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「S」

クエスト 9:『成果の決着』

突如として響き渡った一人の声。
その声に辺りは唖然とし、彼に視線を集めている。

そしてマサは、その声に聞き覚えがあった。

「イフ……っ」

少し驚き気味の声。
構えていた剣が解かれ、それ故にヒロも中断し注目する。

「……知り合いか?」

「ああ……師匠だ」

「師匠っ?」

その言葉に驚きを浮かべると同時に興味を惹かれ、視線を移すヒロ。

そこにいたのは、怒り気味に呆れを浮かべている、黒いコートに身を包んだ紅い瞳の剣を背負わぬ剣士だった。

「相手テイルじゃねぇじゃねぇか!何もたついてんだよ!そんなやつに手間取ってるとか、今までの修業どうなんだよ!そいつ格下だぞ!?」

聞いたことの無いイフの奇声。

後半裏返っていることから本気で本当の、それほどまでに熱い応援だということがわかる。


――ただ、


「ほほう……格下、ねぇ……」

隣にいる相手は、怒りの炎をメラメラと燃やしていた。


――応援なのに、相手を刺激してどうすんだよイフ……。


「……ま、良いんだけどさ」

だがそのことを気にすることなく、剣を構え直すマサ。

表情は明るく、身体は少し軽くなった感覚がある。
が、先の野次もあってか、お遊びもここまでということらしい。


――何故なら、


手をスクロールさせ、メニューウィンドウを開くヒロ。
軽く10秒ほどの時が過ぎ、待ちわびた先に待っていたのは、

「……どうやら、痛い目を見たいらしい」

怒り狂った瞳に狂者の笑みが浮かべられたヒロの姿だった。
先と明らかに違うところを上げるのであれば、ヒロの両手に紅の二本の剣が構えられていることだった。


「こいつは元々、《紅蓮丸》と《紅蓮刀》っつう二本でセットの剣なんだよ。つまりは――」


言葉を区切るヒロ。
マサは一瞬で間合いを詰められ、ゆっくりとヒロの顔が上がる。

「俺は、双剣使いなんだよ」

「……っ!」

今までとは比べ物にならない一撃がマサを襲う。


――なんだ、これ……っ!?


一瞬の出来事。
振り上げられ、こちらへと向かって来るはずの刃。そのモーションが一切見えない。
それを証拠に、刀身はもう胸元にある。有り得ない速度。


――まだだ……っ!


それをぎりぎりで受け止めるマサ。


――だが、


守ったと思いきや闘技場の端へと勢いよく飛ばされる。

「がはっ……!」

壁に強く叩き付けられ、意識が朦朧とするマサ。
地へと這いつくばり、気づけば左上に表示されるHPゲージがイエローへと突入していた。

さらには、身体が鉛のように重く、若干の息苦しさと痺れを感じていることがわかる。
再度、己のHPゲージへと目を向ければ、雷炎の状態異常マークがある。

視界がぼやける中、次第に大きくなっていく足音に意識が向けられる。
音が止み、顔を上げれば、そこには案の定のヒロがいる。

「さぁ、この《デュアル・スカーレット》に斬られたいのは、お前か?」

向けられた剣先と浮かべられる笑み。
影に染まった表情は、狂気に満ちたものだった。





地面に這いつくばりながら、マサはふと思う。


――全く、やってくれたなあいつ……。


振り上げられる紅の刃。
もう終わりだと思うこの瞬間に、いろいろな事が脳裏を過ぎる。


――麻痺毒とはな……。


表示された状態異常。
時間差で発動したそれは、このデュエルにおいてハンデとして禁じられていたはずの武器のアビリティだった。

さらに今発動されているのは、火傷状態と合成された特別製のもので、じわじわとHPが削られていた。

このことが周りに気づかれれば、不正でこちら側の勝ちにできるのだが、ヒロの攻撃は早く、一撃一撃の衝撃波によって土煙が巻き起こる。

今でさえ、最後の一撃だと言わんばかりの剣がこちらへと振り下ろされているのだから、もう遅い。

このまま待っていれば、確実に敗北する。デュエル終了後の不正発覚で勝負を狙うのも手だが、それを自分自身は許してくれない。


――何故なら、


「んぐっ……ぁあああぁああっ!!」


仲間の運命が賭けられた勝負で、そんな勝ち方をしても、負けたということに変わりはなく、ギルドリーダーとして示しがつかない。何より――、


――そんなの、かっこ悪いじゃねぇか……っ!


