二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜

ユユセ

第1話.因縁コンビ爆☆誕



「___おい。勇者、…勇者よ」


微睡む俺に、声をかける者がいた。


「…さっさと目を覚まさんか。目覚ましに火炎球を浴びたいとご所望なら、お見舞いしてやらんこともないが」
 

ぼんやりとした意識の中その声を認識するや否や、俺の体は反射的に飛び起きた。

それはただ単に、側にあるデカい魔力反応に体がほとんど無意識に気がつき防衛本能で意識が覚醒しただけであって、言われた言葉の内容はほとんど聞いていなかったのだが。


「え…?あれ?どこだここ?」


起き上がってからきょとんとしつつ周囲を見渡すと、そこは見覚えのある草原。

俺がつい先日訪れた街、アーテリア王国の近くにある、森林と草原の境目のような場所だった。

背後では木々が揺れ、目の前では風にそよぐ緑の草花が美しい。


「…なんで俺、ここに居るんだ…?確か俺は、仲間と一緒に魔王を倒すためにそこのアーテリア王国に訪れて…」


…その後、国王に託され王国騎士を連れて魔王の城に行ったような…。

…で、なんとか魔王を倒して…でも直後に裏切られて…刺されて…?


え??
え???


「えっっ!?!俺、死んだよな…??てかお前っ、魔王じゃねぇか!!」  

「そうだな、私は“元”魔王だな。しかし状況理解が遅いぞ、貴様それでも勇者か?」


俺は慌てて起き上がり腰の剣に手を添えた警戒体勢を取り、必死に状況理解を試みる。 

すぐ側で仁王立ちし腕を組み、呆れたような目で俺を見ているのは、正真正銘あの魔王。

その見た目が、いくら白髪ロングに映える紅い瞳を持つ、人形のような顔立ちの美しい少女だからといって、決して侮ってはいけない。

このように可愛らしく見えても、彼女は数々の魔物を使役し人間を脅かし、世界を我が物と支配していた魔王なのだから。


一番の問題は、なぜそれがいま目の前にいるのか、そもそもなぜ俺は生きているのかということだ。


「まぁ、私を一度殺した時点で勇者としての腕前は証明されているが、そのように無防備な姿を晒してよくもまぁ今まで生きてこられたものだ」


『一度殺した』という彼女の言葉に、これが死後の展開であることを察し、ここぞとばかりに質問を投げる。


「やっぱり、あれは夢じゃないよな?お前は俺が倒したはずだよな?!」

「あぁ、実に忌々しい事実だがその通りだ。魔王であった私は、勇者の貴様に敗れ死亡したな」

「だよな!よし!」


思わず心の中でガッツポーズをかます。

…まぁ、そのあと俺も殺されたけど。
くそ、今思い出してもムカつくな…ジグラインめ…。
いやいや、今はそんなこと考えている場合じゃなくて。


「なんで死んだはずのお前と俺がここにいるんだよ!?」

「騒がしいやつめ…だが、まぁ今の私は機嫌が良いからな。その質問には答えてやろう」


魔王は、やれやれと肩をすくめた。

1人慌てている俺が間抜けみたいだ。


「喜べ勇者よ!女神とやらが上手く仕事をしたらしく、貴様と私の同世界転生は、無事成功したらしいのだからな!」

「…え??」
 

おいおいおいおいおい。

なんか今、聞き逃せないワードが聞こえたような気がする。

聞き間違えの可能性を信じて、恐る恐る口を開く。


「同世界…転生っつったか?今」

「おうとも。貴様と私は、何を隠そうこの私の願いによって同世界転生を果たしたのだ」


魔王少女_否、“元”魔王少女、目を細めて悪い顔をした渾身のドヤ顔である。

俺はと言うと、ちょっと理解が追いつかず呆然としている。


「俺とお前は一度死んで、もう一回同じ世界に生を預ったと…?」


それは転生って言うのか??
生き返り?二度目の人生??
そんなことはあり得るのか?


