乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第99話 最後の戦い Ⅰ
誰もいない町の中を駆け抜ける。
ついさっきまでは半壊した町を修繕しようと多くの大工のような人で賑わっていたのだが今はみる影もない。
多分だが俺達と四強の戦闘によって建物の中に避難したんだろう。
町の破壊に続いて修繕の妨害、本当に申し訳なく思うが今の俺にとってこの人のいない通りは好都合だった。
「どうか無事でいてくれ」
俺はあかりを心配しながらも急いで例の広場へと戻る。
広場へと戻ると既に氷の壁は無くなっておりあかりが地面に倒れていた。
「あかり!? 大丈夫か?」
俺は慌ててあかりへと駆け寄る。
様子をみたところ特に大きな怪我はなく、息も正常にしていることから命に別状はなさそうだ。
しかしここで一つ疑問が浮かぶ、それはどうしてこんなにもあかりに外傷がないのだろうかというものだ。
魔王の仲間ならば普通は徹底的に痛め付けられるはず。
こんなにも外傷がないのは俺を誘きだす罠の餌として使うためのように見えるのだ。
だが例え罠だとしても俺に助けないという選択肢は存在しない。
一応周りを見渡し誰もいないことを確認した俺はあかりを連れてまずは北門を目指した。
それから魔国へと繋がる森の中へと入り少ししたときのことだ。
俺は突然誰かに見られているような視線を感じ、後ろを振り返った。
「誰だ? いるのは分かっている出てこい!」
振り返ったときには誰の姿もなかった。
だが未だに視線を感じている。
誰かがいるのは間違いない。
「あーあバレちゃったか。バレない自信あったんだけどな」
しばらく待っていると木の影からカイラが悔しそうな顔をしながら出てきた。
それに続いてシエンも出てくる。
「これだけ近くに行ったら流石にバレるだろう」
俺達は後をつけられていたみたいである。
「あー魔王さん、どうぞこのまま気にせずアジトに戻っていいよ。私達はただ次の魔王が誕生したときのことを考えてどういうところに魔王がアジトを作るのか知りたいだけだから」
「おい、カイラ! 君は何を考えているんだ! そこまで言ったら目的そのものを言っているようなものじゃないか!」
「あー確かにそうだね。ごめんごめん、そこまで考えてなかったよ」
「全く、カイラを連れてくるべきじゃなかったな」
四強が俺達の前でごちゃごちゃと言い争い始める。
俺はその隙をついて一目散に森の奥へと駆け出した。
サタンのところにコイツらを引き連れていくなんてとんでもない。
そんなことをしたら皆がひどい目に会うことは間違いないからな。
「あ、魔王が逃げたよ。追いかけなくていいの?」
「逃げられたら追い付けないよ。僕たちは森の中で全力疾走出来るほど森に慣れてないからね」
「そっかじゃあ森の外で魔王が出てくるまで待機かな……」
どうやら四強達は俺達を追いかけることを諦めたらしい。
今回はこの森に救われたな。
俺は最後に聞こえた四強の会話に一先ず安心しながらサタンのところへと全速力で走った。
◆◆◆◆◆◆
「で逃げてきたというわけじゃな?」
魔王が俺の話を聞いてふむと一言呟く。
俺達はあの後、無事魔王の部屋へとたどり着いていた。
たどり着いた後はあかりを部屋にあるベッドで休ませ、サタンにこうして事のあらましを話している。
「逃げきれたは良いけど多分森の外を包囲されているんだよな」
「お主の話によるとそうじゃろうな。その内森の中にも足を伸ばして来るじゃろう」
「やっぱりこの状況って結構詰んでるよな」
「まぁお主が来なくてもいずれ同じ状況にはなっていたはずじゃ。勇者も来ておるしのう」
「そうだけど俺のせいでそれが早まったわけだろ? なんだか申し訳ないというか」
「お主が正しいことをしたと思っているのならわしは構わんよ。それがどんな結果になったとしてもな」
「正しいことか……」
俺の行動ははたして正しいことなんだろうか。
確かに仲間を助けたこと自体は正しいことだと思っている。
だが元々の原因はなんだ。
そもそも俺が魔物化して暴走しなければ何も起こらなかったのではないだろうか。
事実として魔物化しなければ町を破壊することも、四強と対峙することもなかった。
だとしたら俺が仲間を助けたのは正しいことだったのだろうか、それとも……。
「まぁこれについてはわしが考えておくわい。お主は仲間の様子でも見て来たらどうかのう?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
考えがまとまらず混乱していた俺は一旦考えていることを保留しあかりが寝ている部屋へと向かった。
◆◆◆◆◆◆
コンコンと軽く扉をノックし、部屋の中へと入る。
それから俺は部屋に一つだけあるベッドの横へと行き、椅子に腰かけた。
「あかり……」
「ん……和哉?」
あかりは俺の声に反応してゆっくりと目を開ける。
「ああ、そうだよ」
「ここは…………そうか皆無事だったんだね。ついでに私も」
「皆は別の部屋でご飯を食べてるよ」
「元気そうで良かった。私が頑張ったかいあったかな?」
あかりは口角を微かに上げ微笑む。
「もちろんだ。あかりがいなかったら助けられなかったかもしれないしな。それにこうしてあかりも無事だから今は嬉しい気持ちでいっぱいだ」
「ふーん、それにしては嬉しくなさそうだけど?」
「いやそんなことはないぞ、ほら」
俺は無理やり口角を上げて笑ってみせる。
今のあかりにはあまり心配事はさせたくない。
「もう無理して笑ったのバレバレだよ。何かあるんでしょ? 遠慮しないで言ってみて私達は仲間なんだから、それとも違うの?」
あかりは悲しそうな表情で俺を見てくる。
あかりのその言葉と表情はずるい。
今そんなことをやられたら言うしかないじゃないか。
「分かった、言うからそんな悲しそうな顔をしないでくれ」
「そう? ならばよし」
あかりは先程までの悲しそうな表情を顔からすぐに消し、代わりに笑みを浮かべた。
「わざとかよ」
「だってそうでもしなきゃ話してくれないでしょ?」
「そうかもな、実はな……」
それから俺はあかりを助けてから起こったことを包み隠さず全て話した。
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