血反吐くような勢いで雄叫びを上げながら、鉛のように重いからだを動かす。


――そして、


紅の刃が勢いよく叩き付けられ、幾度目の衝撃と土煙が巻き上げられ会場を包み込んだ。





――経過時間、2分30秒。


短いようで長いこの瞬間、会場全体の意識は闘技場で巻き起こっているデュエルに向いていた。
勢いと迫力ある攻撃が何度も会場を衝撃波と土煙が襲う。

そして今、それが最後だというように会場は、審判という名の静寂が広がっていた。

「……」

土煙が収まっていく中、目を凝らすイフ。
そこには、間一髪で避け切ったのか、立ち上がったマサの姿があった。

「はぁ…はぁ…」

荒い息。
今にも倒れそうなほどに身体がヨロヨロなのがわかる。

ただ目は死んでおらず、瞳にはまだ闘志があった。


「……《―――》」


小さく呟かれた言葉。
口の動きからして、あれをやるつもりなのだろう。

よろけ気味の足が、それを感じさせないほどの速度で動き出す。

「……っ」

驚き気味のヒロ。
けれどそれも一瞬で、紅の双剣を瞬時に構え直している。

有り得ないような光景に、目は何を企んでいるのかわからない状態。

ヒロの周りを最高速で回転しているマサ。
きっと恐らくは、ヒロにとっては錯乱でも狙ったものなのだと思っていることだろう。

そしてそれは、マサの十八番である《フレイム・ストーム・アタック》なのだと。

「はぁ…はぁ…」

剣を横に構え、ヒロの周りを回転しているマサ。

囲み、走り回った地面には、足跡で一つの円が出来ており、そこから疾風が天に上るような勢いで巻き起こる。

「……」

やはりかと、予想が的中したことに気持ちが堕落しているヒロ。

攻撃が来るならそろそろだと、巻き上がる疾風の中でマサがその風を昇っていくのを待つ。


――のだが、


「はぁあっ!!」

「……っ!」

マサは疾風に昇ることなく、ヒロの目の前を閃光の如く切り付ける。

鳴り響く金属音。
不意を突かれ、右脇腹にポリゴンの切り傷を付けられる。

「くそっ……。……っ!?」

攻撃を真面に食らい、背後へと消え去ったマサに反撃をしようと振り返るヒロ。
だがそこにヒロの姿はなく、あるのは取り囲んでいる疾風だった。

「らぁあっ!」

「くっ……!」

またも不意の一撃。ガンッという金属音。
疾風に隠れ、背後から不意に現れては一撃を当てられる。

「またか……っ!」

同じ攻撃を何度も食らうヒロ。
思う事があれば、予想したものとは少し違う現状の対応できない攻撃へのおかしいというただ一言だった。

「はっ……はぁあっ……っ!」

「がはっ……ぐふっ……あがっ……」

徐々にスピードを増していくマサの攻撃。視線を通過していく火花。
今ではもう、四方八方から剣が槍のように飛んできている。読めない攻撃。

「はぁ…はぁ…」

息遣いが荒くなり、HPゲージへと目を向けるヒロ。

気づけば、マサと同じくイエローゾーンへと突入し、あと数回でレッドゾーン。
この技の最終威力がどのくらいかはわからないが、どの道このまま行けば負けることは明白だった。

