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Imaginary Online

「S」

クエスト 6:『再会』

――大会前夜。


修行を開始して早1か月が過ぎ、三人は酒場――《ハウント》で言葉を交わしていた。


「もう1か月かー。長かったような短かったような」


思いふけるようにテーブルに突っ伏すマサ。

顔には若干の傷跡が残っており、見るからに疲れているのがわかる。

それもそのはず。最後の総仕上げということで、ソロでボスモンスターを狩るという前代未聞の挑戦をしたのだから。

そしてそのクエストは、過去にイフがクリアしたクエストの一つで、短期間にレベルを大幅に上げることができる代わりに、難易度は通常の倍以上の超高難易度というものだった。

このクエストを選んだのは、レベリングのためだけではなく、マサの修行に応える一方でイフの記憶探しも兼ねたものだった。

そのためイフは、マサとは相反するように、いつも通りメニューウィンドウと睨めっこをしていた。案の定のリリィを傍に置いて……。

「結局、ヒントになるもんは見つからなかったなぁ」


――そう。


イフの過去を記録した、記憶と繋がるメモの鍵であるクエストに挑戦し、得たものは修行の最終段階の達成のみだった。

まぁ、この世界は果てしなく広いため、そう簡単に行く話でもないのだと欲張らずに行こうということで話はついた。


――のだが、


「……」

未だ無言のイフ。

傍にいるリリィへと視線を向けるマサなのだが、リリィにもわからないようで疑問符を浮かべている。

「ふぅ……」

しばらくして、ウィンドウを閉じ、一息つくイフ。

心配そうに眺めていたリリィに、そっと微笑むと、優しく頭を撫でている。

そして二人は、ラブオーラをマサの視界に放ちだし、その光景に見慣れたマサは呆れ顔を浮かべていた。

「んで、何をそんなに見つめてたんだ?」

「ああ、それはな……」

「……?」

マサのもとにイフのメニューウィンドウが表示され、その懐かしい光景に微笑ましく思いつつも、イフが眺めていたものの正体を知るべく目を通していく。

「この野郎……」

互いに空白だったスキル覧。

だが目にした矢先、開いたページにすぐ、この前までレベル25だったのがこの1か月で5レべ上がってるという事実にやりやがったなという気持ちがあった。

何故なら四六時中、イフとマサは共に行動をしていた。
そして修行の際も、クエストには必ず共に名前を載せていた。

パーティーを組んでいるのだから当たり前なのだが、攻略していたのはマサ一人。イフは傍にいても剣を抜くこともなくメニューウィンドウと睨めっこ。

なのに、ちゃっかりクエストの経験値やボーナスをもらってレベルを上げていたことに少し癪に障った。

楽してレベル上げるとか、卑怯とういうかずる賢いというか……。

「おい……ちゃっかりレベル上げてんじゃねぇよ」

「テヘペロ☆」

「可愛かねぇよ!」

「イフ~♡♡♡」

「……」

「まぁ、修行の報酬ということで。俺だってお前に時間割いてる暇なかったんだからな」

「ただ画面と睨めっこして、毎日彼女とイチャコライチャコラ……。どこが暇じゃないって言うんだよ」

「だから、本題に目を向けろって言ってんだよ。それに、リリィは彼女じゃなく嫁だ」

「♡♡♡」

「……」

何度見ても、リリィのイフへの好意は異常だと言えるし、どこがいいのかと思ってしまうマサ。

嫉妬などではなく、ただ、見せられる側にもなってほしい。
微笑ましくも恥ずかしい、そんなバカップル感を醸し出し続けるのだから。

目にする光景に嫌気がさしながら、マサは視線をスキルウィンドウへと戻す。

「……っ」

そこに映っていたのは、空白だったはずのスキル覧ではなく、クエスト達成時に貰えるスキルポイントを利用して手に入れたスキルたちだった。


Skill:《隠密ステルス》《索敵》

↳Unique:《強化アレンジ
プレイヤー《イフ》、または《イフ》を含めたパーティー・
ギルドへ向けた全ての効能を上げる。


「二つほど、通常スキルをゲーム内から貰ってきた。《隠密》はリアルで影が薄い俺にとってはぴったりだから何となく。で、《索敵》はあって困らないし、あった方が便利だと単純に思った」

