勇者はなぜチーレムなのか?~剣と魔法の異世界白書~
第4話 なぜ勇者は未収得のスキルを使おうとするのか
話は少し遡る。
勇者はウェルズ街の町長の家にいた。
「おお、勇者様よ、ようこそウェルズ街へお出で下すった」
「実は最近、魔王軍の一味でセイレーンと名乗る怪物が悪さをしているようで」
「漁師たちが漁に出ると、一向に帰ってこないのです」
「ここは漁で経済が成り立っていると言っては過言では無い街ですので」
「漁師がいないと街が崩壊……」
「勇者様が探されていると噂の徽章も……」
沈黙が流れる。
「……倒してくれる?」
反応に困った町長を目の前に、勇者が真顔で頷いた。後ろでやりとりを見ていたペルセポネはあたかも「何か喋れよ!」とツッコミを入れたそうな顔で握り拳を作っている。しかしぐっと堪えていた。
町長の家を出る2人。ペルセポネは取り繕った笑顔を勇者に向けて提案した。
「じゃあ勇者様、とりあえず今日はもう遅いし宿屋に泊まりましょうか?」
勇者はまた頷いた。
ペルセポネは「セイレーンがいる場所の下見」という理由をつけて、勇者が先に宿屋に向かうよう促した。勇者が頷いたあと、勇者とペルセポネは別々の道を歩き始めた。
「はぁ……コレ疲れるわ……。これじゃスパイというよりただのお守りじゃないの……」
愚痴をこぼしつつ歩いていると、セイレーンが現れるルトゥイ漁港に着いた。
このあたりのはずだとキョロキョロ周りを見渡していると突然、大きな音をあげて水しぶきが上がる。それと同時にセイレーンが現れた。
「セポ姉さん! こんな時間にこんな所でどうしたんですか?」
「あ、セイレーンちゃん。あなたに会いたかったの。実はかくかくしかじかで……」
ペルセポネはこれまでのいきさつをセイレーンに説明した。
「え、ちょそれマジウケるんですけど」
「笑い事じゃないわよ。ここまで来るのに凄く疲れたんだから……ところで私はあなたにお願いがあってここへ来たの」
「今の勇者の話を聞く限り、とても面倒そうなお願いだと思うんですけど」
「実はここに来るまであの勇者は……」
「やっぱり……。というかそんな勇者がリッチー様を倒そうとしているのですか!?」
「そうね、前途多難だわ……」
セイレーンが哀れみの目を向ける。旅をお供するペルセポネに同情したのだろう。
翌朝に準備が出来次第、またここにやってくるとペルセポネは伝え、セイレーンと別れた。ペルセポネは、いかなる魔王軍の魔物でも対勇者となると苦労することが多いと考えていたが、セイレーンからは頼もしい返事が返ってきたことでやや、肩の荷が下りたようだった。
インカムを使うのとは違い仲間と対面で話せたことが新鮮だったのか、ペルセポネは漁港に向かった時より軽い足取りで勇者の待つ宿屋へと戻った。
「ただいま、勇者様。途中で知り合いに会って、ちょっと遅くなっちゃった……ってもう寝てるし!」
ペルセポネは大きくため息をついた。フリとはいえ仲間がボスの下見に行ったのに、帰ってみたら自分は気持ちよさそうに布団にくるまっている。そんな勇者を見て、怒りを通り越して呆れかえる。しかし今更勇者に何を言っても変わるわけではない。明日は初めての大仕事
「……今さら怒っても仕方がないわね。明日は初めてのボス戦があるわけだし。私も早く寝るとしましょう」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
夜が明けた。快晴だ。絶好のボス討伐日和である。
「おはよう、勇者様。良い朝ね」
「……」
挨拶を聞いていたのかいないのか、勇者は太陽に向かって伸びをした。
「それじゃあ鎧を身にまとったら、ボス討伐へと赴きましょうか。私は先に外で待っていますね」
