願いの星は異界まで。

佐々木篠

Ep.3 カイナース領の撹拌

「・・・どうにかできませんか?」
「駄目だ。例外はない」
「一銭も無いんです。お願いします!」
「駄目だ!しつこく言わせるな!と言うかいくら旅人でも入領には通行税がかかる事くらいわかるだろ!そこはどの領でも国でも一緒だ!!」
「殺生なぁ!!」
 現在、俺は街の門兵さんにどうにかして街に入れないか交渉・・・もといおねだりをしていた。
(くっ・・・やはり美少女でないとここは凌げないか・・・?!)
「・・・はぁ。どこから来た?」
「あ、はい。あの・・・ここから大体30キロ近くの遺跡から」
「・・・そんなわけ無いだろ?まさか異邦人とでも言うのか?」
「異邦人?」
「異邦人、異世界人、色々言われているが、かんたんに行って余所者だ。そーゆー奴は大概、何かしら強力すぎる能力や突出しすぎるステータスをもってる」
「・・・そう言ったものは無いですけど・・・・・・」
「なら・・・・・・ん?」
「はい?」
 服を見て、門兵さんがしげしげと眺める。
「・・・・・・そういえば、似たような服を来た女の子を領主様が客人として迎えていたな」
「本当ですか!!?」
「だからとはいえ、ここを通すわけには」
「いいではないですか。アスカ様のご友人であれば積もる話もありましょう」
 と、俺と門兵さんの話に割って入ったのは、おっとりとした眼鏡の男性。
 ぬるりと気配を抜けてきたあたり、只者ではないとわかる。
「りょ、領主様!!」
「領主・・・・・・?」
 領主、そう言われるとしっくりこない。どちらかと言うとほっそりとしてるが将軍とか武官系に見える。
「へぇ・・・目が良いのですね。はじめまして。ヴィントヴルフ王国属領、カイナース領の領主。【アドルフ・カイナース】です。」
「・・・くうです。名字は忘れました」
 差し出された手を握手して握り返す。
 やはり、文官にしてはがっしりしてるが武官にしては細い。
「おやおや・・・それは・・・大変でしたでしょう。領主として、快くこの領に迎え入れます」
 門兵さんが、恭しく敬礼する。
 目が不服そうだけど、逆らえなさそうだ。

 中に入ると、赤レンガを主体に民家や建物が建てられている。
 木材建築もところどころに見受けられるが、どれも真っ赤だ。そういう木材なのだろう。
 その中で、ひとつだけかなり目立って真っ白な大理石らしき石造りの建物があるが、目的地はそこらしい。
「どうぞお入りください。部屋の中はメイドに案内させます」
 控えていたのであろう栗色のメイドさんがお辞儀をする。
 あげられた顔に、その目に、浮かんでいたのは
(なんで泣きそうなんだ?)
「こちらでございます。」
 その言葉に引きずられ、奥へと向かう。
 通された部屋は、かなり豪華な部屋だ。シャンデリアや高そうな家具が一部屋に綺麗に詰め込まれている。
「・・・・・・なんだか落ち着かないな」
 高いものに囲まれる、と言うのはなかなか無い経験だからこそ、変な緊張がある。
 緊張をほぐすために、とりあえずRを書いて窓を出す。
 アイテムの欄をタップすると、ナイフ、約定、死骸と今まで手に入れた物が入っている。
 手持ち無沙汰でブラブラしてると、絨毯の隙間から少し日に焼けた写真が顔を出している。
 見てみると、この建物の目の前でピースをしている三人の笑顔の写真だ。
 男はほっそりしている。単眼鏡モノクルをしてる事と、高そうな服をしている割に物腰が低そうで、それでいて商人の強かさのようなものが見える気がする。
 隣は赤暗色の髪の女の子。娘さんだろうか。歯も生え揃ってないくらいに幼い。
 そして右、この人はさっきも見た。メイドさんだ。
(・・・一体何が)
「くぅ!!」
 呼ばれて、振り返る。
 いつの間にか開けられてた扉の向こうにいたのは、同じ学校の女子制服を着た金髪碧眼の女の子。
「良かった・・・無事だったのね・・・!!」
「こらこらアスカ様。あまりはしゃがれると危険ですぞ。それに空様はどうやら記憶が欠落しているご様子」
 そう聞くと、朱鳥(?)は口元を手で覆い、悲しそうにする。
(・・・・・・違う。でも何が違う?)
 違和感ばかりが、頭を埋め尽くす。
 でも、わかるのは。
 仕組まれている匂い。罠の、はめられる前の匂い。
 朱鳥がかなりの美少女で、俺と一緒に帰ってる所など、学校の人間は見てる奴が多いからか、いじめみたいなのも中学の頃にはあった。
 その時と、とてつもなく似た匂い。
「くぅ・・・ごめんね・・・あの時、あの時私がそばにいながら!!」
「・・・・・・・・・いや、大丈夫だよ」
 演技・・・なのかわからない。
 涙は出てる。これで演技なら女優だ。
「そう・・・?本当に?」
「うん。記憶は何個か抜けてるけど、大丈夫」
「・・・ほっ。じゃぁさじゃぁさ!あたしの方が先にここに来てるし、この街を案内したげる!!」
 そう言われ、街へと連れ出される。
 先程まで快晴だった空は、少しづつ陰りを見せていた。














「さて、あとは待つだけ・・・ラクなもんだ」

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