獣が凶暴化し増加したのは知っているだろ?これはそれの対策でもあるんだ。今は一分一秒を争う!お前たちに話すことなどなにもない!」


腕を振り、さっさとあっちへ行けとばかりに追い払われる。

さて、どうしようかと困っていると、横のイヴが「おい、」と一歩前に出た。


まずい。


「…貴様、先程から黙って聞いていれば、なんだその言いようは。こちらは少し話をしたいだけだと言っておろう」

「な、なんだよ。ガキのくせに、急に口を挟んでくるんじゃねぇ!」


あ、こいつ。
地雷踏んだ。


「…ほう…。ガキ?この私がガキだと?なかなかいい度胸じゃないか」


今の彼女に、見た目は完全にガキだぞとは言うまい。
火に油は注がない主義だ。


「随分と舐めたことを言ってくれる。貴様、口の聞き方がまったくなってな…」

「もういい、イヴ、行くぞ!!!」


このままいくと、儀式や探し人云々うんぬん以前に、イヴが集落ごと更地さらちにしてしまいそうだったので、慌てて彼女を連れて森の中へ撤退する。


「…まったく、ルークは情けない。あれほど好き放題言われて、首の一つや二つ切り落としてやる気にはならなかったのか?」

「ならねーよ!それはお前だけだろ。頼むから、すぐに力でモノを言わそうとするのやめてくれよ…」

「ふん、善処しよう」


善処する気は欠片もなさそうに鼻を鳴らされているが、コレもおそらく指摘するべきではない。


「…仕方ねぇな。集落の真ん中通って話は聞けそうにないから、裏を回って、人気のなさそうな端から親切な人を探して行こう」

「うむ、そうするか」


また草むらの中を通って、集落の周りぐるりと回っていく。

良く分からない儀式といい、切羽詰まってそうな雰囲気といい、ララリダは、あたりの国々から遮断されたワケあり集落感が否めなくなってきた。

なんだか、良くないことに片足を突っ込んでしまっている気がする。


「…む?」

「お…?」


遠回りを初めて少しした時、ふと眼前に、謎の洞穴ほらあなを見つけた。

それも、入り口には細かい目の格子がつき、何層も何層も厳重な結界が張られた、明らかに怪しい洞穴であった。

今日は結界によく出会う。


「随分と厳重な封印であるな。中になにか閉じ込められているようだが。…人か?」

「気配的には多分人っぽいな。凶暴なモンスターが中にいる訳でもなさそうだ。だとすれば尚更不思議だな。人を封印するなんて」

「集落の法を犯した凶悪犯か、手に負えぬほど化け物じみた混種かもしれんぞ。中のモノに興味が湧いてくるな」

「そんなこと言ってる場合かよ…って、うわっ!なんだ?!」


洞穴に近づいて行った時、胸のあたりに違和感を感じた。
思わず驚き、立ち止まって確認をする。


胸元に入れておいたあのペンダントが、一瞬だけ、なにかと同調するように魔力を放ったのだった。


まさか。


そんな予感が脳内をかすめて俺がペンダントを取り出すと、数歩前のイヴも何かを察したようだった。


様子を伺うように、ゆっくりと洞穴との距離を詰める。
近づくごとに、ペンダントの同調は強まり、不穏な魔力と光は一段と増すようだった。


間違いない。
そう確信した。


ペンダントの持ち主は、洞穴の中にいる。


イヴに、『いくぞ』と視線を送ってから、中のよく見えない洞穴の中へ声をかける。


「誰か、いますか?」


数秒の沈黙ののち、


「……………………はい」


と、静かな声が暗闇から応えた。

結界が邪魔しているせいかよく聞こえないが、確かに女性の声であった。


息を飲み、再度声をかける。


「俺は、先程ここへやってきた旅人です。とある人を…この近くの、アーテリア王国の店で預かった、ペンダントの持ち主を探しているんですけど」


今度は返事がなかった。

暗闇の中の人物は、姿も顔も見えない。
そもそも、中からこちらはどのように見えているのだろうか。

魔法で照らすべきか否かと、少し悩む。


「真っ黒な鉱石の、とてもいい不思議なペンダントです。それの持ち主は、あなたでは無いですか?」


手中のペンダントが、より一層同調を強め、良くない魔力を放ち始めた。

例にもよって俺たちの周りに、魔獣がぞくぞくと集まってきているのを感じる。


早く。


「………はい、それは、私の物です」


声が返ってきたことに安堵を覚えると共に、迫りくる魔獣たちへの緊迫感も強まる。

俺とイヴの2人ならまだしも、万が一洞穴の彼女に被害が出てしまえばたいへんだ。


「あなたが持ち主ですか、良かったです。…では、これはお返ししますね」

「それは、……結構…です」

「……えっ?」


“結構です”だって?
いま、断られたか??

