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Imaginary Online

「S」

クエスト 1:『記憶ナキ者の参戦』

「――そんなに面白いのか?」


放課後の取り残された教室。物静かな校舎。
吹奏楽の音色とグラウンドから聞こえる運動部の掛け声。

寂し気に思えるこの空間で、ふと溢した言葉は、早々にいなくなった周りの騒ぎ立てるものに対してのことで、同じく取り残されているもう一人へと向けられたもの。


そんな不思議の念を不自然にも抱きながら――『茂神光太郎もがみこうろう』はそのもう一人へと視線を移す。


「――ああ、面白いね」


帰り支度をしながら問われた質問に難なく答えるそのもう一人。


その姿には何の迷いもなく、同時に、空気は変わって――『真宮司まみやつかさ』は饒舌にも語り始めた。


「終わりなく続く物語、未だ誰も成しえた者はいない、己が最強だと言うのなら剣で語れ。最高に燃えて、ずっと浸っていられる天国にも似たぬるま湯だ」

満面の笑みで浸る彼に呆れつつも、そこに嘘偽りなど感じられなかった。

「……そうか?終わらないっていうのは残酷なものだぞ」

が、逆に違うものに浸るようにカバンを背負い、立ち上がる光太郎。
再び視線を送ってみれば、彼もまた帰り支度を終わらせていた。

「確かにそうだな。でも、やめられない面白さが今もまだあるっていうのが、この熱狂で証拠だろ」

ドヤ顔気味にこちらへと振り向く司。その顔に光太郎は眉をひそめながらも、『行くぞ』というようにそろって教室を後にする。

そんな中で、光太郎は先の返答として「まぁな」と半分適当返事をするのだが、この会話は続いた。

二人の話題の鉾先。
それはこの現代社会において最も注目を置かれているVRMMORPGについてで、その中でも、イメージすることでアバターのキャラデザから武器装備、ユニークスキルやエクストラスキルまでをも一つ作成できるというオリジナリティを尊重したゲーム《Imaginary Online》についてのことだった。


――けれど、


《Imaginary Online》が発売されたのは今から3年前の事。今も尚、この人気が上昇しつつそれが維持されているということに、光太郎には疑問でしかなかった。

そのため、今の議論があり、司は要点を上げて説明していた。

「オンラインだから、いろんな人と交流し競い合えるっていうのも醍醐味だ」

人差し指を天に掲げて自慢げにも語る司。
その姿に、またもや呆れを感じつつも、光太郎は一つの質問を口にした。

「ソロはいないのか?」

それはただ単純に、ふと思ったこと。交流という言葉とは縁遠い生活をしているためか、つい気になってしまった、ただそれだけのこと。


――なのだが、


「う~ん……あれを一人で攻略クリアしようとすると無理難題にもほどがあるが、いないことはないかな」

「……?」

司が呟いた言葉に光太郎は疑問符を浮かべるも、その答えは、すぐにもわかった。

「クエストボスとのレベル差が激しすぎるんだよ。この前なんか、50レべのボスに30そこそこのパーティーで挑まなきゃならなかったんだぜ?まぁ、ぎりぎり勝てるラインで、緊張感とかその分達成感とかありまくりだから、未だに人気があんのかもしんねぇけど」

「なるほど」

人気の秘訣を垣間見た気がして、思わず合点をする光太郎。
常にギリギリの勝負というのが達成した時には嬉しさが倍増し、あと少しで負けたとしても今度こそという気持ちで挑める。
それが何となく、わからなくもなかった。

「まぁけど、稀に見るぜ?ソロでボスモンスターを狩る奴。初期装備で10レべだったんだけど、imvが異常でさ、勝っちゃうんだよそいつ。まぁ、他にもそいつらに憧れている奴や、一人でしたいからっていう理由で、やっているやつもいるんだろうけど」

「へぇ~」

ソロについて司が語り終え、理解を深める中、帰路は調度、分かれ道の十字路へと差し掛かる。
ここから光太郎の家はまっすぐ、司の家はここを右折したさきにある。
そのため司とはここで別れるのだが、最後に司は、いつも通り同じ言葉を口にする。

「で、お前はやらねぇのか?」

それは、周りが騒ぎ立てているにもかかわらず、一人、この人気に未だ乗っていない光太郎についてのこと。

「そうだなぁ……」

考え込む光太郎。だがまだ無理だと、やりたい気持ちを秘かに掲げて答える。

「ま、気が向いたらな」

「そっか」

優しくも彼らしい笑顔を見せ、あいさつを交わすと、軽く手を振って帰路を分かれる。

一歩、また一歩と静かな通りを進んでいく。すると徐々に、足取りの速さは増していき、今ではもう速歩と化している。胸にあるのは『早くしないと』という思いただ一つのみ。

だから走り出す、取り戻すために。

失くした記憶を、取り戻すために。


そうやって、少年は駆け出した――。





――3年前。


俺は事故に遭った。交通事故だった。

覚えているのは、その時のバイクにはねられる瞬間。

それ以外は意識が朦朧としていて、記憶もあやふやでよくわからない。

幸いだったのは特に怪我という怪我が見られなかったこと。


――でも、


失っていないものなんてなかった。一番大事なものだけが、頭の中から欠けている。


――そう、


記憶だけが失われていたんだ――。





「さて……」

帰宅後、自室へ向かい、カバンを床へと降ろすと、早速パソコンを起動させる。

マウスを運び、ネット上に保存されたメモを開く。
それは、机に置いてある折りたたまれた手紙と噂のゲーム《Imaginary Online》と深く繋がるもの。

手を伸ばし、何度目かというように相変わらずの文面に目を通す。
そこに記載されているのは、この《Imaginary Online》のゲーム内容についてのこと。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