先に宿屋の支払いを済ませ、出入り口付近で待つペルセポネ。しかし勇者はやってこない。鎧を着るだけなのに、あまりにも遅い。しびれを切らしたペルセポネがもとの部屋に戻ると、勇者は冒険者であるが故のある行動をとっていた。
「勇者様……その癖はどうにかならないのですか!?」
勇者は宿屋の中のありとあらゆる場所を探っていた。前の町長の家でも同じようなことをしており、小銭やポーションを発見しては自分のものにしていた。
「たしかに冒険をするにあたって、アイテムやゴールドの確保は大事よ。ただ、他人の家の中を詮索してもし発見したら自分の物にしてしまうのは勇者としてどうかと思うわ。私もひもじいったらありゃしない!」
それでもおかまいなく勇者はタンスやゴミ箱の中を漁る。
「いい加減にしなさい!!」
ペルセポネの叫びにビクッと反応した勇者。夢中になっていたが、我に返ったようだ。
「……ハァ。さぁ、勇者様。この街を救うべくセイレーンを倒しに行きましょう」
勇者は自身に満ち溢れた表情で頷き、ルトゥイ漁港へと向かった。
その道中、2人は作戦を立てた。セイレーンはいわゆる「耐えればクリア」系の耐久ボスだ。セイレーンの歌を最後まで聞ききれば勇者の勝利となる。そこでペルセポネは提案した。歌を聞かないように、潜ってみてはどうかと。水中であれば、余程の声量でない限り歌は聞こえないだろうというのがペルセポネの考えだ。幸いにも勇者は泳ぐことができるようだったので、その案で臨むことにした。
やがて漁港に到着し、それと同時に昨晩と同じような音と水しぶきをあげてセイレーンが姿を現した。
「あら、アナタが勇者かしら? 噂は聞いているわ。私を狙っているんですってね。でも残念、あなたの旅はここで終わりよ」
勇者が無言で身構える。ペルセポネは勇者の後ろからセイレーンにアイコンタクトを送る。
「えっと……たしか昨日の夜、姉さんが言ってたのは……」
昨晩、ペルセポネはセイレーンにこのような事を話していた。ここに来るまであの勇者は、モンスターが出現する場所を全て避けて歩いてきた。どうしても出現場所を通らなければ進めないところでモンスターにエンカウントしてしまったら、すべて逃げてきたのだ……と。そのためステータスが全くあがっていないどころか、剣の使い方も知らない。ただ可愛い後輩に迷惑はかけられないと、勇者の方は自分でなんとかするとペルセポネは意気込んだ。セイレーンはいつも通り、強敵を相手にするつもりで歌ってほしいとのことだ。
「……姉さん、本当に大丈夫かよ」
そうしてセイレーンは大きく息を吸い込み、歌い始めた。それと同時に、勇者は勢いよく海へ飛び込んだ。
「よし、打ち合わせ通り! さすがの――」
「えっ!?」
セイレーンが驚いた。まだ続くはずの歌を中断して、ペルセポネに問いかけた。
「姉さん、勇者はスキル『コシキエーホー』の使い手なんですか?」
「コシキ……なんて?」
「遠い国で伝わる、泳ぎ方のひとつです。習得にはかなりの鍛錬が必要だと聞きます」
「なんで今そんなことを?」
「なんで、って姉さん、人間は服を着たまま泳ぐことすら大変なことですよ。それなのに鉄の鎧を着用して、となると、普通の人間なら沈む一方でしょう。でも『コシキエーホー』を習得しているなら大丈夫ですね。いやー、まさかこんなところで幻の泳法が見られるとは――」
「……え?」
ペルセポネが自身の過ちに気づいたときは既に遅かった。もちろん勇者がそのようなスキルを習得してなどいない。勇者が飛び込んだあたりから噴き出す泡に声をかけたが、返ってくるのはブクブクという音だけだ。そしてまもなく、泡が途絶えた。
ペルセポネは めのまえが まっくらに なった!