「なるほどなぁ。じゃあこの『強化』と書いて『アレンジ』と読むユニークスキルは……」

「それは、この世界ゲームのユニークってのは、他人と被ったら意味がないだろ?だから、被らないのを作るっていうのを徹底してんだけど、そのせいで迷いすぎて時間がかかってな。ずっと空欄だったんだけど、なら全部を取ればいいと思って、それ作った」

「全ての効能を上げるって、具体的には何が上がるんだ?」

「例えば、回復アイテムを使う時、回復の上限が10%増しになったり、俺がさっき取った《索敵》スキルの範囲を10倍に広げたり、武器のアビリティの効果を上げたりと、まぁいろいろだ」

「それもうチートだろ……」

「まぁな。でも、それが許されたのがこの世界だ」

「……そうだったな」

突然手にした販促級のユニークスキル。

通常のスキルでさえ、オリジナルのものへと変化させる効果。

それが指定的なものではなく、全てのものというのだから強力すぎる。

だがふと、こんなユニークスキルを作成するにも代償があるだろうにと思ってしまうマサ。

まぁそれも、imvによって応じるため、イフの場合は関係ないのかと凄味を感じつつ、何かが胸に引っかかった。

「じゃ、そろそろ解散するか。明日のために、な?」

立ち上がり、合図するイフ。

「ああ、そうだな」

だからマサも、それに応えるように席を立つ。

「もうお別れですか……寂しいです」

俯き気味に表情を暗くするリリィ。

その姿が儚げで、見ているだけでその気持ちが痛いほど伝わってくる。

リリィはAI。イフやマサとは違う。


――だから、


「また明日も会えるだろ?」

励ましの言葉を掛けるマサ。

たとえ極僅かでも、気を紛らわし、表情が明るくなるのなら増しだと、そう思ったから。

何故か不思議と、彼女には笑顔でいてもらいたいと思う。

恋愛感情ではなく、ただ自然とそう思う。

だからなのか、イフも微笑し口を開いた。

「本当はお持ち帰りしたいんだけど……クソッ、現実はなんて残酷なんだ……っ」

「おいそこ、問題発言だぞ」

案の定、イフが何かしようとしていたことがわかっており、マサのツッコミがスムーズに入ったのだが、すぐ傍でリリィが当たり前のように「イフ……」と言葉を漏らして、頬を赤く染めていたのは言うまでもない。





――その夜。


仮想世界から帰還し、現実リアルへと浮上してきた光太郎は、月夜の晩、ベッドに横たわりながらふと思う。

「また、隠し事が増えたな……。昔の俺も、こうだったのかな……」

浸り気味に独り言を呟く光太郎。

夜だからなのか、暗闇の中で溢す言葉は、とても苦みのある現実だった。

「まぁでも、ゲームだから仕方ないよな」

染み渡る一言一言。

自分を偽り、言い聞かせるように吐き出す。汚い言い訳。

「はぁ……」

短い溜息。

納得し、これまでのことを振り返る。

イフが毎日、メニューウィンドウを眺めていたこと。

急にスキルを手に入れたこと。

自分にはAIという嫁がいること。

ゲームに浮上しておきながら、この1か月クエストに参加せず、剣を抜かなかったこと。


それは全部――、


「……あいつは誰だ?」

立ち上がり、月光が射す窓辺に、思考を働かせる。

視線をそっと机のディスプレイへと向けると、近くに置いてある記憶の鍵へと移す。

《Imaginary・Online》のパッケージ。

事故の間際で持ち合わせていた、未来へ向けた自分の手紙。


――そして、


「まさか、な……」

スマホに映されたSNSの画面。そこにある3人の名前。

脈打つ心臓。唸る鼓動。

それを目にする時、ただ何度も、胸騒ぎがする。

働く予感。
頭から離れず、勇気を出せずにいる自分。

過去の自分を知りたければ、知っている者に当たればいい。
ただそれをできずにいるのは、知ることを恐れているから。

知りたいのに踏み込めず、手を伸ばそうとして諦める。
そんな自分がほんと、嫌になる。
きっと、わかっているのだ。あれが何なのか。

「……」

再度、夜空の月へと視線を戻す。

脳裏に蘇るのは、1か月前のログイン時に広がった、懐かしき視界の光景。

左上に映る自分のHPゲージと街歩く人、賑わう街。
歩く先で右上に映る方位磁針を見ながら気づいた事実、そこに映る誰か。
点滅し、必ず100メートル圏内を移動する赤いプレイヤーアイコン。

