パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

一話 非常食扱いを受けた罠師、逃亡する

 雲を突き抜け天上まで伸びる神樹――迷宮異世界ユグドラシル。
 世界の中心に存在する超巨大迷宮であり、歴史上踏破した者は存在しない。
 各階層はその名が示す通り、異世界そのもので、地上のありとあらゆる常識は通用しない。
 迷宮内には金銀財宝や、人知を超える太古の秘宝などが眠っており、世界中から挑戦者たちが集う。


 世界各国もこの迷宮異世界を中心に経済が動いており。
 有志を募りこれまで数え切れないほどの攻略パーティを送り出してきた。
 パーティを支援するギルドなども存在し。そして僕もまた、ギルドに所属する冒険者だった。


 ユグドラシル第二層【幻影ノ森】
 最初こそは順調に進んだ迷宮探索だったが、突然、変異種の奇襲を受けてしまった。
 変異種は通常の魔物よりも数倍優れた能力を秘めており、不意を突かれ戦うこともできず。
 何とか全員無事に逃げ切れたものの、その際に、食料や薬の入った荷物を置いてきてしまう。


 地上を目指してひたすら歩き続けているが、どう考えても食料も水も足りない。
 パーティは僕を含めて五人で、五人に分配して二日分。現在地は不明で地図も失った。
 このまま飲まず食わずで強行突破するにも、魔物との戦いを繰り返せば犠牲は避けられない。


「――――リーン、俺たちの為に潔く死ね。荷物を紛失した責任を負うんだ」


 パーティで一番の剣の使い手であるカルロスは宣告する。
 他の面々も仕方なしといった表情だ。誰も僕を庇ってくれない。
 Dランクパーティ【鋼の剣】。唯一、僕は雇われの身として所属していた。


「こんな時に仲間同士で争っている場合じゃないのに。死ねってどういう意味だよ!」
「そのままの意味だ。お前のせいで俺たちは飢餓の危機にあるんだぞ?」
「そりゃ悪いとは思っているけど。重い物を背負いながら逃げられる状況じゃなかったんだ」


 荷物持ちの責任を果たせなかった僕が責められるのは間違いではない。
 それでも奇襲を防げなかったのはカルロスたちだ。一人に全てを押し付けるのはおかしい。
 それに荷物を置いたのは、皆を助ける為に軽くなる必要があったからだ。


 まぁ……これは今更言っても誰も信じてくれないか。


 パーティの盾である年長者、ダントは黙っていた。
 癒し手で紅一点、ラミアはそっと僕から視線を逸らした。
 魔法使いである半森妖精ハーフエルフ、ロロンドもまた厳しい表情で僕を睨む。


 どうやら既に決定事項らしい。裏で相談でもしていたのか。
 足りない食料を少しでも持たせるために、僕を殺そうというのだ。


 初期メンバーじゃないにしろ、半月以上も彼らと時を共にしたのに。
 これまで仲間だと思っていた彼らが、今は魔物と同じで恐ろしく感じる。


「……もう少し冷静に考えようよ。流石に仲間殺しは不味いって!」
「この先、役立たずのお前の力が必要になることはない。所詮は罠解除要員だ、代えも効くからな」
「そ、そんな……酷過ぎる」


 僕の所持スキルである《罠師》は罠を自由に付け外し、持ち運べるユニークスキルだ。
 ユニークスキルはその人が持つ唯一無二の能力であり、同じ能力を持つ人は他に存在しない。
 所持者が死ねば別の人に受け継がれるらしいけど、生きている限り《罠師》は僕だけの物。


 とはいえ罠を解除するだけなら通常スキルでも可能だ。
 では付け外しに大きな利点があるかと聞かれると……答えに困る。
 僕が使用する罠は味方を認識する機能がないので、下手に使うと誤爆してしまうのだ。


 世界的にも珍しいユニークスキルだけど、《罠師》の評価は低い。
 今回【鋼の剣】に誘われたのも、罠解除ができるという一点を買われただけ。
 《罠師》である必要もなかったし、戦力としても微妙だったので役立たずと言われても言い返せない。


