乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第82話 カタストロへ Ⅴ


前を見ると身長の何十倍はありそうな大きな門がどっしりと構えている。
そしてその門では何台もの馬車が門番による検査を受けていた。
俺達はようやく最終目的地、カタストロへとたどり着いたのだ。

「結構、列が続いてるな」

「そうね。この調子だと一時間はかかるんじゃないかしら?」

「のんびり待つしかないよな」

「アウゥ」

ホワイトサンダーも一緒に待ってくれるようだ。

「さて順番が来るまで待つとしますか……」

そう言って待ち始めてから数十分後、俺達は列の中盤まで来ると同時に奇怪な目で周りの人達から見られていた。
何故だか理由はもう分かっている。
奇怪な目で見られる原因、それはホワイトサンダーである。
当たり前といっちゃ当たり前だが、ホワイトサンダーは魔物だ。
そして体も大きい。
そんな存在が目立たないわけがない。
そうではあるが正直こんなところで目立ちたくはない。

「どうしたら目立たなく……」

「アウゥ?」

俺が目立たない方法について真剣に考えていた矢先、ホワイトサンダーが前方を見て不思議そうに吠える。
何事かと俺もホワイトサンダーが見ている方へと顔を向けると二人いる門番のうちの一人がこちらに走って来るのが見えた。

「おい! そこの馬車! ちょっといいか?」

門番は俺達の近くまで走ってくると立ち止まり俺に話しかけてくる。

「ああ、大丈夫だが」

「では単刀直入に聞こう。そこにいる白い魔物はなんだ!」

そこにいる白い魔物、ホワイトサンダーのことだろう。

「コイツは俺達の仲間だ。それと確かにコイツは魔物だが、人間に危害を加えたりはしない」

「そんな鋭い牙を生やしているのにか? それで人間に危害を加えないってそんなことあるわけないだろ!」

「本当なんだけどな……」

「とにかくだ! 魔物は町の中には入れない。例え危害を加えなかったとしてもな」

町に来て早々に揉め事を起こしたくはない。
仕方ないがホワイトサンダーには町の外で待ってもらうことにしよう。

「ホワイトサンダー、悪いけどここら辺の森で待機しててもらっても大丈夫か?」

「アウゥ!」

ホワイトサンダーも納得しているようなので一先ずは安心した。

「そういうことなんだけどそれでいいか? 門番さん」

「ああ、それで頼む。くれぐれも町の中に入れるなよ! 分かったな?」

門番はそう最後に念押しした後もう一人の門番のもとへと戻っていった。
それからは何事もなく列が進む、ホワイトサンダーには町近くの森へと移動してもらったため注目されることもなくなった。
そして一時間近く待ちようやく俺達の番が訪れた。

「次の馬車!」

その掛け声に従って門番のもとへと向かう。

「ちょっと馬車の中を見せてくれ」

門番の一人は馬車の後ろへと回る。
もう一人は馬車の外側をチェックしていた。

「よし、問題ないようだな」

「こちらも大丈夫だ」

どうやら全てのチェックが終わったようである。

「これで通って良いのか?」

「ちょっと待て、五人と馬車一台で千二百コルクだ」

「……はい千二百コルク」

「……ひふみっと丁度だな。よし通っていいぞ」

二人の門番の許可をもらい俺達はついに目的地カタストロの中へと足を踏み入れた。

◆◆◆◆◆◆

「まずは宿屋だよな」

「そうね。出来れば料理が美味しいところがいいわね」

「肉が食べたい……」

「私は少しは野菜もとれるところかな」

「もしかしてダイエット?」

「そんなんじゃないよ! なに言ってるの? リンちゃん」

「全然太ってないからそんなに気にしなくてもいいのにお兄ちゃんもきっとそう思ってるよ?」

「なんでそこで和哉が出てくるのよ!」

カタストロに入ってからというもの四人のテンションが上がっていて少々騒がしい。

「おーい、外の人達に注目されるから出来るだけ騒がないでもらえるか?」

「分かってるわよ」

ソフィーはそう言うが本当に分かっているのだろうか。
騒ぐことで俺が被害を受けていることを……。

実際にどんな被害を受けているかだって?
それは簡単なことだ。
まずこの馬車には幌がついている。
そして俺は御者のためその外にいる。
そのため馬車の中で誰かが騒ぐと外にいる俺だけが注目されてしまうのだ。
そして一番の弊害が……。

「なに? あの馬車の中から声が聞こえたわよ」
「奴隷かしらね」
「じゃあ、あの男って奴隷商人なの?」
「そうでしょうね。一体なんでそんなことしているのかしら……」

このような会話が注目される度に行われることだ。

どうやらこの町カタストロは奴隷商人が多く出入りしている町らしく、馬車の荷台に人を乗せていること=奴隷商人という認識をされてしまうらしい。
以上の理由から騒いで欲しくないわけだがさっき生返事をされたように今のソフィー達に何を言っても無駄だということが分かった。
なので俺はもう気にしないことにした。
時には忍耐力も必要なのである。

「そういえば宿のことだけど前回紹介してもらったみたいに一度ギルドに行って聞いてみるか」

「そこら辺は任せるわ」

よし、まずは冒険者ギルドだな。
ということで早速近くの道具屋で町の地図を買い、冒険者ギルドを目指し馬車を走らせた。
それからしばらく町の中をさまよったものの冒険者ギルドの前へとたどり着く。

「ここがこの町の冒険者ギルドか……どこも見た目は一緒だな」

「一緒の方が分かりやすくていいんじゃない? 先に中に入ってるわよ」

ソフィー達は次々と馬車を降りていきギルドの中へと入る。

「俺も早いところ馬車を停められそうな場所を探さないとな」

「あの……当ギルドにご用の方でしょうか?」

俺が馬車を停める場所を探すため周りを見渡していると冒険者ギルド受付嬢の制服を身に纏った少女が声をかけてきた。

「ああ、ちょっと馬車を停める場所を探していたんだ」

「それなら当ギルドの裏にあるスペースを使ってください。案内しましょうか?」

「よろしく頼むよ」

それから俺は少女にギルド裏のスペースへと案内してもらい馬車を停める。

「お客様、冒険者ギルドに来るのは初めてですか?」

「いや前まで他の町のギルドにいてな今日この町にきたばかりなんだ」

「そうだったんですね失礼しました。でも大体の冒険者ギルドにはこのように馬車を停めるスペースがあるので知っておいた方がいいですよ」

「そうだったのか、わざわざありがとうな」

「いえ、これもお客様に快適に来てもらうためです。では私は仕事があるので失礼しますね」

少女は最後に礼儀正しくお辞儀をしてからくるっと百八十度体を回転させギルド職員専用の扉へと入っていった。

「ソフィー達を待たせているしな。俺も早いところギルドの中に入ろう」

それから俺はギルドの表へとまわり、中へと入った。

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