この世界ゲームで情報は命。
だから、製作者ゲームマスターの権限を利用してでも、己の情報は誰を通しても漏らさないよう、隠し通し偽って来た。

たとえそれが、友を裏切るような行為であっても。

「やっぱり、そうなのか……?」

何度も何度も、都合の良いことを考えてしまう。

それでいて、嫌な予感はフラグのように現実に突き刺さる。心を蝕む。


あってほしいが、叶ってほしくはない。そんな矛盾に囚われて――。


「……」

月夜に射す光、暗がりの部屋に作り出される影。
それはまるで、今の自分を現しているようで、俯き気味に悲しくも思ってしまうのだ。

隠し通し、順序を踏みながら心開くようにして閲覧解除したスキル覧。
友と共に剣を振ることを我慢し、眺め続けたスキル発動時に開かれるマップ、そこに映し出されるあのプレイヤーアイコン。


あれは、きっと――、


求め続けた答えが見つかり、まだ確定されたことでもないのに、不思議と涙が零れてしまう。

友を騙してまで、発動した《索敵》スキル。それは、よく考えればわかること。
このレベルにもなって、スキル一つないわけがない。それらしい理由を並べた事実無根。

そこまでして探していたものは、こちらを監視し続ける怪しげな存在がいたから。
だがそいつは、こちらを見ているだけで、何もしてこず、する気配すらない。一体何をしたいのやら。

ただ見ているだけの存在。
だから何となく、この可能性を思ってしまう。

視線を部屋に飾られた時計へと移す。
だが案の定の暗さで何も見えないめ、自然とスマホへと移してしまう。

そして開かれているSNSの画面覧に映る名前。それを閉じて、時刻を確認する。
それを閉じた瞬間、同時に必然と目に入ってしまうデスクトップ画面。そこに映し出される四人の写真。

いろんな表情とそこに込められた思いが何となくにも伝わって、今の自分は何なのかと追い詰められているみたいに、否定されているみたいに、惨めになる。

だって、こう考えれば全てがしっくりくるのだ。
あのプレイヤーがこちらを見守り続けている理由。


それはただ単純に、あれが――、


その写真に写る三人の誰かだからではないのか、と――。





――翌日。午後3時、闘技場前。


「いよいよ……何だよな」

「ああ」

今日のために集まったような人ごみの多さと、街中に聳え立つ巨大なオブジェクトを前に、イフとマサはいつも通りのようで若干の圧倒と焦りを浮かべていた。

「ここが闘技場か」

「来るのは初めてか?」

「ああ」

何気ない会話。

だがふと、イフは闘技場に組み込まれた表札に気づいた。

「《殺し合ム》……?」

「『コロシアム』と『殺し合い』に関連性と語呂合わせでそう付けたんじゃね、お前が。あとは、よくここが対人戦デュエルでよく使われる場所だからなのか、それともただ単純にお前が面白がって付けただけなのか……ってのが大方の理由だろうよ」

