乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第72話 野営 Ⅱ


一度整理しよう。
何故、盗賊達が死んでいったかを……。

考えられる理由は二つある。
まず一つ目は話すことを迫られた盗賊が自ら命を絶った場合。
しかしこれは正直考えにくい。
何故ならさっきまで盗賊の男は自分の命と引き換えに自らが属している盗賊の情報を渡そうとしていたからだ。
情報を絶対に守るという人がそんなことをするだろうか?
以上の点から一つ目はないと言えよう。

そして残る二つ目、あらかじめ毒を飲まされていたもしくは遅効性の魔法的な何かを相手にかけられていた場合。
可能性としては一番考えられることだ。
だがその場合、何も情報を漏らさなくても死んでしまうということになる。
他の冒険者や商人を襲う度に死んでいてはそれはそれで効率が悪い。
ならば特定条件でのみ発動する魔法だったらどうだろうか?
例えば、捕まったときのみ発動する魔法など。
一体どうやっているのかは検討もつかないがその可能性が一番考えられる。
この盗賊といい、他の村の人達それと子ども達といい何か裏がありそうだ。

「一先ず片付けるか……」

とりあえず盗賊が死んだ原因を考えるのはこれで終わりにしてこの盗賊三人の死体を処理するとしよう。
朝起きたときに死体が残っていたらソフィー達が驚くかもしれないからな。

俺は今日起こった一連の騒動になにか気味の悪さを感じながら盗賊の死体を処理するため、再び暗い森の中へと足を踏み入れた。

◆◆◆◆◆◆

「ふぁぁ……おはよう、ご飯まだ?」

ソフィーが大きな欠伸をしながら馬車の中から出てくる。
どうやらまだ寝ぼけているらしい。

「おはようソフィー、ご飯なら用意してあるぞ」

それにしてもこんなソフィーは初めて見た。
今まで俺の起きる前には既に起きていていたのでこんな寝ぼけたソフィーは見たことがない。

「さっきからなによ……私の顔に何かついてるの?」

珍しさのあまり馬車を出てきてからずっと寝起きのソフィーの顔をジロジロと見てしまっていたようだ。

「いや、何もついていないよ。ただソフィーの寝起きを見たことがないなって思ってな」

俺がそう言うとソフィーの顔がみるみるうちに赤くなる。

「ちょっと見ないでよ……恥ずかしいでしょ?」

ソフィーは寝起きを見られることが恥ずかしかったらしく俺から顔を背けた。

確かによだれとか出ていたら少しは恥ずかしいだろうがそんなに恥ずかしいと思うだろうか?
まぁ感じ方は個人によるので否定はしないが。

「ところで他の皆はまだ寝ているのか?寝ていたら出来れば起こして欲しいんだが」

「ん? 他の皆? それなら大丈夫よ。リーネはそのうち起きるし、アカリとスズネは後五分って言っていたからそろそろ来るんじゃないかしら。もうそろそろ五分経つでしょ?」

ソフィーよ、リーネはともかくあかりと鈴音は多分起きて来ないぞ……。
後五分、後五分と言って結局一時間経ってしまうパターンだ。

「そうか、リーネが起きてきたらあかりと鈴音は俺が起こしてくるよ」

「大丈夫なの?」

「大丈夫もなにもあかりと鈴音は伊達に何回も起こしてないからな」

「あなたの心配じゃないわよ。アカリの心配よ」

「俺が何をするっていうんだ」

「だって……ねぇ?」

一体昨日あかり達から何を聞いたらそうなるのだろうか?
そう思うほど俺は信用されていなかった。

「とにかくあかりの心配は大丈夫だ。安心しろ」

「それは信用していいのかしらね」

俺がソフィーとしばらく話しているとソフィーが先程言った通りリーネが馬車の中から姿を現した。

「おはよう……」

「おお、おはよう、リーネ。じゃあ俺はあかり達を起こしに行って来るよ。後は頼んだ、ソフィー」

「えぇ任されたわ。こっちは先に食べてるわよ」

「そうしてくれ」

ソフィーのその返事を聞いて俺は馬車へと向かう。

「おーい、さっさと起きろ! 二人とも」

まったくあかりと鈴音は一体いつになったら一人で起きることが出来るようになるのやら……。

「返事がないようだから入るぞ!」

俺はそう言って馬車を後部から覗き見る。
案の定そこにはまだスヤスヤと寝息を立てているあかりと鈴音の姿があった。

「おい、朝だぞ! 起きろ!」

「……後五分」

二人の肩を揺らしながら呼び掛けるが返ってくるのはその返事だけである。
どうやらこの二人は五分から先にカウントダウンがされない仕様らしい。

そういえば昨日の昼も確か馬車に揺られながら寝ていたよな。
一体どれだけ寝れば気が済むのだろうか。

そう俺が考えていたときだ。
突然肩に重みを感じた。

──なんだ? この感覚は……。

肩に重みは確かに感じられるのだがそこには重さを感じさせないほどの暖かくそして柔らかな温もりも共にあった。

──これはもしかして……。

もしかしなくてもこれは男のロマンがぎっしり詰まっていると噂のアレだ。
俺は一瞬で理解することが出来た。

目の前に鈴音がいる、ということはこれはあかりので間違いないだろう。
どうやらあかりが寝ぼけて俺にのしかかってしまったようだ。

「やれやれ仕方ないな、あかりは」

そうこれは仕方のないこと。俺は被害者なのだ。
起こしている途中でのしかかられたのだから起こすことに注意を向けた俺が気づけるはずもない。
それに今俺が退かしたら衝撃であかりが怪我するかもしれない。
この状態でいること、それはすなわち俺の優しい気づかいなのだ。

それにしても大きく育ったものだ……。
昔はそうでもなかったような……。

「……なにやってるの? お兄ちゃん」

いつの間にか起きていた鈴音に俺は汚物を見るような目を向けられる。

「いや……これは違うんだ、妹よ。まずは話を聞いて欲しい」

「許可する」

「そう俺は被害者なんだ。あかりと鈴音を起こしてたらあかりにのしかかられたんだ。本当だ、信じてくれ!」

俺は自分の妹にこの状態がわざとではないことを必死に訴える。
だが現実は厳しかった……。

「はぁあ……まったくお兄ちゃん。だったらなんでそんな緩んだ顔してるの……」

何? 緩んだ顔だと? 俺がそんな顔をしているはずが……はっ!!

自分で触って顔を確かめて見ると確かに口角が若干上がっていた。

「これは……違うんだ。単なる自然現象というか不可抗力の類いなんだ」

「もう分かったからいいよ。誰にも言わないでおくから。もちろんあかりちゃんにも」

何が分かったというのか。
俺の身の潔白か?
それとも俺がどうしようもない人間だということか?
もちろんそれは鈴音の気持ちなので俺に分かるはずもない。
だが今日俺の黒歴史が新たに一ページ追加されたことだけは俺でも分かった。

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