シェアハウス【完】

邪神 白猫

20



 ーーー!?

「ひっ……!!」

 私は掴んでいた蓋から手を離すと、床にドスンと尻もちを着いた。
 私の身体からは一気に血の気が引き、ガタガタと震え始めた。

 開かれた箱の中にはーー
 バラバラにされた人の身体が入っていた。

「……ゔっ……」

 突然の吐き気に口元を抑える。
 凍らされて入っていたいくつかの身体。
 その上に、ゴロリと転がる二つの頭部。
 目が合ってしまった。

 ーーあれは、香澄。

 私は涙を流しながらズリズリと後ろへ下がった。
 立ち上がって今すぐにこの場を離れたい。そう思うのに身体に力が入らない。
 そのままズリズリと後ろへ下がっていると、トンッと何かが背中に触れたーー。

 私は震える身体でゆっくりと後ろを振り返った。
 視界に入る、スラリと伸びた綺麗な脚。
 その脚を辿ってゆっくりと見上げてみると、私を見下ろす静香さんと目が合った。
 私を捉えた静香さんは、ゆっくりと口元を歪ませるとニタリと笑った。

「ーー真紀ちゃんは悪い子ね。私のいない間に覗くなんて、ダメじゃない」

 ガタガタと震えながら、涙を流して静香さんを見上げる。
 恐怖でカラカラになってしまった喉からは声すら出ない。

「美味しかったでしょ? 沙也加ちゃんと……香澄ちゃんだったかしら。真紀ちゃん美味しそうに食べてたものね」

 恍惚こうこつとした表情で舌舐めずりをする静香さん。

 私が美味しいそうに……食べ……た……?

 今まで出されてきた夕食の数々が蘇る。

「ヴッ……ぐぇェ……っ……」

 私は堪らず嘔吐した。
 あれは……。
 私が毎日食べていた食事は……。

 そこまで考えると、私は再び嘔吐する。
 止まらない吐き気と悪寒に、もはや呼吸さえまともにできない。

「真紀ちゃん」

 私の目の前でしゃがんだ静香さんが、私の頬を優しくなぞって微笑んだ。

「ーー早く食べたくて仕方がなかったの。楽しみだわ」

 恍惚こうこつとした表情で舌舐めずりをする静香さんは、そう言ってニタリと妖しく微笑んだーー。




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