乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第97話 対四強 Ⅱ


建物の上に乗った四強の三人は続々と下に飛び降りていく。
その内黒いローブを身に纏った女は俺がシエンを飛ばした壁へと行き、瓦礫に埋もれていたシエンを引き上げた。
それと同時に『回復魔法』もかける。

「よっと、それにしても派手にやられたね。シエン」

「ふっ……油断していただけだ……」

「それでもやられちゃったのには変わらないよね。わぁ恥ずかしい」

「君は相変わらず人の心を抉るのが上手なようだね」

「そうかな? 照れるなぁ」

「これは褒め言葉じゃない」

シエンと黒いローブを着た女の二人が言い争っているとその仲裁に入るように一人の大男が物理的に二人の間へと入っていく。

「おい、二人とも今はイチャついてる場合じゃないだろ」

「イチャついてなどない! これは始めにこの女が!」

「私なにかしたかしら?」

「この野郎!」

「カイラ、そこら辺で止めてやれ。シエンも落ち着け」

「まぁガタクの言うとおりいつもでも遊んではいられないよね。目の前にはあの憎き魔王がいるわけだからね」

「本当だ。そもそも遊んでいるのがおかしいんだ。全く君は何をしに来たんだ」

「まぁまぁ魔王もいるわけだしこれ以上争いの種を増やすのは止めてくれ」

大男の後ろからは俺がギルド地下の広場に行ったときに会った質素な皮鎧を着た冒険者が出てきた。
シエン、カイラ、ガタクときて最後に現れたのはタレンだろう。
左から順に細身の剣を持ったシエン、筋肉隆々の大男ガタク、黒いローブを身に纏った魔術師カイラ、そして質素な皮鎧を着たタレンと今この場に四強全員が集結していた。

正直この四人全員と相手をしていたら体がいくつあっても足りない。
ここは逃げるか。

俺は仲間の救出を任せたあかりの様子を伺う。
あかりは既にソフィーとリーネの二人、それに加えて鈴音も助けていて、見ている限りいつでも逃げる準備は出来ているようだった。
そもそも俺がシエンと戦っていたのはあかりが仲間を助ける時間稼ぎのため。
仲間が助かればこんな化け物達と戦う必要などない。
そうと決まればやることは一つだ。
俺は四強同士が話をしているうちに背を向け仲間と町の門がある方向へと走り出す。
逃げるなら戦闘が始まっていない今しかない。
だが俺達が人混みの中に紛れる直前で厚い氷の壁が俺達の行く手を塞いだ。

「なぁに逃げようとしてるのかな?」

カイラは俺達を逃がさないとばかりに不敵な笑みを浮かべる。
気づくと氷の壁が俺達と四強を取り囲むようにして展開されていた。
つまり氷の壁の内側に俺達は閉じ込められてしまったのだ。

「さぁてそろそろ始める?」

出来れば今すぐにでも逃げたいが閉じ込められては仕方がない。
しぶしぶ俺は四強の面々と対峙する。

残された道は四強を倒すのみ、倒せなければ俺達に助かる道などない。

「あかりはソフィーとリーネを守ってやってくれ。鈴音は俺の援護を頼む」

「分かったよ、お兄ちゃん」

「あんま無理しなくてもいいからな」

初めに狙うべきは『回復魔法』が使えそうなカイラ。
彼女を倒してしまえばあとは消耗戦になる。
今の状態で消耗戦はかなり厳しいが延々と回復され続けるよりはマシなはずだ。
それにふとしたとき相手に隙が生まれて逃げるチャンスが出来るかもしれない。
とにかく今俺達に出来る最善の手はこれくらいだ。
ならばそれに賭けるのみ。

「鈴音、初めに狙うのはあの黒いローブを着た女だ。まずはあいつを倒そう」

俺の示したターゲットをちらりと見て鈴音は頷く。
それから俺を見て笑いかけた。

「そういえばお兄ちゃんと一緒に戦うのってこれが初めてかもね」

「そうだな、あいつらに兄妹の力でも見せつけてやろうぜ」

不思議と気分が高揚していた。
こんな状況で気分が高揚するなんて自分でも変だと思うが実際にしているのだから仕方ない。
逆境であればあるほど燃える。
いつの間にか俺はそんな変人になっていたようだ。

「そろそろ作戦会議はいいかなぁ?」

「ああ、問題ない」

俺達が話している間に攻撃せず律儀に待っているところをみると彼女らは自分達の力に絶対的自信を持っている様子。
その自信を崩せれば付け入る隙は十分にありそうだ。

「じゃあ始めましょうか。勇者さんには悪いけど私達がここで魔王を倒しちゃうね」

その言葉が発せられた直後、上空に大量の氷塊が出現する。
氷塊は一つ一つが鋭利に尖っており触っただけで手が切れてしまいそうな勢いだ。
そんな氷塊の尖った部分が全てこちらへと向いていて精神的に俺達を追い詰めてきていた。

「さぁ行ってらっしゃい!」

カイラの合図で大量の氷塊が俺達へと向かってきた。
串刺しにせんとばかりに氷塊が迫ってきているとあってかなりの迫力がある。
だが俺はここで焦ったりはしない。

「一気に勝負にでたようだな。あかり、鈴音! 俺の後ろに下がっててくれ!」

相手は俺達を串刺しにしようとしてきたのだろうが生憎これで串刺しにすることなど出来ない。
『物理攻撃無効』、そう俺にはこのスキルがある。
確かにこの攻撃は魔法であるようだが、それは氷塊を生成相手に投げつけるまで、飛んできた氷塊は物理法則に則ったのっと動きをしているだけで物理攻撃と何ら変わりはない。
そのためこの攻撃で俺が傷つくことはないのだ。
ただ一つ気をつけなければいけないとすれば後ろの四人に当たらないようにすることくらいだろう。

俺は飛んできた氷塊のうち後ろに飛んでいきそうなものだけを拳で弾き飛ばし、あとは自らの体に当てて消滅させた。

「うそ!? まさかそんなこと……だってあれは上位の魔法で」

カイラは今の光景が信じられなかったのかひどく動揺している様子だ。
そんな隙だらけのカイラにすかさず俺は接近し、自らの拳を入れようとする。

「そうはさせん!」

だがカイラの後ろから瞬時に現れたガタクによってその攻撃は防がれてしまった。
流石は四強、俺の攻撃を受け止めただけでは終わるはずもなく今度はガタクからカウンターとばかりに拳を繰り出してくる。

「これでもくらっておけ!」

大男から風切り音を伴って繰り出される拳、しかしそれは単純な物理攻撃。
俺はその攻撃をあえて受け、ガタクの腕を掴んだ。

「なに!? 効いてないのか?」

「鈴音! ローブの女を頼む!」

俺の声で後ろから素早い動きでカイラに迫る鈴音。
鈴音は両手の短剣で彼女を斬ろうとするがどこからともなく現れたタレンが鈴音の攻撃を受け止め、鈴音ごと後ろへと弾き飛ばした。

「くっ!」

「君はなかなかやるようだが私ほどじゃないよ」

ここまで戦って分かったが人数的にも個々の力からみても劣っている俺達、勝利するのはかなりの強運が必要のようである。

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