「……っ!」

どうするか。
そう考え、自然と次の攻撃への対処優先に作戦を練ろうと疾風へと目を向けたヒロ。

そこにあったのは、疾風の中浮かび上がる大量の火の玉だった。

「……っ!」

鳴り響く金属音。何度も聞いたその音。

わかることがあるとすれば、疾風に広がっている火の玉が激しく燃えて、それぞれがそれぞれと合わさっていく異様な光景が、その音によるものだということ。


――そして、


気づいた時にはもう遅く、火の玉はマグマのように吹き荒れ、身を焦がし、会場を熱が包み込んでいく。

ヒロの視界は、真っ白に染まっていった。





マサの剣技ソード・スキル大炎上ラージ・ファイア》のマグマサイクロンにより、会場は熱風と蒸気に包み込まれ、イフが目を開いた先にあったのは、HPゲージが0で血を這いつくばるヒロの姿と、ボロボロで今にも倒れそうに佇んだマサの姿があった。

そして、マサの頭上には《Winner》という表示が現れ、

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉ!」」」」」

一瞬で、会場は歓声に満ち溢れた。

「はぁ…はぁ…、……っ」

「……っ!」

息を切らし、視界が歪んでふらつくマサ。それに気づいたイフ。
イフはすぐさまアイテムを取り出し、マサへと投げつけた。

「マサ!」

「……?」

ゆっくりとイフへ視線を向けるマサに、一つの小瓶が投げつけられる。

ままならない視界の中、イフの「受け取れ!」という声をもとに、飛んでくる物体を掴み取るマサ。
眺め、もう一度イフへ目を向けると、マサはそっと瓶に口をつけた。

イフから渡された小瓶。
それは、消耗しきっているマサのHPゲージを全回復させるアイテム《ポーション》だった。

透き通ったエメラルド色の液体を飲み干していくマサ。
徐々にHPが回復していき、死んだ瞳には光が戻っていく。

飲み干し、空になったポーションがポリゴンの破片と化すと、マサはその場に崩れ落ちた。

「っはぁー……つっれた~」

空を仰ぎ見るように座り込んだマサ。
ふと隣に目をやれば、ヒロのリスポーンカウントが残り3にまでなっており、

「っあ~……復活のローディングに1分かかるとか、重すぎんだろこれ」

首や右腕を回しながら、関節を解す仕草をしたヒロが復活の光エフェクトの中、立ち竦んでいた。

「ほらよ」

マサへ手を差し伸べるヒロ。
その手を見ながらマサは微笑を浮かべると、その手を掴む。

立ち上がり、握手を交わすと、会場はさらなる歓声で溢れ、拍手喝采が鳴り響いた。
そのことに呆気に取られていれば、繋がれていた手は肩を組むようにして変更される。

「お前つえーな。やっぱ、ランキング2位は伊達じゃねぇっつうか、前やった時とは全然違うな」

「そりゃあ、人は成長しますから」

「だな」

親しき会話。馴れ合いの会話。

それも当然。彼等は二人とも面識があり、昔に一度、デュエルしたことがあるのだから。

ただその頃のヒロは、双剣ではなく太刀使い。
そのため今回のデュエルは、互いの成長を垣間見たと同時に、それが嬉しくも誇らしいものだった。

そんな『昨日の敵は今日の友』という、その言葉が一番似合う二人の関係を、人は『好敵手ライバル』と呼ぶ。


――のだが、


「それはそうと」

鬱陶しくも肩を解くマサ。

「このデュエルじゃ、あんたらのとこは『武器・装備のアビリティを使わない』ってルールだったと思うんだが?」

「あー……」

「……忘れてたな?」

「いや、というか、この話を聞かされたの今朝でよ。急な話で内容とか全然把握してなくてだな。とにかくマサとメンバーを賭けたデュエルをして来いって事だけしか俺には知らされてないな」

「なんだそりゃ……ルールもへったくれもねぇな」

「まぁ勝ったんだ、細かいことは気にするな」

「そうなんだけどな」

呆れを浮かべるマサ。
視線をふと、観客席にいるイフへと向け、自然とそちらへと足を運んでいく。

歩きながらにイフの顔を眺めれば、笑みが浮かべられており、マサも笑みを溢す。


――そして、


「やったな」

迎えられ、掲げられたイフの片手に

「ああ!」

盛大なハイタッチを交わした。


こうして、マサの2nd《セカンド》対人戦デュエルは幕を閉じた――。

          

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