乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第87話 魔王の部屋 Ⅰ


ゼガールの後をついて行ってしばらく経った頃。
ゼガールは突然ある森が開けた場所で立ち止まった。

「◆&$*(/=?@」

ゼガールが何か呪文のような言葉を発した直後地面が大きく揺れる。

「うお!? 地面が揺れる!」

「騒ぐな、大人しくしていろ」

地面の大きな揺れと共に姿を現したのは横に一人分しかスペースがない石造りの階段だった。

「この中に入るぞ、ついて来い」

ゼガールは何の躊躇いもなくその狭い石造りの階段を下りていく。

「俺達もこの中入るか、悪いがホワイトサンダーは外で待っててくれ」

「アウゥ」

階段の大きさからホワイトサンダーには狭すぎると判断した俺はホワイトサンダーに外で待つように言ってから階段を下りる。
階段を数段下りると外の光がまったく届かなくなり辺り一面を暗闇が支配した。
暗闇でなおかつ階段が狭いからか精神的に圧迫されているようなそんな気持ちになる。
そんな精神的に圧迫された気持ちで階段を下り始めて数分、俺達はとある扉の前へとたどり着いた。

「ここから先が魔王様の部屋だ。失礼のないようにな」

ここが魔王の部屋の入り口?
俺が想像していたのはもっとこう大きいお城の一室のような部屋だったのだが、目の前にあるのはまるでどこかの村の地下倉庫のようないたって普通の部屋の入り口だ。

「魔王様、ゼガールでございます。お客人を連れて参りました」

それからゼガールは扉を三回ノックしてゆっくりと開け中へと入る。
ゼガールに続いて俺達も部屋の中へと入った。
外装が質素なのは敵から姿を隠すためで中は魔王っぽく呪いのアイテムを壁中に飾っていたりするのかとも思ったのだがそんなこともなく内装もいたって普通の石造りの部屋だった。

「どうした?」

「いや部屋が想像と遥かに違っていてな」

「ああ、貴様は人間の国のような派手なものを想像していたのだな」

「そうだが……」

「俺には人間の考えていることが分からない。中でも一番分からないのが城とかいうやつだ。どうしてあんなに目立つものを作るのだ。あれでは敵にとって良い的でしかない」

ゼガールの言いたいことは分かる。
あんなに目立つものがあれば敵に襲撃された際に真っ先に狙われる。
そして城には国のお偉いさんが多く集まっている。
これだけ聞けば城にはデメリットしかない。
だが……。

「ゼガールよ。城は目立つというデメリット以上に頑丈に出来ているというメリットがある。じゃから襲撃されてもそう簡単に落ちることはない。それに城じゃと隠し通路もあるじゃろ。城には城のメリットがあるんじゃよ」

突然俺の背後から声が聞こえてくる。
もしかしてこの声の主が。

「ま、魔王様!! 城にそのようなメリットがあったとは……お恥ずかしながら存じ上げておりませんでした。私の無知をどうかお許し下さい」

ゼガールはその声の主に向かって膝をつき頭を下げる。
先程ゼガールも魔王様と言っていたので俺の背後のいる人物が魔王に間違いない。

「よいよい、知らぬことは罪ではない。むしろ良いことじゃよ。まだ成長出来る可能性があるということじゃからな」

俺が後ろを振り向くとそこにはボロボロのローブを着た老人の姿があった。

「おっと客人を無理に呼んだにも関わらずいつまでも自己紹介しないのは失礼じゃな。わしはサタン、元々は城お抱えの魔術師をやっておったが訳あって今は魔王をやっておる。人同士ではこういうときは初めましてと言うんじゃったのかのう」

目の前にいる老人、サタンが自分の髭を片方の手で軽く触りながらもう片方の手で握手をしようとこちらに手を伸ばしてくる。
それに対して俺も反射的に手を伸ばした。

「よ、よろしく。俺はカズヤだ」

俺はこの時この世界で初めて魔王という存在に会った。
しかしその魔王は俺が想像していた魔王とはまったく違う、確かに名前は魔王っぽいが笑顔が特徴的な優しいおじいさんだった。

「よろしく頼むカズヤ殿。さて、わしがお主らを呼んだのは他でもない。森の異常を感じたからじゃ」

「森の異常?」

「おお、そうじゃ。その原因も分かっておる」

「原因が分かっているんだったらどうして対処しないんだ?」

「ほう、自覚なしか」

サタンは珍しいものを見つけたというような目で俺を見る。

「自覚って何が」

「お主じゃよ、森の異常が起きている原因というのは」

「そうか俺か……って本当なのか!?」

「実際に会うまでは確信が持てなかったが会って確信したよ。お主が森の異常を引き起こしている本人じゃとな」

会って確信したとは一体どういうことだろうか?

「お主、心当たりがないというような顔をしているな。そうじゃなお主はここに来る途中で黒い影のようなものは見なかったかのう?」

黒い影のようなもの……!?
ここに来る前に俺達をつけていたあの黒い影の魔物のことか。
そいつが何か関係あるのだろうか?

「確かにここに来る前黒い影の魔物につけられていたが」

「やはりか、それにそいつは魔物ではないよ」

「そういえばゼガールにも言われたけど魔物じゃなかったら一体なんなんだ?」

「あれは空気中の魔力が圧縮されて出来た単なる魔力の塊じゃよ。普段は月に一体くらいしか黒い影が出ることはないんじゃが今日で少なくとも三体は見ておる」

そうかあれは魔力の塊だったのか。
確かに月に一体しか出ないものが一日で三体も出たら異常だろう。

「でもそれと俺に何の関係があるんだ?」

「先程月に一体くらい黒い影出ると言ったな。あれは魔力を自然と集めてしまうもの、例えばドラゴンとかじゃのう。そのようなものがこの地に来ることによって出来てしまうものなんじゃよ」

「じゃあ今回はドラゴンが多く来ているだけじゃないのか?」

「確かにその可能性はあった。お主がこの場所に来るまではな」

その可能性はあった?
俺がここに来たことによって何か変わったのか?

「わしには少々特殊なスキルがあってな、人の魔力の流れが見えるんじゃよ」

「もしかして原因って……」

「ようやく気づいたようじゃのう。そうじゃよ原因はお主じゃよ。お主がこの魔国の地にある魔力を集めているんじゃよ」

その言葉に俺は驚きを通り越して笑うことしかなかった。
だってそうだろう?
こんなこと普通なら考えもしないことだ。

「本当かよ……」

どうやら森の異常を引き起こした原因、それは俺だったようだ。

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