「あぁ」

「合点してる姿からして、面白いからの一点だな」

「さて……そろそろ時間だな」

他愛もない会話を済ませ、気を取り直し、少しの緊張と微笑を浮かべるマサ。

一歩、また一歩と会場へと近づいていく。


――のだが、


「イフ?」

佇んでいるイフ。

普通なら、マサと共に行動するのだが、イフは足を止めたままだった。

「すまん、先行っててくれ」

「……?なんかあったのか?」

「ああ、ちょっと野暮用でな」

「そっか。んじゃ、行ってくるわ」

「ああ。頑張ってこい」

「おう!」

手を振り、エールを送るイフ。

離れて行くマサの背中を遠目にも見つめながら、表情と意識はいつの間にやら佇んでいる怪しいローブに包まれた背後の者へと移される。

方位磁針に映されるアイコンを確かめながら、鋭い覚悟を胸に振り替える。一瞬の出来事。

「……っ!」

「……」

振り返りながら、突きつけた剣先。
それは喉元を狙ったもので、ばれないように起こした行動であり、威嚇。

なのに、背後に立っていたローブも、同じように振り返ったこちらの喉元へと剣先を向けていた。


――リーチは俺と一緒か、それ以上だな……。


「……お前、何者だ?」

あまりにも素早い剣技。見るからにただ者じゃないことはわかる。

「……」

沈黙し、黙り込んでいるローブ。

すると剣先を軽くひっくり返し、イフの視界に入るように、見せつけるように突き立てる。
疑問の念を抱きながら、その者の指示に従うように突きつけられた剣を眺める。

青色で染められた刀身。
剣なのに刀の刃のように波模様が金色で描かれている。

形からして双剣の部類で、ローブの隙間から腰に同様の剣があることがわかり、それが確定する。

視線を向けられた刀身へと戻し、徐々に吸い寄せられるような感覚に陥っていることに気づく。
何かに引き付けられるように、食い入るようにその剣を見つめる。


――ドクンッ。


途端に、心臓が飛び跳ねるように大きく脈を打ち、視界が歪み、脳内に何かが映し出される。

「……っ」

頭を押さえ、ふらつきながらローブから距離を取るイフ。

それと共に向けていた剣を降ろせば、こちらへと向けられていた剣も降ろされる。
だがそんな中でも視線は、追うようにして相変わらずの青い刀身へと向けられている。

自然と見つめていれば、脳裏に焼き付けられるように電撃が走り、暗がりの中で会話する光景が瞼の裏の暗幕にそっと映し出されていく。

ラグのように、刻みながら流される映像。誰かの会話。
身に覚えのないはずのことなのに、なぜか不思議と懐かしく、胸の奥が暖かくなる感覚がある。

毛頭とする意識の中、朧気にも蘇り、広がる視界。
瞬きを何度もしながら、目の前に立つローブへと視線を戻す。

流れた映像。そこに映し出され、出てきた人物と流れた会話。顔はわからない誰かたち。

ただそこにあったものでわかることがあるとすれば、ローブの持っている青い剣には見覚えがあるということ。

曲がり腰になっていた体を起こし、冷や汗を垂らしながら、確かめるように気づいたことを口にする。

「《ツインブレイバー》……」

ふと溢した言葉。

その言葉に対し、ローブは微笑すると、そっとフードを外す。

隠れ、わからなかったローブの素顔。
《索敵》スキルにわざと反応するように、それこそ監視でもしているかのようにずっと後をつけていた、見るからに怪しい存在。


――でも、


「――久しぶりだな……イフ」


「お前は……」

外されたフード。不意に呼ばれる自分の名前。
現れたのは青年。剣と同様のデザインが描かれた兜無の鎧に身を包んだ男。

彼は自分を知っている。そして自分も、彼のことを知っている。

いや、正確には違う。
自分は彼を知らないし、彼も自分を知りはしないはずなのだ。


何故なら――、


「3年ぶりだな」

「……」


――やっぱり、そうなのか……。


予想通りの展開。

わかっていたことではあるけれど、願っていたことではあるけれど、心の底で逃げるように叶ってはほしくないことでもあったこと。

今の発言からわかる通り、彼は自分を知っている。
だがそれは、過去の自分であって、今の自分ではない。そしてそれは逆もまた言えること。

だから不思議と胸が痛くなる。

過去を知りたいと思ってはいても、知る勇気や覚悟をしてはいても、それを知る者に当たることは気が引けたから。

当たってしまえば、必ず今と昔の自分を比較され、今の自分を否定される。それが怖くて嫌だった。

ただ今、起こってしまった現状に内心は複雑。

一歩踏み出した勇気によって、現実も一歩ほど理想に近づいた。
そのことが嬉しくもあれば、取り戻してしまった過去で今の自分が消えてしまうのではないかと怖くもなる。


――でも、


「……?イフ?」

「……っ」

俯き気味に立ち尽くしているイフ。

何かに悶え苦しむように胸を押さえている。


――わかってる。今のままじゃいけないことを。


だから、勇気をもって踏み出そう。


たとえそれで、今の『僕』が消えたのだとしても――。


「お願いします……僕を、助けてください……っ」

耐えきれず、それでいて吐き出すように言葉を絞る。
溜め込んでいたものが止めどなく感情を表すように溢れ出ていく。

悲しみと苦しみに、一人で立ち向かい続け、誰にも頼ろうとしなかった。頼る勇気が持てなかった。

だから誰にも弱音を吐いたことが無かった。見せようともしなかった。
ずっと自分に嘘と偽りをつき続けた。その先にあったのは、果ての無い涙。

一歩踏み出した勇気。それは小さいようで大きな一歩。

恐れながらに振り絞ったものは、もう抱え込まずに済むという安堵だった。

          

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