「うっそだろ…。そんな話あんのかよ」

「今実際に転生しているのだから、あるんだろうよ」


そんなにあっさり言うか?というくらいさっぱりとした回答である。

俺に反論の余地はなく、ぐぬぬと黙らざるを得ない。


「私は貴様に殺された後、死と転生の狭間に、女神とやらに会ってな。そこで女神の話をきくと、どうやら前世で偉大な功績を残したり、世間に名を轟かせたりした者は転生前に女神を謁見し、次の生にリクエストなるものができるらしい」

「リクエスト?…なんてリクエストしたんだ?」

「私は、こう言ってやった『あの勇者との同世界転生を、同じ人間として望む』とな」

「なんて???????」


状況理解のために説明を聞いているはずなのに、分からないことがどんどん増えていく。


「いやいや、おかしいだろ!なんで人間として、それも俺と一緒に、なんて願うんだよ。だいたい、普通は俺には恨みを抱いとくもんだろ?」

「私は魔王として生まれて以来、貴様に負けたのが初めての敗北だった。確かにお前の言う通り、恨みも妬みも多少はしたが、それと同時に、ようやく自分と同格の者に出会えた喜びも感じたのだ。分かるか?」


恥ずかしげもなく、堂々とそう言い放たれた。

光栄だろう?という声が聞こえてきそうな雰囲気だが、予期せぬ褒め言葉に驚いてしまったし、なんだか複雑な心境でもあった。

結局あのあと味方に裏切られ悔しさに塗れながら死んでおいて、今になって敵ながら天晴れと言われるのには抵抗があるものだ。
 
魔王は、そんな俺を置いて話をまた進める。


「…で、私のこの告白を聴いた女神は、同世界転生リクエストを、あっさりと了承した」

「まじか女神様」

「『支配しか知らなかった魔王が、自分の死をきっかけに他者と渡り合う喜びを知ったのですね!素晴らしい!その提案、面白そうなのでOKです!』とな」

「登場人物、変なやつしか居ないのかよ…」


もう、自分に都合の良い回答を期待するのは諦めた方が良い気がしてきた。

心の中でため息をついてから、そのまま話を進めることにする。


「…要するに、女神のノリとお前のリクエストのおかげで、俺とお前は以前の姿と魔力のままに、人間としてこうやってまた生を預かった、ってことか?」

「そうだ。感動的かつ素晴らしい展開だろう」

「ツッコミどころしかねぇわ……」

「私のことは、かつて世界の一部を支配していただけの、美しく強く賢い人間の少女だと思ってくれれば良い」


コイツ…と思ったが、口にしてここを戦場にするのも良くないので、黙っておく。


「さてさて、前置きが終わったところでこれから本題に入るが、私から貴様に一つ提案がある!」

「俺はまだ納得しきれてねぇけど…。なんだよ、提案って」


まだまだイマイチ話の全貌は飲み込みきれてないが、ひとまず聞くだけ聞いておこう。


「ずばり、私と組んで世界を旅しないか?」

「…………はい?」


あまりに拍子抜けで、びっくりしながら、果たして正気だろうかと彼女を見つめる。


「説明が必要か?」 

「……………お願いします」  


説明は必要も必要である。

てっきり、また決闘をしようだとか、世界征服を手伝えだとか、そんな不穏な話になると身構えていたというのに。


「うむ…。私は先程、貴様という同レベルの強さの者に始めて会えて喜びを感じた、と言ったな?」

「ああ、言ったな」

「提案の理由となる一番始めは、そのさらに少し前に、私が感情と欲を得たところから始まる」


?????????

俺の脳内クエスチョンマークはさらに増加していく。

なんだか難しい話になってきた。


「まず、『魔王』とは、人間を脅かし魔物を使役するという役目を持つものの概念であり、それに必要な莫大な悪属性の魔力の塊が、人に似た体という器を得た状態をさす」


そいつは、自分の体をトントンと指しその「器」を示す。


「いわゆるところの、『正義があるためには悪も必要!』てきな位置づけの代表格が魔王にあたる。よって私は、その魔王として生まれて以来、悪と支配には不要な、多くの欲と感情が制限されていた訳だ。分かりやすく例えるならば、オシャレや食、対人関係を慈しむ気持ちだとか、女々しい恋心だとか純情だとかな」

