願いの星は異界まで。

佐々木篠

EP.4 カイナース領の撹拌(2)

 カイナース領。
 北の王国、ヴィントヴルフ王国の直属領。謂わば王様の、お金のなる庭の一つ。
 先述したとおり、赤レンガや赤い木材の家が多く、イメージとしては多分ヨーロッパ風だ。
 大きく2つの区域に別れており、【住民区】と【工商区】。住民区は文字通り住民が暮らす家が主で、他には仕事を斡旋、募集する紹介所ギルド、コンビニみたいな小さな百貨店が立っている。
 ちなみにコンビニは露天で出されており、武器や防具、各種装備品が廉価でちらほらと。あとは食料品や材料なんかも売られているのが丸見えだ。
 お金の価値も朱鳥(?)に教えてもらった。PプラチナがP1で大体1万円らしい。Gが千円、Sが100円、Bが10円、そしてRロックが1円と、日本とあまり大差はない。
 なぜRなのか、聞いてみたら石でできた貨幣だからだそうだ。
(持ってるもの全部かなりの額だな・・・)
 その後も商工区でぶらぶら歩き回り、日が傾いてオレンジに染まりつつあった所で。
「ん?」
「どーしたの?」
「・・・・・・あれは」
 首輪と鎖で繋がれた、狐の尻尾を持った女の子と男の娘が連れられてる。服はボロボロでひと目見て奴隷に類する者だとわかった。
「・・・やめとこ?奴隷も商品。下手に売人に口出したら逆に訴えられちゃうわ」
「・・・おう」
 特に何も言えなかった。あの子たちはあぁいう運命なのだ。そう割り切って。
「・・・やっぱり」
 今の発言で確信した。
 今、目の前にいるこいつ・・・朱鳥と名乗るのは、偽物だ。



 屋敷に戻り、今日あったことを整理する。
(朱鳥の偽物・・・多分俺に近づきたいがためだろう。でも理由がつかめない。あの子が偽物である以上、ここの主人もグルの可能性が高い・・・)
「まったく・・・先生も言ってた通り、最悪を想定して動くしかなさそう・・・」
 いつも耳にタコができそうなくらいに聞かされていた。当時9歳くらいの俺には全く理解できなかったが・・・
 その時、コンコンと部屋のドアが鳴る。
 一応警戒しながら入るように促すと、そこに立ってたのは朱鳥の偽物。
(かなり格好がラフだ・・・今すぐに殺しに来たわけでもなさそう)
 凶器の類の影が見当たらないことにとにかくは安心した。
「どうしたの?そんなに怖い顔して」
「いや、初めてパジャマみたから」
「えー!なにそれ」
 くすくすと、偽物は笑う。アッシュブロンドが夜染めの部屋にともされた蝋燭ろうそくに反射して艶めく。
 覚えている。というか衝撃的だったから忘れてはいない。パジャマどころか半裸まで見た仲だ。中学の頃の話だが。
「ね、これからここに暮らす?」
「同棲かい・・・いや、戻る道を探すよ。母さんと父さんに悪い」
「え・・・あ、そ、そうだよね!私も今探しているんだけど、なかなか見つからなくて!」
「ま、そんなすぐには見つからないよなぁ・・・」
(今の慌て方・・・クラスメイトに聞いたか・・・俺が孤児だったことはみんな知ってるけど、里親がいることを知っているのは朱鳥だけだ)
 理由としては、孤児だったことがかなり衝撃的でそれに類する情報を聞かれなかったから・・・というかなんとなく言えなかっただけなんだが。
(てことは・・・朱鳥だけじゃなくみんなこの世界に来ているのか)
「・・・ねぇくぅ・・・私、私ね・・・怖いの。自分が知らないところにいて、頼れる人も誰もいなくて・・・くぅが一緒に居てくれれば、私・・・」
 コンコン。また扉が鳴る。
「どうぞ」
「失礼します。消灯の時間です」
「・・・そう。じゃぁ・・・また明日ね!」
「うん。お休み」
 朝案内してもらったメイドさんとすれ違いに、朱鳥の偽物は部屋を出ていく。
「・・・それで要件は?消灯で呼んだ空気じゃなさそうですが」
「・・・・・・キッチン奥、暖炉の灰にまみれた隅、切り取られた扉、右、左、右、右、その先」
(・・・あんだって?)
「私は・・・この家に住む主人の妻です。訳あってさっきの言葉で伝えるのが限界です。私も、娘の為に生きなければならないので・・・」
(人命まで手に掛けるつもりなのか・・・!)
「・・・これを」
 書斎に落ちていた写真を、窓から選択し実体化させて手渡す。
 それを見て、メイドさんは息を詰まらせ、涙を流した。
「ハナ・・・・あなた・・・」
 そう繰り返して、今まで守ろうとしてきたものを離さないように。
(・・・・確か、『キッチン奥、暖炉の灰にまみれた隅、切り取られた扉、右、左、右、右』・・・実際行ってみればわかる暗号って感じか)
 泣き止んで、戻っていくメイドさんを見送る。
「・・・ここは、星がきれいだな」
 朱鳥を見つける前の大仕事。自慢できるネタとして良さそうだ。
(・・・先生、最悪を想定したとして、誰も傷付けずに物事を成そうとするのは、幻想ですか?)
 用意されたパジャマらしき服を着て、ふかふかのベットに潜り込む。
 部屋に近づいてくる、その気配にバレないように。

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