メモ


『ゲーム内容について』


・アカウント作成時、自身の氏名、年齢、性別、メールアドレスなどを含む個人情報は、アバターステータス覧に開示自由とするが、うち年齢と性別はアバター作成時に反映する。

女性フィメールの場合、他プレイヤーからのセクシャルハラスメントの防止のため『ブロック』をメインメニュー覧に追加する。

『ブロック』の設定は、アバター作成時に行うものとし、教養範囲内を個人で設定する。ゲーム内で後に追加することも可能。

緊急防止時には、視線や音声によるシステムへの訴えにより相手プレイヤーの強制ログアウト・アカウントの停止を発動する。


・アバターは、ユーザーの想像イメージをもととして作成される。武器装備、ユニークスキルやエクストラスキルもそれぞれ一つまで作成可能。

もしくは、imvと思考回路診断テストにより、ユニークウェポン(オリジナルの武器装備)、ユニークスキル・エクストラスキルをシステムより支給してもらう。

尚、ゲーム内で武器変更は可能とする。

ユニークスキル・エクストラスキルに他プレイヤーと被りが生じている場合、imvに応じるため、ものによって効果には個人差がある。


・ユニークスキルの個数は、レベルアップ時にステータスやimvによって追加覧が解放される。

ユニークスキルは最高3つまで可能。エクストラスキルは、1個までとし、後から作成するという手もあるが、その場合、レベルアップ時にランダムで配布されることもある。

通常のスキルは、ステータス・imvに応じたものを、ゲーム内から選択することが可能。


・アバター種族として、剣士・武士・騎士の3つがあり、それらを総称として『冒険者ローム』と呼ぶ。


・ゲーム内には、種族をもととした3か剣士の国:ミーン・《武士の国:ビリーフ》・《騎士の国:プロウド》と他1か国の《謎の国:メイズ》という計4か国があり、選んだ種族に応じてその国よりスタートする。


・武器は、刀剣類以外存在しない。


・武器にはそれぞれ、装備条件とアビリティが存在する。

武器によって装備条件は変わり、ユニークウェポン(オリジナルの武器)の場合、創作者限定のものとなるが、創作者自身が承認すれば他プレイヤーに受け継ぎ可能となる。

・武器にはそれぞれ、火・水・土・雷・風・氷・毒・光・闇・無などの属性がある。

その中にある『無』は、ユニークを象徴とするものであり、特に意味はない。

・武器の耐久度は、持ち主の実力やimvに応じる。


・武器装備、アイテムのレア度はA、B、C、D、Eのランク形式の五段階表記。

他に、上位のものとしてSが存在し、オリジナルのものについては『?』として表記する。

ランク上の獲得率として、Aは10000分の1、Bは5000分の1、Cは1000分の1、Dは100分の1、Eは10分の1とする。それよりも上である、Sは10万分の1とし、『?』は100万分の1とする。が、『?』に関しては、プレイヤーの実力に応じたレア度となる。


・プレイヤーの想像力をimv(imaginary value)という。


・imvによって、ユニークの設定上限が変わる。


・ステータスは、筋力・命中力・防御力・敏捷性・知力・精神力・運・クリティカルに分類される。


・プレイヤーは、ステータス・功績・達成率・imvにより格付けとしてランキング形式で表記される。ランキングとして、上記のプレイヤーランキングと他にギルドランキングがあり、ギルドランキングはメンバーのランク平均により割り出される。ランキング上位100名はオンラインにより公開、うち上位10名は掲示板にて公開される。


・プレイ時間総量1000時間。


・4か国それぞれに200、計800のクエストがあり、その中にある国々で開かれる変則デュエル大会:《オーバーロード》を勝ち抜き、4か国全てを制覇した者を《ダイナスト》と呼ぶ。


・一度でも敗北したプレイヤーのレベルは1へと変動される。


・マップはそれぞれがマッピングすることにより広がる。(共有・公開は個人の自由)


・レベルは、クエストの難易度に応じたボスモンスターの討伐により上昇する。


――――etc.