「…成る程…?」


分かるような、分からないような。
 

「だが、死んでから魔王としての生が終わりその制限が解放されたその途端に、溢れるように凡ゆる感情や欲、興味と好奇心を得た」


『ここまでは良いか?』と尋ねる声に「あぁ」と答えれば、魔王はさらに続けた。


「女神は、娯楽や食、他者との触れ合いに、旅や人生そのものの面白さを私に語った。生まれて初めて知るそれらは、欲と興味を得た私の胸を躍らせるに十分で、それらを謳歌できる人間を羨ましいとさえ思った」


目の前のそいつは、心なしか目を輝かせてそう言う。

その様子は、ただの無垢で純粋な一人の少女に見えなくもない…ような。


「それから、私にはやりたい事が沢山できた。旅にも行きたい、食事を沢山したい、沢山の対人関係も築きたい。加えて何より、一度敗北した勇者とまた闘い、倒し、強くなりたい、とな」

「まぁ、言いたいことは…分かる、気がするよ」


理由語りはひと段落したらしいので、ここは素直に一言感想をを言っておく。

正直今の彼女に敵として警戒すべき点はなく、人間らしいその喋りや内容に、親しみなるものもうっすらと感じられるからだ。


「…じゃあ、興味の赴くまま色んなことをするために旅に行きたいし、俺への無念も晴らしたいし、強くなりたいし、ってなった時に、旅の共として思い浮かんだ最適な相手が、俺だった。ってことか?」

「その通りだ」


満足そうに大きく頷かれる。

その時点でだいたい話は分かった。
彼女の話と提案への興味も、ないと言えば嘘になるくらいだった。


「強くなる、否、どうせなら目指すは最強といこう。加えて、旅も出会いも楽しみ、色々な物をこの目で見て、食べ、堪能する。自由で最高の人生にしてゆくのだ!」


目の前で少女は両手を広げ、デカデカとジェスチャーをしている。


「そういうことか。お前も色々考えてんだな」

「当然だ。で、私の提案はどうだ?」


どうだ?と聞かれるとなんと答えるべきか悩み、「うーん」と小声で唸ってから、


「楽しそうだな、それ」


そう答えると、魔王は声のトーンを上げて俺に一歩寄ってきた。


「であろうであろう!分かってくれたか、勇者よ。ならば!この私と組み、旅に出ないか?」


そう再度尋ねられたが、実を言うと、俺の中でも答えは決まりつつあり、ここはもう一択のようなものだった。


「あぁ、その提案、乗ってやるよ」


そいつの顔が、パッと明るくなる。

実際、俺も魔王を討伐して平穏を手に入れてからは、のんびり自由に好きなことをして生きていこうと思っていたし、死ぬ直前に、強く頼れる相方が一人欲しいと思ったこともある。

これはお互いに、メリットが沢山ある話だったのだ。


「俺からも頼むよ。その旅、俺も連れてってくれ。まだ転生についても信じきれないとこもあるけど、楽しそうで自由なのが一番だ」

「よく言った!理解と快い承諾に感謝しよう!」


元魔王は、嬉しそうに何度も頷きながらそう言った。


「では、今この瞬間から、私と貴様はコンビである。助け合い、共に戦いながら、仲良く遣っていこうじゃないか」


かくして俺は、かつては殺し合いを繰り広げたという壮絶な因縁のある相手と、コンビを組むことになったのだ。

裏切られる可能性も無くはないが、魔王ほどの強者がひとときでも味方ならばこれほど頼もしいことはなく、その時はその時でいい。

また戦えば良いのだし、次も勝てば良いのだから。


「あ、そうそう。勇者、名前はなんというのだ?」


思い出したような口調で聞かれ、そういえば、お互いにまだ名前も知らなかったと気が付く。


「俺?俺は、アイルーク=リジア。ルークでいいよ。そっちは?」

「私のことは…そうさな、イヴと呼ぶと良い。宜しくな、ルーク」

「こっちこそ。イヴ、これから宜しく頼むよ」


こうして、両者がお互いに自信ありげな笑みを交わした今日この日こそが、後に世界に名を轟かせる最強コンビの成立の日である。


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