「すまないな……食い扶持を減らすなら早い方がいい」


 と、ダントは苦しそうに言う。苦渋の選択であると。
 彼はまだ僕にも優しかったはずなのに、この状況が彼を変えてしまったのか。


「つまりそういう事だ。ギルドの方には変異種に襲われて犠牲者が一人出たと伝えておこう」


 カルロスは嫌な笑みを浮かべている。多分、考案したのはコイツなんだろう。


「……私たちが生き残るには誰かが犠牲になるしかないの」


 ラミアもまた、僕の犠牲に賛成した。
 ダントと同じで常識人だと思っていたのに、裏切られた気分だ。


「つまり、そういうことです。今すぐ楽にしてあげますよ」


 ロロンドは初めから僕のことを嫌っていたのは知っている。
 コイツはカルロスに付き従う犬のような奴だ。カルロスの提案に反対するとは思えない。


 四人が武器を構えてじりじりと迫ってくる。
 追い詰められて冷静さを失ったのか、それともこれが本性なのか。
 生き残るためなら誰かが犠牲になってもいい、足手まといなら死んでもいいのだと。 
 ふざけている。こんなのがまかり通っていいはずがない。


「わざわざ殺すまでしなくても、ただ見捨てていけばいいんじゃ……!」
「お前は、もしもに備えてバラシて持ち歩く。限界が来た時の――――保険だ」
「うげっ……正気!?」
「ああ……俺はいたって正気だ」


 明らかに狂っているカルロスは邪悪そのものだった。
 幻覚なのか、黒い靄のようなオーラまで薄っすら出ている。
 僕は非常食扱いですか。まさか人としても見てもらえないなんて。


 僕は後ろに下がりながら思案を巡らせる。
 このまま逃げても、【幻影ノ森】を一人彷徨う羽目になる。
 それじゃ斬り殺される方がマシなのかと言われると、絶対にお断りだ。


 こっそりポケットの中に手を突っ込み、種を取り出し地面に数粒落としておいた。 


「さぁ、俺たちのために死ね! リーン!!」


 カルロスがゆっくりと剣を振り上げる。
 その瞬間、足元で何かが作動する音が森を響かせた。


「――――ぐあっ、やりやがったな! この野郎!!」


 発動したのは獰猛な獣を捕らえるトラバサミだ。魔力の棘が足に刺さっている。
 《罠師》は罠を種に変換するスキル。そして罠種トラップシードは好きな場所に召喚できるのだ。
 僕は急いで駆け出すとカルロスの腰に掛かっていた袋を奪い取る。中には食料と水が入っていた。


「テメェ、リーンその袋を返しやがれ!!」
「くそっ、やられた……周辺が罠だらけだ」
「下手に動けないわ……!」
「ならば、ここからでも今すぐ魔法で燃やして差し上げましょう」
「ロロンド、よせっ、距離が近い。同士討ちになるぞ!」
「くっ……小癪な真似を」


 元仲間たちが僕に対して怒りを露わにする。全員、見事に引っ掛かってくれた。
 数で上回っていて油断していたんだろう。もしくは反撃されるとすら思っていなかったのか。


「……最初に手を出したのはそっちでしょ? 当然の報いだよ」


 迷宮探索中もパーティメンバーからはお荷物扱いを受けてきた。
 実際、魔物と対等に戦える能力ではないし、罠解除以外では役に立たなかったけど。
 だからって非常食扱いは許せない。やられる前にやり返す。僕だってそれくらいはできる。


「リーンそこで待っていろ! 殺してやる! 絶対に許さねぇからなああああああ!!」
「うわっ、こわっ!」


 背中にカルロスの怒声を浴びながら、すぐにその場を離れる。
 不意打ちには成功したけど、正面からまともに戦って勝てる相手じゃない。
 自分の能力を過大評価しない。トラバサミの効力がなくなる前に、少しでも距離を稼がないと。
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 ◇トラバサミ
 魔力の棘によって陸上の生物を捕らえる設置型の罠。
 第一層から出現し、数もそれなりに多い一般的な罠である。
 地上の狩猟で扱われる鉄製のものとは違い、魔力の棘なので負傷はしない。
 耐久性が高く、敵の大きさに左右されず相手の足を確実に数秒止める点では優秀。
 ただし魔力探知に掛かりやすく、足止め時間は相手の魔力量に強く依存する。


 リーンの所持罠種


 矢罠 68
 矢罠(麻痺) 3
 矢罠(毒) 1
 トラバサミ 16→6(-10)
 落石罠 4
 爆発罠 2
 泥沼罠 5
 移動床 2
 ワープ罠 1
 落とし穴 2
 警報罠 2

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