シェアハウス【完】
15
「ーー真紀ちゃん、美味しい?」
私の目の前でニコリと優しく微笑む静香さん。
あの日、まるで何事もなかったかのように普段通りに戻った静香さん。
私はといえば、あの時見た静香さんが忘れられずに、静香さんとどう接すればいいのかわからなくなっていた。
早く貯金を貯めて一人暮らしをしよう。
それまでは極力静香さんと関わらずにすればいいだけ。
数日前に香澄に相談した私は、その時からそう思うようになっていた。
だけど夕飯だけはどうしても避けられない。
静香さんが私の為に作ってくれているのだし、今まで一緒に食べていたのに突然それを辞めたら明らかに不自然だ。
「はい、凄く美味しいです」
「良かった。今日のスペアリブは自信作なのよ」
そう言って嬉しそうに微笑む静香さんに、チクリと胸が痛む。
私の為に料理を作り、私が美味しいと言えば嬉しそうな顔をする静香さん。
こんなにいい人なのに……。
私はあの時静香さんを怖いと感じ、今でも少し怖いと思って避けてしまっているのだ。
今目の前で微笑む静香さんを見ると、何故こんなにも優しい笑顔を見せる静香さんを怖がっているのかと、自分でもよくわからなくなってくる。
罪悪感に目を伏せた時、静香さんが口を開いた。
「真紀ちゃん? ……やっぱり口に合わなかったかしら?」
「あっ……いえ! とても美味しいです」
心配そうに私の顔を覗き込む静香さんに、私は慌てて顔を上げる。
その言葉は嘘ではなく、確かにとても美味しいのだ。
暗い顔をしてはいけない。
そう思った私は、ニコリと笑ってお皿に置かれたスペアリブに手を伸ばした。
肉から突き出た骨を掴んだ私は、美味しそうに肉汁を垂らす肉にかぶりつくと、少し弾力のある肉を骨から剥がして口の中へと入れたーー。
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