乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第67話 旅支度 Ⅱ
「はぁ? もういっぺん言ってみろ!」
「だから、そろそろこの町を出ることにしたんだよ」
「おいおい、それは俺の聞き間違いじゃないよな?」
「ああ、何も間違っていない」
ガンゼフは俺の言葉を聞くと受付カウンターの奥へと引っ込んでいった。
「おい、どういうことだよ。そんなの聞いてねぇぞ」
「そんなの私も知りませんよ。私もさっき知ったばかりですもん」
「どうにか引き留められないか? このままだと町の貴重な戦力がいなくなっちまう」
「そんなこと言われましても……」
受付カウンターの後ろからはガンゼフとエリーのそんな会話が漏れ聞こえてくる。
「一体あの二人は何をやっているんだ……」
俺はいつもの二人のやり取りに呆れつつも、もうしばらく二人のやり取りを見ることが出来ないのかと少し寂しい気持ちなっていた。
この二人にはだいぶ世話になったな。
俺がここに初めて来たときのことを思い出しながらそんなことを思う。
それから少ししてガンゼフとエリーが受付カウンターの奥から出てきた。
「しばらく待たせて悪かったな」
「こんにちは、カズヤ様」
「ああ、エリーどうも」
俺が受付カウンターの裏から出てきたエリーに対して挨拶を返しているとガンゼフが突然俺の肩を掴んだ。
「おい、新入り!」
「ん!? なんだ?」
突然だったのと意外にも力が強かったことに驚いてしまう。
「俺からの一生のお願いだ。この町に残ってくれ! そしてお前の力で俺を出世させてくれ!」
「出世……?」
「あ、いやあれだよ。出世って言うのは副次的なもので本当に言いたかったことはお前がいないと寂しいってことなんだよ」
俺を引き留める理由、それは出世のためだったらしい。
まったく本音が漏れてしまうとはガンゼフらしいっちゃらしいが今後は気をつけて欲しいものだ。
もしかしたら本音が人を傷つけてしまうことだってあるかもしれないからな。
ここで一番お世話になったかもしれないガンゼフの頼みだが今回は引き受けるわけにはいかない。
今日まで準備を進めてきてもう引き返せない段階まで来ているというのも理由の一つだがそれ以上にあかりと鈴音のことがある。
彼女らにこれ以上無理をさせるのは本人達はいいと言うかもしれないが俺が許さない。
だから……。
「悪いが町を離れることは譲れないことなんだ」
ガンゼフは俺の目を見て本気だと感じ取ったのか俺の肩からそっと手を離した。
「そうか、無理を言って悪かったな。だが次この町に戻って来たときは一番に俺に知らせろよ! これはギルドマスター命令だ!」
ガンゼフは豪快に笑うと再び受付カウンターの奥へと引っ込んでいった。
「カズヤ様、私はカズヤ様を応援していますよ!」
「ありがとうな、エリー」
「なのでカズヤ様のサインをください! カズヤ様はきっと有名になります。私が保証しますよ」
「そんなに有名になるか?」
「はいきっと。ですからささっとお願いします」
俺はいつの間にかエリーの出していた色紙らしきものにエリーの言う通りささっとサインをする。
「これでいいのか?」
「はい、完璧です。他のところでもカズヤ様ならきっと上手く行きます。頑張って下さいね」
「ああ、俺の出来ることはするつもりだ。じゃあ俺は行くよ」
「お気をつけて」
エリーは俺がギルドを出るまでニコニコと微笑みを浮かべたままだった。
相手にサインを書いてもらった後、気合いを注入し笑顔で送り出す。
それがエリー流の送り出し方なのだろう。
エリーのその特殊な人の送り出し方に心が暖かくなるのを感じながら俺達が今お世話になっている宿の方向へと向かった。
◆◆◆◆◆◆
「ちょっと待って下さいです」
俺が宿へと戻るように通りを歩いていると突然後ろからは声をかけられる。
「ん? 何のようだ?」
誰だか分からないがとりあえず返事をしようと後ろを向くが……。
「なんだ、誰もいないじゃないか」
後ろには俺を呼ぶような人はいなかった。
どうやら俺の幻聴だったらしい。
というわけで再び前を向いて歩く。
「どこ見てるですか? 下ですよ、し・た!」
下? 下を向くが当然そこには何もない。
「もしかしてわざとですか? 絶対わざとですよね」
段々と幻聴がうるさくなってきたな。
それに加えて腰に拳によるダメージが入っているのが伝わってくる。
この拳の位置はもしかして……。
「もしかしてアメリアか?」
「もしかしてアメリアか? じゃねぇですよ! 絶対気づいてたですよね」
「そんなことはないぞ。普通に気づかなかった」
「気づいてもらえないのもそれはそれで……ってこんなことしてる場合じゃなかったです。とりあえずこれをどうぞです」
アメリアはそう言って腰のポーチからあるものを取り出す。
俺は何を取り出したか確認しようとしたがアメリアの手に握られていて確認することが出来なかった。
「それは?」
「これはですね、お守りですよ。聞いたですよカズヤがそろそろ町を出るって。だからこれを渡そうと思って来たです」
「アメリア、ありがとう。嬉しいよ」
「そんなこと気にしないでいいです。さぁ受け取るですよ」
そうか、手に握っていたものはお守りだったのか。
せっかくアメリアが俺にくれる物だ、ありがたく受け取ろう。
それからアメリアにそのお守りとやらを手渡される。
なんだかツルツルとしていてさわり心地がいいな。
一体どんなお守りなんだろう……。
俺は確認のために自分の手に持っているものに視線を落とす。
するとそこには人の頭の骨をモチーフにした禍々しいデザインのものがあった。
簡単に言うならば、ドクロである。
「アメリア……これは?」
「だからさっきから言ってるようにお守りですよ」
どこにお守りの要素があるのだろうか?
どっからどう見ても人の死を願う呪い的なあれにしか見えない。
「これはですね。どんな敵でも殲滅出来るようにっていう願いを込めたお守りなんですよ。カズヤにはこれでどんな敵も殲滅して欲しいです」
なるほどそういうことか。
とりあえず呪い的なあれじゃなくて安心した。
この世界の人はなかなか斬新なことを考えるものだ。
「そういうことなら大事に身につけるよ」
「ぜひそうして下さいです。じゃあわたしはこれで」
そう言ってアメリアはどこかに駆けていく。
きっとこのあとに用事でもあるのだろう。
「じゃあな、またどこかで」
俺が大声を上げて手を振るとアメリアもそれに答えて手を振り返してくれた。
冒険者ならまたどこかで会うこともあるだろう。
それからアメリアの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
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