乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第98話 対四強 Ⅲ


四強と俺達の一進一退の攻防は今もなお続いていた。
主に四強側が攻撃をし、俺達がそれを防ぐという形だがなんとか今の今までやってこれた。
ただ一つ問題があるとすればもうこちらに戦う体力がないということだろうか。
隣を見ると鈴音は既に中腰になり荒く息をしており、俺も少々息が上がっている。
このまま攻防を続ければ確実にどこかで破綻してしまうだろう。
一方の四強は若干疲れた顔をしているもののまだまだ戦えそうだ。

「このまま戦ってもジリ貧だな」

俺達は未だに相手をただ一人も倒していない。
そう、まだ相手には回復する手段が残っているのだ。
こちらにもあかりという『回復魔法』が使える仲間がいるが彼女は現在ソフィーとリーネの治療につきっきりで常に俺達を回復出来るわけではない。
実質、回復はないに等しいということだ。

「なぁ鈴音はまだ戦えるか?」

「キツいけどなんとか」

鈴音は荒く息をしながらもこちらを向きニッと笑って見せる。
この調子だともって数分といったところか。

「魔王も案外大したことないんだね。正直がっかりだよ」

俺の十数メートル先ではカイラが首を横に振っていた。
勝ちを確信したのかその顔には笑みを浮かべている。

「万事休すか」

そう言わざるを得ない状況が完璧に出来上がっていた。
二人で四強を相手にしたとしてはよくやった方だとは思うが相手の方が一枚も二枚も上手うわてだったということだ。
全てを諦めて『せめて仲間達だけでも』と俺が四強に頭を下げようとしたそのとき、突然体が宙に浮いた。
いや、宙に浮くというよりは誰かに後ろから捕まれたと言った方が正しいのか。
俺が後ろを向くとそこには先程までソフィーとリーネの治療をしていたあかりの姿があった。

「あかり!? いきなり何をするんだ!」

「言ったよね。もしものときは私が何とかするって」

あかりは何かを決意したというような表情を顔に浮かべている。
あかりのその表情と今の状況から俺は今からあかりが何をしようとしているのかを察した。

「あかり……そうか俺達を」

「そうだよ。ソフィーちゃんとリーネちゃん、それにリンちゃんも後から投げるからお願いね」

やはり氷の壁の向こう側へと俺達を投げて逃がし、最後に自分も跳んで逃げるということらしい。
普通ならばそんなこと出来ないが吸血鬼であるあかりならば問題ないだろう。
だが四強はどうするのだろうか?
ここに誰かが残らなければ俺達は追われることになる。
例え俺でも人を抱えたまま走ればそれなりに遅くなって追い付かれることは確実。
少なくとも一人は…………いや違う、あかりは逃げるつもりなどないのだ。
自分一人が残って四強を足止めする気でいる。

何の根拠もないが何故か俺はそう確信していた。

「あかり! ちょっと待ってくれ!」

咄嗟にあかりを止めようとするがあかりは既に投げる体勢に入っていて止まる気配はない。
そして数秒後、俺はあかりによって空中へと投げ出された。
投げ出された後はすぐに重力が仕事をし急激に地面へと落ちていく。

「うわぁ!」

投げ出された後の自由落下に若干の恐怖を感じながらも上手く地面に着地した俺は続けて投げられたソフィーとリーネ、鈴音を連続で受け止めた。

「おい、あかり! あかりも一緒に来い!」

仲間を受け止めた直後、俺は壁の向こう側へとそう叫ぶ。

「私は大丈夫だから早く行って! ソフィーとリーネを早く安全なところに」

だが返ってくるのはその言葉だけで俺が望んでいた答えは返ってこない。

「何言ってるんだ! 何もあかりが残る必要はないだろ!」

「じゃあ誰がここで足止めするの?」

「それなら俺が「和哉はいつもそう!」」

あかりは突然語気を荒げる。

「いつもいつも俺がって言って私達を頼らないんじゃない! 勝手に行動して、勝手に助けて、勝手に死んで……お願いだから少しは頼ってよ……じゃないと私がなんのためにいるのか分からなくなる」

あかりの声は次第に小さくなり最後には微かに聞き取れるほどだった。

あかりはずっと考えていたのかもしれない。
俺に頼って欲しいと、だがそれを俺は無視し続けた。
一方的に俺が助け続けた。
果たしてそれは本当に仲間だと言えるのだろうか?
答えは否、仲間というのは互いの助け合いで成り立っているものだ。
一方的に助けていればそれは仲間以外のなにか。
もし俺達が仲間だとするならばここでとる行動は……。

「分かった……そっちは任せたぞ! あかり」

あかりを頼ること。

「最初からそう言えばいいんだよ」

あかりは俺の言葉に対してどこか嬉しそうに答える。

そんなあかりの返事を聞いた俺はソフィー、リーネ、鈴音を連れ全速力で北門へと向かった。

◆◆◆◆◆◆

ソフィー、リーネ、鈴音を連れた俺はカタストロの北門から魔国と繋がる森の中まで来ていた。

「ホワイトサンダーはいるか?」

俺の声が森の中でこだまする。
しばらくすると森の奥からパキパキと木の枝を折りながら勢いよく近づいてくる白い生き物が見えた。

「アウゥ!」

白い生き物──ホワイトサンダーは俺が立っている場所より三歩先にピタッと止まる。
それから俺はホワイトサンダーの頭を撫でながら優しく話しかけた。

「ホワイトサンダー、早速で悪いんだが一つ頼まれてくれないか?」

「アウゥ!」

ホワイトサンダー大きく縦に首を振る。

「おう、ありがとうな。それで頼みたいことなんだがこの二人を魔王のところまで連れていって欲しいんだ」

「アウゥ?」

「ああ、俺はちょっとやることがあってな。鈴音も先にあっちで待っててくれ」

俺が鈴音の方を向くと鈴音は心配そうな顔をしていた。

「あかりちゃんを迎えにいくんだよね」

「まぁそうだな」

「あんまり無茶しないでよね」

「それはお互い様だろ」

俺は鈴音のおでこをコツンと軽く叩く。

「いたっ! もういきなりやめてよ!」

「悪い悪い。そうだな、出来るだけ無茶はしないように頑張るよ」

「無茶しないように頑張るってそもそも頑張らなければ無茶しないはずなんだけど」

「まぁまぁ細かいことは気にするな。じゃあそろそろ」

俺は鈴音とホワイトサンダーに背を向け町の方へと歩き出す。

「ちゃんと戻って来てよね」

鈴音のその言葉に俺は手を上げて答えた。

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