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱり、そうなのか?」

一通り目を通し、気づかされることがあるとすれば、このゲーム内容は《Imaginary Online》についてのものだということ。
だがこのメモの履歴として、最後に保存されたのは発売されるよりも以前。

それにより、光太郎の脳内である一つの答えが浮上するのだが、それを決定づけるにはまだ早いと、他の手がかりを調べる。

同時刻の履歴。そこから調べるとSNSの会話がある。
そこにはやはり、案の定のメンバーが表示されている。
内容としても、一つの答えを後押しするものばかり。

「あぁ~……っ」

確定づけるそのメモから、面倒臭さを感じながら悶え、視線を机の紙へと移す。


――『拝啓   茂神光太郎  様』


それは3年前に記憶を失くした自分にとって、唯一の手掛かり。
謎を解き明かし、導いてくれる一本の蜘蛛の糸。
だが、読むたびに謎は深まる一方。
そんなおかしくも不思議な、過去から未来へ繋ぐ自分宛の手紙。


――そう、


ここにあるのは、事故により失われた記憶の一部であり、その時に持参していたもの。過去から未来へ宛てた、自分への手紙だった。


――だから、


また何度目かというように、メモと同様、手紙に目を通した。


――『拝啓   茂神光太郎  様』


『この手紙を読んでいるということは、案の定、事故に遭ったようですね。おめでとうございます』


――全然めでたくねぇよ……。


『さて、本題に入りますが、ちゃんと記憶はなくしていますか?』


――おかげさまでな。


『記憶を失くしているのなら、よかったです』


――……?


『記憶を失くしていなかったのならレッツ交通事故!リィトライ!です』


――いや、次はねぇよ!?


『そんなことはさておき』


――ヘイ、ユー。そんなこと、て。


『記憶を失くしているという前提で話を進めさせていただきます』


――おう。


『とりあえず、自室には、未だ誰もクリアできていないであろう人気VRMMORPG《Imaginary Online》があると思います。それをあなたにクリアしてもらいたいのです』


――ふむふむ。


『いろいろと聞きたいことはあると思いますが、まずはレベル25にまで上がったのち、再びお会いできることを期待しています……じゃ!』


――……ん~?


手紙はそこで終了。
その先としては、そこまでの手順、レベル25になるための10個ほどのクエスト名が過剰書きで記載されているだけ。
ツッコミたいことは満載なのだが、問題はこの先にあった。

「とりあえず、レベルは25までなってんだよなぁ」

記憶を失くした当時、書き記された通りのクエストをこなし、レベルを25にまでは上げていたのだ。
だが、そこから先のことについては一切が不明という状況。

そのまま、あっという間に3年の月日が経っている。

別に、何もしていなかったわけではなく、ただ単純にクエスト攻略に時間がかかっており、当時は受験生ということもあり、あまり進められていなかった。

クエストは案の定の難易度で、そこは誰にも知られていないルート。
それ故に、恐ろしく広いダンジョンを一人でマッピングからボス攻略までしなければならないというものだった。

唯一、アバター作成時のキャラデザや武器装備、ユニークスキル・エクストラスキルまでをも一つ、イメージにより作成できるという、チートにもほどがあるシステムに救われた。

まぁそれでも、メモにある通り、このゲーム内ではユーザーの想像力を数値化したimv、つまりはユーザーの戦闘力的なものが作用するようで、それにも限界があったのだが。

「そんで……」


――次にやらなければならないことは、と。


マウスを動かし、メモ一覧へと画面を移動させる。
そこには、先のメモと同様のものがいくつか並べられている。
わかっているのは、一番上のメモ以外、それぞれにパスワードがかかっているということ。

「はぁ~……」

大きなため息と共にもう一度手紙へと視線を移す。

目を瞑り、思考を働かせる。


――パスワードがわかれば、この状況は一転する。パスワードを当てるには……。


「クエストには意味があるはずだ。となると……」

瞼を開いて、視線を目の前にあるものへと運ぶ。


そこから導かれる答えはただ一つ――。


「模索するしかないかぁ……」

そうやって、いつぶりの自分のゲームを手に取った。





ベッドに横たわり、意識を集中させる。
何度やっても慣れない、この感覚。緊張とわくわくと、焦りと興奮。
いろんな感情が混ざり合い、夢の世界へと潜るこの瞬間。
それが何よりもたまらなくて、愛しく、心地いい。

頭に装着された一つのVR。
充電が切れないようにセットされたアダプタは、夢の機械とは思えないほどのアナログ感を漂わせる。
点滅するライトは、さらなる可能性を告げる鐘のよう。

心身一体、表裏一体。
そんな鋭き覚悟を胸に、点滅するライトが接続可能の状態へ移行したことに気づくと、新たな世界を求めてダイブする。


――だから掛け声は、


「dive on!」

人がゲームというデータの海へと飛び込む、そんな意味合いを込めた言葉。

その掛け声は一瞬で、飛び込んだ瞬間から、意識は光の速さで異世界への扉を開く。

『いつだって新たな世界を築くのは人、か』


――だからあの世界は、《Create・Gate》と言うのかもしれない。


改めて新たな世界の幕開けを変にも感じながら、不思議な笑みを溢し、意識はあっという間に平面世界へと誘われた。

          

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