乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第96話 対四強 Ⅰ


広場にたどり着くとそこには多くの人達が集まっていた。
皆は一様に広場中央に設置された円形のステージのある一点を見つめている。

「皆さん、こちらをご覧ください」

神官の格好をした男が手を向けた先には張りつけにされているソフィーとリーネの姿があった。
二人とも気を失っており周りに何の反応も示さない。

「ここに張りつけにされているのは先日この町を破壊した魔王の仲間達です。そんな魔王を皆さんは許すことが出来ますか?」

神官の男の言葉に広場に集まった人達がざわつく。
ある者はこんな少女達が魔王の仲間かと驚き、ある者は早く殺せと叫び、そしてある者はただ神に祈っていた。
そんな中でただ一人、その少女達を擁護する声が上がる。

「違う! お兄ちゃんは魔王なんかじゃない! それにその娘達は悪くない!」

声の上がった方を見てみるとそこには町の兵士に取り押さえられている鈴音の姿があった。
鈴音は取り押さえられながらも必死に抗議をしている。

「あぁ可哀想に、こちらにいるのは我が国の勇者様なのですがどうやら魔王に洗脳されてしまったようで……」

神官はわざとらしく手を顔にやり、あぁ神よと嘆いていた。
その神官の行動で広場に集まった人達はいっそう魔王に対する負の感情を募らせる。

「さぁもう一度問います。魔王を許すことが出来ますか?」

この状態でそう問われれば当然……。

「魔王をやっちまえ!」
「魔王を許すな!」
「魔王に死の鉄槌を!」

広場に集まった人達が暴動を起こすことは確実だ。

気づくとソフィーとリーネがいるステージにはいくつか石が投げつけられていた。
初めは抗議の声を上げるだけだった人達も周りの魔王を非難する声に遠慮がなくなったのか次第に張りつけにされているソフィーとリーネへと石を投げつけていく。

「さぁ皆さん、裁きを! 魔王に裁きを与えるのです!」

今の今まですぐにでも飛び出して行きたい気持ちを抑えて黙って様子を見ていたがもう我慢の限界だった。
俺は前にいる人達を無理やりどけて二人が張りつけにされている円形のステージへと歩いていく。
初めあかりは俺を止めようと腕を掴んでいたが止めるのは無理とでも思ったのか最後には掴んでいた腕を離していた。
そんなことがあってようやく一番前までたどり着いた俺は石が投げつけられているステージへと上がった。
どうやらあかりもついてきたみたいだ。

「おや、ここまで上がってきてどうしたんですか? もしかしてあなたが直接鉄槌を下してくださるのですか?」

俺は訳の分からないことを言う神官の男へと顔を向け今まで正体を隠すために羽織っていた外套のフードをとる。
神官の男はフードをとった俺の顔を見た瞬間、先ほどまでの優しそうな表情とは裏腹な怒りを滲ませた表情を浮かべた。

「あなたは、いえお前はこの町を破壊した魔王!?」

神官の男の問いかけに俺は何も答えることなく張りつけにされているソフィーとリーネのもとに向かおうとする。
一歩また一歩と近づきようやくソフィーの前にたどり着いたところで神官がいた左から唐突に殺気を感じ俺はあかりを掴み咄嗟に大きく右に飛んだ。

「いやはやこれを避けるなんてね。さすがは魔王だ。やぁ僕だよ、昨日ぶりだね」

声のした方を向くとそこには昨日俺が逃げた相手、シエンが笑みを浮かべて剣を構えていた。
どうやら先ほどの殺気はコイツからのようだ。
見ると相手はもうやる気満々で戦いは避けられない。
俺は後ろにいるあかりにソフィーとリーネを助けるよう目で訴える。
無事俺の意思をくみ取ったあかりが二人の救出に向かうのを見届けたあと俺は再びシエンと対峙した。

「待たせたな。こっちは準備完了だ」

「そうですか。あなたは時間稼ぎですか。さてどれだけ持ちますかね!」

シエンは思いっきり地面を蹴り、急加速で俺へと接近してくる。
その接近に対して俺は後ろに飛んで間を取ろうとしたのだがシエンと俺の距離が残り二メートルくらいになったところで急にシエンの姿が掻き消えた。

「……!? 一体どこに消えたんだ!」

「あなたの上ですよ」

その声が聞こえてくると共に感じる強い衝撃と痛み。
俺はシエンによる上からの攻撃でステージを突き破って地面へと叩きつけられてしまった。

「うぐっ!」

物理攻撃が無効でも与えられるシエンのオーラによるダメージ。
オーラによるダメージだけでもかなりのダメージ量であるのに物理攻撃が無効でなかったら一体どうなっていたのだろうと俺は相手にしている化け物の規格外さに戦慄する。

「おや、今の一撃はかなり本気だったのですがまだ生きてるんですね。もしかして何か特殊なスキルでもお持ちで?」

「例え持ってたとしてもそれを敵に言うわけがないだろ」

俺は元々ステージの床部分だった木の破片をどかしながらゆっくりと起き上がり外套についた汚れを手で落とす。
それからステージに空いた床の穴からステージの上へと跳び上がった。

「ほう、秘密というやつですか」

「まぁそんなもんだ」

「さぁそろそろお喋りは終わりにして第二回戦を始めましょうか」

シエンは仕切るように手をパンパンと鳴らす。

全くどこまでも余裕そうである。
俺相手に本気で戦う必要はないとでも言いたいのだろうか。

俺が目の前にいるシエンを睨み付けているとシエンの姿がまたもや消えた。

先ほどと同じ手で来るつもりだろうか。
それだったら俺も同じように消えればいいだけだ。

そう思った俺は咄嗟に『実体化』を解除する。
今の俺では完全には姿は消せずうっすらと見えてしまうがまだ日が出ている時間ならば日の光で誤魔化すことが可能なはず。
実際に『実体化』を解除したところ、俺から見れば自分の体はほぼ肉眼で捉えられなくなっていた。
それはどうやらシエンにも言えることのようで俺の後ろへと姿を現したシエンは急に消えた俺に驚き一瞬の隙を見せる。
その隙がチャンスだと思った俺は渾身のストレートをシエンの腹にお見舞いした。

「うわぁあ!」

シエンが情けない声を上げて壁へと激突する。
決着をつけるべくシエンを飛ばした壁へと追撃に向かおうとするが突然上空から降ってきた氷塊を反射的に避けてしまったことによってそれは失敗してしまった。

「全く魔王に一人で挑もうとするからだよ」

声を発した人物は建物の屋根の上にいた。
逆行でその人物の顔はよく見えないが、他にも三人いるようだ。

「もしかして……」

俺には分かってしまった。
屋根の上にいる人物達が……。

「やい、魔王さん。よくもシエンを痛めつけてくれたね。そいつはバカだが一応私達の仲間なんだ。借りは返させてもらうよ。この四強の名誉にかけてね!」

屋根の上にいた人物、それはシエン以外の四強の三人だった。

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