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
ウェルズ街で2度目の朝――
「おはよう、勇者様。良い朝ね」
もちろん返事は返ってこない。
「セイレーンを倒しに行くの、ちょっと待っててもらえないでしょうか。アイテムなどの準備をするので……」
勇者は無言で頷いた。
セイレーンは宿屋を出て、そそくさと人気の少ない路地裏へと向かい、灯りのついていない街灯に怒りをぶつけた。
「な~にが『うん』じゃあのクソ勇者! だいたいモンスターと戦ってないんだからアイテムなんて何も持ってないし買うゴールドもないじゃないの。どこまで適当なのかしら! しかしどうしたものかしら……困ったときのヴァンプ君ね」
ペルセポネはインカムを使いヴァンパイアに連絡を取った。
「ヴァンプ君、今大丈夫?」
≪おお、セポ姉。我が輩もちょうど連絡を取ろうと思っていたところだ。進捗はどうだ?≫
「ちょっとまずいことになったわ」
≪またかよ≫
「そう言わないでよ。あの勇者、もの凄く怠惰なの」
≪怠惰?≫
これまでのいきさつを説明した。その中でペルセポネが最も伝えたかったのは『この先が不安だ』ということだ。力が足りないだけならまだしも、オツムも足りない気がしてならないようだった。それを踏まえて、対セイレーンをどう乗り切ろうか、ペルセポネはヴァンパイアの知恵を借りることにした。
≪どうするも何も、セイレーンの攻略方法は『攻撃する』ことじゃなくて『耐える』ことだろ? 簡単じゃないか≫
「え?」
≪セイレーンの攻撃は歌によるものだろ? それなら耳栓でもして臨めばいいではないか≫
「あー……なるほど!」
それぐらい気づいてくれよというヴァンパイアの雰囲気がインカム越しに伝わって来そうだった。しかしペルセポネは、耳栓以外にも何か閃いたことがあるようだった。顔が晴れ晴れとしている
「そうね、耳栓ならば潜る必要もなくなるしね」
≪潜る? なんの話だ?≫
「いえ、なんでもないわ。こっちの話よ」
≪ん? そうか、まぁ戦いが終わったらまた連絡をくれ≫
ヴァンパイアからの助言を受け、駆け足で宿屋に戻るペルセポネ。どこでなら耳栓を手に入れられるか考えながら、ひとり呟いた。
「しっかし魔法や剣を使う世界で耳栓で攻略! って、幻想が幻滅に変わる瞬間に立ち会った気分だわ……耳栓がまた活躍する機会があれば面白いのだけれど」
勇者はウェルズ街の町長の家にいた。
「おお、勇者様よ、ようこそウェルズ街へお出で下すった」
「実は最近、魔王軍の一味でセイレーンと名乗る怪物が悪さをしているようで」
「漁師たちが漁に出ると、一向に帰ってこないのです」
「ここは漁で経済が成り立っていると言っては過言では無い街ですので」
「漁師がいないと街が崩壊……」
「勇者様が探されていると噂の徽章も……」
沈黙が流れる。
「……倒してくれる?」
反応に困った町長を目の前に、勇者が真顔で頷いた。後ろでやりとりを見ていたペルセポネはあたかも「何か喋れよ!」とツッコミを入れたそうな顔で握り拳を作っている。しかしぐっと堪えていた。
町長の家を出る2人。ペルセポネは取り繕った笑顔を勇者に向けて提案した。
「じゃあ勇者様、とりあえず今日はもう遅いし宿屋に泊まりましょうか?」
勇者はまた頷いた。
ペルセポネは「セイレーンがいる場所の下見」という理由をつけて、勇者が先に宿屋に向かうよう促した。勇者が頷いたあと、勇者とペルセポネは別々の道を歩き始めた。
「はぁ……コレ疲れるわ……。これじゃスパイというよりただのお守りじゃないの……」
愚痴をこぼしつつ歩いていると、セイレーンが現れるルトゥイ漁港に着いた。
このあたりのはずだとキョロキョロ周りを見渡していると突然、大きな音をあげて水しぶきが上がる。それと同時にセイレーンが現れた。
「セポ姉さん! こんな時間にこんな所でどうしたんですか?」
「あ、セイレーンちゃん。あなたに会いたかったの。実はかくかくしかじかで……」
ペルセポネはこれまでのいきさつをセイレーンに説明した。
