パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

二十話 新たな出発

 僕たちを狙う二つの脅威を排除し、一先ずは平穏が訪れるだろう。
 迷宮核も成長して、今はフォンに追加された機能を調べてもらっている。
 心なしか静かになった【幻影ノ森】を歩いていく。一応、変異種を警戒しながら。


 僕はというと、一人で罠の回収を行っていた。
 強敵との連戦で手持ちの殆どを使ってしまったから。
 今後に備えて、少しでも蓄えておかないと。敵は待ってくれない。


 フォンの迷宮核の《魔力探知》で、反応が多かった地域を重点的に回る。
 相変わらず採れるのは通常の矢罠ばかり。時々、泥沼の罠やトラバサミなども。
 毒矢や麻痺矢を補充するのは難しいか。上層の方が出現確率が高まるらしいけど。


「リーンさん大変です、大変なんです!!」


 ミリィが大慌てで近付いてきた。
 彼女が慌てる時は決まって最悪な状況だった。 
 内心冷や冷やしながら話を聞いてみる。ミリィは息を付かせながら口を開いた。


「フォンさんが……フォンさんがお母様を……!」


 ◇


「リーン、止めないでください。私はもう……決めましたから」
「覚悟はできているんだね?」
「はい。これも私たちが先に進むために、必要な儀式です」


 フォンは龍の亡骸――フォンのお母さんの前に立っていた。
 手にするのは成長した迷宮核だ。彼女は自分の母親の魔力を吸収しようとしていた。
 魔力を失った肉体は一瞬で崩壊する。それは現世に残された肉親との別れを意味している。


 フォンの迷宮核に新たに追加された小迷宮の移転機能。
 これには通常の魔力とは違う、高ランクの上質な魔力が必要らしい。
 成長した地龍の魔力なら、確実に条件と一致する。そうフォンは判断したのだ。


「私は親不孝者の娘です。母様を利用してでも、自分の願いを優先したいと思いました」
「……間違ってはいないよ。君のお母さんはその為に身体を張ったんだ。最期の最期まで、君の事を考えて、魂を失ったあとでも、こうして待ち続けていたんだ。……フォンは立派だよ。お母さんの夢を受け継いだんだ」
「リーン……そうですね。私は母様の夢を叶えます。必ず、地龍が安心して暮らせる世界を作ります」


 フォンが迷宮核に触れる。
 地龍の巨大な亡骸から魔力が生み出されていく。
 小さなオーブが幻想的な光を放ち、娘の元へと集っていた。


「大丈夫だよ。必ず、僕が始祖の魔術を手に入れてお母さんを蘇らせるから」
「……はい。私も、貴方の大切な人たちを取り戻してみせます」


 フォンのお母さんは消滅した。
 大切なものは受け継がれ、残り続けている。


「うぅ……フォンさん、立派です……! ワタシも頑張りますぅ」


 後ろでミリィが号泣していた。
 友人の成長に泣いているところが彼女らしい。
 振り返ったフォンは、真っ赤な瞳で笑顔を浮かべていた。


「さぁ……先に進みましょう!」


 一旦外に出た僕たちは、お世話になった小迷宮に一時の別れを告げる。
 フォンが命じると、空間が歪み、迷宮核に吸い込まれていく。地形が綺麗になっていた。


「移動させるたびに同じだけの魔力を消費するみたいです。現状は残り三回まで。この上質な魔力は移転のみで、他の機能には使えないようです」
「別枠なんだね。わかった。その三回は慎重に、大切に使わせてもらおう」


 今後同じ魔力を手に入れられるかは不明だ。
 次の拠点場所は慎重に選択しないといけない。


「これから何処を目指すんですか? 早速、第三層に向かいます?」


 ミリィがこれからの方針について尋ねてくる。
 僕は以前から考えてあった道筋を二人に説明していく。


「まずは第三層――と、言いたいところだけど。とりあえず第一層を目指そう」
「……前に進むどころか、後ろに下がっていますよ?」


 フォンが不服そうに頬を膨らます。
 その反応は可愛いけど、今は無視して説明を続ける。


「僕たちの戦い方は基本は博打だ。罠を主軸にしているから仕方ないとはいえ、敵に懐まで攻めさせて、ギリギリのところで逆転勝利――――こんなの続けていたら命が幾つあっても足りない」
「そ、そうですね……薄々気付いてましたけど、毎回際どい勝利でしたもんね」


 二戦とも功労者であるミリィが何度も頷いた。


「カルロスは僕以外は眼中になかったし。強敵だったカザルも、二人を仲間にする目的があったからこそ、ある程度手を抜いて戦っていた。だけど、今後は守護者本人の能力もかなり重要になってくる」


 守護者が死ねば迷宮核は無力化する。一番楽で手っ取り早い勝ち方だろう。
 これから上層の強敵たちと戦う上で重要なのは、如何にして守護者を守るかだ。
 攻めも守りも罠に頼るのはもう限界だ。守りの面で、本人にも多少は自衛してもらわないと。


 僕はフォンの潰れた片目と、動かない片腕に視線を向ける。


「まずは第一層を目指し、それから地上に出てフォンの身体の治療をしよう。第三層はそこからだよ」
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 リーンの所持罠種


 矢罠 2→11(+9)
 矢罠(麻痺) 1
 矢罠(毒) 0
 トラバサミ 2→5(+3)
 岩石罠 1
 爆発罠 0
 泥沼罠  1→3(+2)
 移動床 2
 ワープ罠 1
 落とし穴 2
 警報罠 2

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