二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜

ユユセ

第0話.両者の死



_____ぶつかり合うのは、超級魔法の数々。


響き渡る凄まじい轟音と燃え盛る炎の中、勇者の剣が相手の胸を鋭く刺し貫いたのが、長時間の一騎打ちの決着であった。

胸を刺されたのは、白髪の揺らめく美しい少女。


「ぐ…貴様…覚えておけよ!人間風情がぁぁ!!」


少女が、見た目にそぐわぬ憎悪と苦痛の入り混じった叫び声を上げ、その体と魔力反応を消滅させた瞬間、勇者おれの魔王討伐は完了した。


人間を虐げ世界を支配していたとは言え、少女の姿をした相手に向けて攻撃をすることに最初は躊躇いがあったのも事実だ。

しかし見た目はともかく、対峙していたのは流石の『魔王』らしく、今までにない魔力の消耗と全身の疲労で、俺は今立っているのがやっとの状態だった。


左腕は折れており感覚が無い。
全身に凄まじい疲労がのしかかり、魔王の魔法の影響か、耳鳴りが酷く頭痛すらしていた。


「やった…。俺は、やってやったぞ…」


魔王を倒した。

その事実を噛み締めた途端、安堵で思わずそう溢した。

幼い頃に病で両親を失った上に、近年になって平穏すら取り上げるように魔物に支配され始めた生活に嫌気がさし、勇者として立ち上がったあの日から、夢にまで見ていた目標だった。

鍛錬を積み、仲間を集め、国王から使命され王国騎士団を率いてここまでやってきて、今ようやくそれを果たすことができたのだ。


今日のこの日まで、このために生きてきたと言っても過言ではなかった。

自分は勿論、平和を脅かされたすべての人々の悔しさを晴らしたような気分だった。

果てしない満足感と達成感に浸りながら、もう立っているのも限界で膝をつこうとしたその時。


胸部、心臓のあたりに熱く鋭い痛みが走った。

背後から、刺されたのだった。


「は…?なん、…で…」


刃物を引き抜かれる耐え難い痛みとともに全身から力が抜け、瓦礫の散乱する床にドサリと倒れ込んだ。


「見事な魔王討伐でしたね、お疲れ様です。安心してお眠りなさい」


倒れたままの体勢で呆然と後方に目をやれば、そこにいたのは率いてきた騎士団の団長、ジグラインだった。

たしか、下で魔物と戦っていたはずだが。


「ジグライン…?!どういう…つもりだ」

「ご安心下さい、他のお仲間達はご無事ですよ。実は、国王様より、魔王討伐後に貴方を始末するように指示されておりましてね。えぇ、魔王討伐後は国の専属騎士になれという国王様からのありがたいお誘いを、『戦いをやめ、一人で静かに生きる』と断った貴方だけを、ね」


そいつが口にしたのは確かに身に覚えのある話で、俺たちが魔王の城へ赴く前に、国王が頼み込むように言ってきた話題のことだ。

『魔王を失った恨みを抱いた魔物達が、城に押し寄せてくるかもしれない。金ならいくらでも出すから、魔物から私を守ってくれ』と。

他の仲間達は金につられて王室専属のボディーガードとなることを二つ返事で受け入れたが、もとより自分の平穏のために勇者になった俺に王に仕えるなどと堅苦しい話は合わず、良い返事をしなかった。

俺は国から魔王討伐の報酬をもらった後は、他者の力に怯えることなく、一般人として自由気ままな暮らしを送りたいと思っていたからだ。

『頼む』と繰り返すの軽くあしらい、一般人に戻ると宣言した俺を、悔しそうに睨んでいた臆病な国王の顔が思い出される。


「まさか、その為だけにか…?」

「国王様は、その命惜しさにどこぞの勇者に懇願したというご自身の醜態を、貴方が国民にバラすのではないか。ましてや、そんな不届きな貴方に、国の財から報酬を与えてやるのも惜しいとのお考えです。しかし、貴方は腐っても勇者。回復後の貴方には我々では太刀打ちできないということで、現在の計画に至るのですよ」


成る程、そういうことか。

魔王を討伐を成し遂げても、一国の王の臆病さに呆れ、頑として話を受け入れなかった結果がこれらしい。


背後から忍び寄る騎士団長の鎧の音に気付かず、気配すら悟れない程に疲労困憊こんぱいした俺を刺すのは、実に容易いことだっただろう。


「ふざけたこと言いやがって…こんなこと、許される訳ねぇだろ!」


ぬかしやがる。

ようやく、魔王を倒すことができたのに。

国の平和を取り戻し、これからは気ままな生活を送り、好きなことをして人生を終える筈だったのにのに。


「なんとでも仰いなさい。貴方がいくら勇者といえど、その疲労にその傷ではもう長くは持たないでしょうからね」


悔しさ、理不尽さに対する怒りが全身を凌駕りょうがするが、ジグラインの言う通り、体はもはや瀕死の状態であった。

ピクリとも動かない体に、視界も霞み始めている。


魔王討伐を成し遂げた後に裏切られ刺され、最後に見るのが、自分を刺した男の顔とは。


まったくもって散々である。


「あぁ、最後に一つ。貴方のお仲間は、この作戦のことを知っていましたよ。いやなに、報酬を更に倍にするとお伝えしたら、喜んで黙秘を了承して下さいましたからね」


そう言っておかしそうに笑うジグラインの声が憎らしく、感情と現実についていかない瀕死の身体がもどかしい。

理不尽なこの展開に、恩を仇で返した国王に、あっさりと自分を見捨てた仲間に、何かしてやりたくてしょうがない。


俺がもっと強ければ。

こういう時に本当に頼れる、自分と同じくらい強い相手がもう一人でもいたならば。


今後の人生は、楽しく安泰で自由なものになるはずだったのに。


さまざまな思いが駆け巡るが、失血と重傷で意識はどんどん薄れていく。


くそ…この思い、死んでも忘れてやらねぇからな!


遠のく意識の中、溢れんばかりの悔しさを込めて心の中でそう叫んだ直後、勇者おれは死亡した。


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