「え、ちょそれマジウケるんですけど」
「笑い事じゃないわよ。ここまで来るのに凄く疲れたんだから……ところで私はあなたにお願いがあってここへ来たの」
「今の勇者の話を聞く限り、とても面倒そうなお願いだと思うんですけど」
「実はここに来るまであの勇者は……」
「やっぱり……。というかそんな勇者がリッチー様を倒そうとしているのですか!?」
「そうね、前途多難だわ……」
セイレーンが哀れみの目を向ける。旅をお供するペルセポネに同情したのだろう。
翌朝に準備が出来次第、またここにやってくるとペルセポネは伝え、セイレーンと別れた。ペルセポネは、いかなる魔王軍の魔物でも対勇者となると苦労することが多いと考えていたが、セイレーンからは頼もしい返事が返ってきたことでやや、肩の荷が下りたようだった。
インカムを使うのとは違い仲間と対面で話せたことが新鮮だったのか、ペルセポネは漁港に向かった時より軽い足取りで勇者の待つ宿屋へと戻った。
「ただいま、勇者様。途中で知り合いに会って、ちょっと遅くなっちゃった……ってもう寝てるし!」
ペルセポネは大きくため息をついた。フリとはいえ仲間がボスの下見に行ったのに、帰ってみたら自分は気持ちよさそうに布団にくるまっている。そんな勇者を見て、怒りを通り越して呆れかえる。しかし今更勇者に何を言っても変わるわけではない。明日は初めての大仕事
「……今さら怒っても仕方がないわね。明日は初めてのボス戦があるわけだし。私も早く寝るとしましょう」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
夜が明けた。快晴だ。絶好のボス討伐日和である。
「おはよう、勇者様。良い朝ね」
「……」
挨拶を聞いていたのかいないのか、勇者は太陽に向かって伸びをした。
「それじゃあ鎧を身にまとったら、ボス討伐へと赴きましょうか。私は先に外で待っていますね」
先に宿屋の支払いを済ませ、出入り口付近で待つペルセポネ。しかし勇者はやってこない。鎧を着るだけなのに、あまりにも遅い。しびれを切らしたペルセポネがもとの部屋に戻ると、勇者は冒険者であるが故のある行動をとっていた。
「勇者様……その癖はどうにかならないのですか!?」
勇者は宿屋の中のありとあらゆる場所を探っていた。前の町長の家でも同じようなことをしており、小銭やポーションを発見しては自分のものにしていた。
「たしかに冒険をするにあたって、アイテムやゴールドの確保は大事よ。ただ、他人の家の中を詮索してもし発見したら自分の物にしてしまうのは勇者としてどうかと思うわ。私もひもじいったらありゃしない!」
それでもおかまいなく勇者はタンスやゴミ箱の中を漁る。
「いい加減にしなさい!!」
ペルセポネの叫びにビクッと反応した勇者。夢中になっていたが、我に返ったようだ。
「……ハァ。さぁ、勇者様。この街を救うべくセイレーンを倒しに行きましょう」
勇者は自身に満ち溢れた表情で頷き、ルトゥイ漁港へと向かった。
その道中、2人は作戦を立てた。セイレーンはいわゆる「耐えればクリア」系の耐久ボスだ。セイレーンの歌を最後まで聞ききれば勇者の勝利となる。そこでペルセポネは提案した。歌を聞かないように、潜ってみてはどうかと。水中であれば、余程の声量でない限り歌は聞こえないだろうというのがペルセポネの考えだ。幸いにも勇者は泳ぐことができるようだったので、その案で臨むことにした。
やがて漁港に到着し、それと同時に昨晩と同じような音と水しぶきをあげてセイレーンが姿を現した。
「あら、アナタが勇者かしら? 噂は聞いているわ。私を狙っているんですってね。でも残念、あなたの旅はここで終わりよ」
勇者が無言で身構える。ペルセポネは勇者の後ろからセイレーンにアイコンタクトを送る。
「えっと……たしか昨日の夜、姉さんが言ってたのは……」
