井戸の中【完】

邪神 白猫



 腐って黒ずんだその井戸が何ともおどろおどろしく、一瞬怯んだ俺は思わず一歩後ずさる。

「お前のきったねー靴にピッタリのゴミ箱だなっ! 俺が処分しといてやるよっ! 」

 ーーー!!

 あっ!
 と思った時には遅かった。
 俺の靴を高々と持ち上げた智は、その井戸の上でパッと手を離すとそのまま投げ入れた。

「……っ! 何するんだよっ! 」

 声を荒げる俺を見て、ゲラゲラと笑い出す智達。

 悔しさで溢れ落ちそうになる涙を必死に堪えながら、震える拳を握りしめて俯く。
 そんな俺の姿を見て満足したのか、何事もなかったかのようにその場を立ち去っていった智達。

 一人その場に残された俺は、ゆっくりと井戸へ近づくとそっと中を覗いてみる。
 ずっと昔から使われていないのか、中には水などなく渇ききっていた。
 そのお陰か、井戸の底までハッキリと目視ができる。
 想像していたより深さはなかったものの、真っ暗でじめっと湿ったその不気味な雰囲気は、実際の深さ以上のものを俺に感じさせた。

「あれ……? 」

 目を凝らしてよく見ても、先程智に捨てられた靴が見当たらない。

 一体どこへいったんだ?
 確かにこの井戸へ智は靴を投げ入れた。
 目の前で見ていたのだから、間違いようがない。
 そう思って必死に目を凝らしてみるも、やっぱりそこには靴らしき物はなかった。
 仕方なく諦めた俺は、裸足のままトボトボと歩き始めると自宅へと帰って行った。


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