どういうことだと困惑するその時も、魔獣はじりじりと近づいてくる。
魔獣たちは、数にして10匹ほどというところであった。
サイズもなかなかデカそうな気配。

距離は背後数メートル。


なんだか、似たシチュエーションが以前もあった気がする。


「……いえ、………いえ、なんでもないです」


変わらぬ静かな声量で、洞穴の声は続ける。


「先程の発言は忘れてください。…わざわざ届けて下さって、ありがとうございます。…お受け取りします」

「はい。では今、お渡ししま___」


俺がそう言い終わる前に、魔獣が一斉に姿を現した。

今まで見たことのないタイプの魔獣。
ブタのような見た目ながら2メートル超えのデカさのそいつらは、口内から魔法を放つ種族らしかった。

俺たちを取り囲むように立ちはだかるそいつら全部が、口を大きく開けてザ・魔族カラーの紫色の魔級を装填し、こちらへ狙いを定めている。


「おい、ルーク」

「分かってるよ」


チッ、一瞬で蹴散らすか。

そう考えて振り返り、俺もイヴも戦闘態勢をとったその時、1匹のブタが球形の魔球を発射した。


檻へ真っ直ぐに飛んでいくそれを防ぐため、横から火炎球をぶつけその場で相殺させようと、『火炎球フレア』を放つ。



だが。


「?!?」


その直後に、俺の火炎球だけ・・がその場から消えた。

目を疑ったが、確かに俺の魔法だけ・・が形跡もなく消滅しており、障害物を失った魔球は真っ直ぐに洞穴へとんでいき、檻に激突した。


ズドーン!!と音をたてて砂埃が舞い、入り口の格子はバラバラに折れて地面に転がっていた。


同時に、なぜかあれだけ厳重に張られていた結界も消えている。

あの程度の魔球で破れるほど、ヤワな作りでもなかったはずなのに。


そもそも、なぜ俺の魔法は消えた?
誰の仕業だ?イヴか?まさかブタ共?
いや、そんなはずはない。


疑問はつのるが、今はそれよりも、中の彼女が無事なのかが大切だ。


確認すべく、洞穴の方へ走り出す。
巨大ブタ共の相手は、イヴに任せよう。


「イヴ、そのブタ共の相手は任せ___」

「……無効化リゼータ


走っている途中、突然、前方からその声が聞こえ、全身の力が抜けたような感覚に襲われた。

よろけて倒れ込みそうになったのをなんとか踏みとどまり、目を見開いて洞穴の方を見つめる。


無効化魔法の声の主は、俺でもイヴでも、
はたまた10匹のブタ達でもなく、洞穴から出てきた女性だった。


「す、すみません。…驚かせてしまいましたか…?」


結界越しに聞いた声よりもずっと綺麗で透き通った声だ。


「格子は、やりとりにお邪魔だと思いしたもので…」


格子が邪魔…???


そう言う相手は、20歳前後に見える若い見た目の女性。
厳重に封印されるような危険人物にはとても見えず、細身の体でむしろ儚げにすら感じられる彼女は、左目が緑、右目は金色の瞳をしていた。


正しく、マイム=マリーダの言っていたペンダントの持ち主と同じ容姿だ。

美しい緑髪ロングをなびかせ、申し訳なさそうに目を伏せている。


「とりあえず、今は話は後で!」


彼女の身を守るべく側へ駆け寄り、巨大ブタの方へ視線を向ける。

そこで、ブタたちが口内に装填していた魔球が消えていたのにも気がついた。
女性の無効化魔法は、離れた場所のあいつらにも効いているらしい。


イヴが巨大ブタの前に立ちはだかり、スッと腕を振り払った。


空切る斬風ウィンガル


一瞬、前方で巻き起こった鋭い風の音。

直後にスパ、と落ちたのは、巨大ブタの首、首、首、首。


「きゃっ、…?」


目の前の残骸な光景を見せまいと、とっさに側の彼女の目を手で覆った。
初対面の彼女の顔に触れてしまったが、倫理的に許されるのであろうか。


「いちいち手間のかかる…。ほら、骸は消してやったぞ、もう解放してやれ」


イヴが俺の目の前で2度めのこわい魔法『消滅ゼラ』を使って巨大ブタ達の死骸を全て消し、俺の方へ歩いてくる。


側の彼女の目を解放してから、忘れないうちにペンダントを手渡した。
未だジワジワと魔力放出中のソレは、俺の手から持ち主の彼女へ返る。


これで、一応ミッションは終了したはずだった。

この集落は色々訳あり感もあり聞きたいことも沢山あったが、とりたてて深入りする必要もない。


「あの、お尋ねしたいことがありまして…」


女性が、遠慮がちに口を開いた。


「はい、何ですか?」

「名も知らぬお2人様、…先ほどの格子と結界を作り直すことは可能でしょうか?」

「格子と、結界を…?」


『一応可能だと思う』というのが、今の俺の答えだった。

例え俺が再現に手こずっても、イヴやシェリア、リンゼラの3人に協力を仰げば、この世のほとんど全ての魔法は使用可能ではあると思われるからだ。


だが気にかかる問題は、そんなことをする理由だ。


「多分できますけど、どうしてですか?貴方は危険人物にも見えません。せっかく洞穴から解放されたんですし、早くこの場を離れても良いと思いますけど…」

「あの、私を、また同じようにあの中へ閉じ込めて下さい」

「………え?」


この時の困ったような、諦めたような、なんとも言い難い苦しげな彼女の顔を、俺は一生忘れることができないだろう。




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