昨晩、ペルセポネはセイレーンにこのような事を話していた。ここに来るまであの勇者は、モンスターが出現する場所を全て避けて歩いてきた。どうしても出現場所を通らなければ進めないところでモンスターにエンカウントしてしまったら、すべて逃げてきたのだ……と。そのためステータスが全くあがっていないどころか、剣の使い方も知らない。ただ可愛い後輩に迷惑はかけられないと、勇者の方は自分でなんとかするとペルセポネは意気込んだ。セイレーンはいつも通り、強敵を相手にするつもりで歌ってほしいとのことだ。
「……姉さん、本当に大丈夫かよ」
そうしてセイレーンは大きく息を吸い込み、歌い始めた。それと同時に、勇者は勢いよく海へ飛び込んだ。
「よし、打ち合わせ通り! さすがの――」
「えっ!?」
セイレーンが驚いた。まだ続くはずの歌を中断して、ペルセポネに問いかけた。
「姉さん、勇者はスキル『コシキエーホー』の使い手なんですか?」
「コシキ……なんて?」
「遠い国で伝わる、泳ぎ方のひとつです。習得にはかなりの鍛錬が必要だと聞きます」
「なんで今そんなことを?」
「なんで、って姉さん、人間は服を着たまま泳ぐことすら大変なことですよ。それなのに鉄の鎧を着用して、となると、普通の人間なら沈む一方でしょう。でも『コシキエーホー』を習得しているなら大丈夫ですね。いやー、まさかこんなところで幻の泳法が見られるとは――」
「……え?」
ペルセポネが自身の過ちに気づいたときは既に遅かった。もちろん勇者がそのようなスキルを習得してなどいない。勇者が飛び込んだあたりから噴き出す泡に声をかけたが、返ってくるのはブクブクという音だけだ。そしてまもなく、泡が途絶えた。
ペルセポネは めのまえが まっくらに なった!
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ウェルズ街で2度目の朝――
「おはよう、勇者様。良い朝ね」
もちろん返事は返ってこない。
「セイレーンを倒しに行くの、ちょっと待っててもらえないでしょうか。アイテムなどの準備をするので……」
勇者は無言で頷いた。
セイレーンは宿屋を出て、そそくさと人気の少ない路地裏へと向かい、灯りのついていない街灯に怒りをぶつけた。
「な~にが『うん』じゃあのクソ勇者! だいたいモンスターと戦ってないんだからアイテムなんて何も持ってないし買うゴールドもないじゃないの。どこまで適当なのかしら! しかしどうしたものかしら……困ったときのヴァンプ君ね」
ペルセポネはインカムを使いヴァンパイアに連絡を取った。
「ヴァンプ君、今大丈夫?」
≪おお、セポ姉。我が輩もちょうど連絡を取ろうと思っていたところだ。進捗はどうだ?≫
「ちょっとまずいことになったわ」
≪またかよ≫
「そう言わないでよ。あの勇者、もの凄く怠惰なの」
≪怠惰?≫
これまでのいきさつを説明した。その中でペルセポネが最も伝えたかったのは『この先が不安だ』ということだ。力が足りないだけならまだしも、オツムも足りない気がしてならないようだった。それを踏まえて、対セイレーンをどう乗り切ろうか、ペルセポネはヴァンパイアの知恵を借りることにした。
≪どうするも何も、セイレーンの攻略方法は『攻撃する』ことじゃなくて『耐える』ことだろ? 簡単じゃないか≫
「え?」
≪セイレーンの攻撃は歌によるものだろ? それなら耳栓でもして臨めばいいではないか≫
「あー……なるほど!」
それぐらい気づいてくれよというヴァンパイアの雰囲気がインカム越しに伝わって来そうだった。しかしペルセポネは、耳栓以外にも何か閃いたことがあるようだった。顔が晴れ晴れとしている
「そうね、耳栓ならば潜る必要もなくなるしね」
≪潜る? なんの話だ?≫
「いえ、なんでもないわ。こっちの話よ」
≪ん? そうか、まぁ戦いが終わったらまた連絡をくれ≫
ヴァンパイアからの助言を受け、駆け足で宿屋に戻るペルセポネ。どこでなら耳栓を手に入れられるか考えながら、ひとり呟いた。
「しっかし魔法や剣を使う世界で耳栓で攻略! って、幻想が幻滅に変わる瞬間に立ち会った気分だわ……耳栓がまた活躍する機会があれば面白いのだけれど」
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