乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第65話 朝食会議 Ⅱ


「さて、これから軽く今後のことについて話そうか」

エリカが仕事に戻った後、俺はソフィー達と同じテーブルについていた。
もちろんソフィー達と同じく俺も外套を纏ってだ。
さっきは目立つとかなんとか言っていたがそれはあくまでソフィーと皆のことを考えてだ。
別にこの全員で外套を纏うという案に俺自身反対なわけではない。

「それで今後のことって具体的に何を話すのよ。大体のことは昨日決めたじゃない?」

「昨日のは大体の方針とかだろ? 今回は行動についてだよ」

「続けて」

「そうだな、とりあえず決まっていることから話すぞ。一先ず俺とソフィーそしてリーネについては勇者の護衛を最後まで務めるということで決定だ。やっぱり受けた仕事は最後までやらないとな。それでその間のあかりと鈴音なんだが二人には偽名で冒険者登録を済ませて欲しい。これが今決まっていることなんだが何か質問とかあるか?」

「はい! 質問いい? お兄ちゃん」

「おういいぞ、鈴音」

「その冒険者登録ってすぐ終わるよね? その後は何もすることがないじゃない? その間って私達は何をしてればいいの?」

「それを今から決めるつもりだったんだがたった今いい案を思いついた。この町には確か本がたくさん置いてある図書館みたいなところがあったと思うから二人はそこで他の町とか他の国とかについて調べててくれ」

「え、何でそんなこと……」

「いいから、いいから。入るのに確か身分証明を求められるから先に冒険者登録しておけよ。くれぐれも正体がバレないように頼むぞ」

「とりあえず分かったよ」

鈴音は返事を返してくれたのだがあかりからは何も反応がない。
念のためあかりにはもう一度確認をしておくか。

「あかりも頼むぞ」

「う、うん。分かったよ」

ん? あかりの様子がなんかおかしいな。
いつもより元気がないというか……。

「あかり、どうかしたのか? もしかして他にやることがあったか?」

「ううん、何でもないよ。冒険者登録した後は他の町とか他の国について調べればいいんでしょ?」

「ああそうだな。まぁ簡単に言えばこの世界のことについて調べて欲しいってだけなんだが。とにかく頼むよ」

これであらかた話が終わり後少しで始まる探索の準備のため俺は部屋に戻ろうとしたのだが……。

「カズヤ、ちょっと待って!」

ソフィーに呼び止められた。

「ん? なんだ?」

「ん? なんだ? じゃないわよ! もしかして分かってないの?」

「分かってないって何がだ?」

「なるほどね分かってなかったのね。有名な話だから分かっていると思ってたんだけど……」

「だから何のこと……」

「吸血鬼は太陽の下だと弱体化しちゃうのよ。まぁ死にはしないんだけどね」

弱体化。
確か元の世界でも吸血鬼は太陽に弱いとか言われていたな。
あかりを助け出したときに懸念していた通りやはりこの世界でもそうなのか。
しかし参った……。
これだと無闇にあかりを外に連れ出せないじゃないか……。

「そうだったのか。あかり気づいてやれなくてごめんな」

「いや、私もよく分かんなかったし、なんか体が怠いだけだから大丈夫だよ」

「本当にそれだけなのか? ソフィー」

他にも何か影響があったりしたら大変だからな。
ここはしっかりと知っておくとしよう。

「そうね。体が怠くなる、それと生命力の摂取頻度が増えるくらいかしら」

そうか、生命力の摂取頻度が増えるか……。
それくらいなら俺がなんとかすればいいが大事なのは本人だ。
本人が辛ければ俺が後でなんとかしたところで意味がない。
あかりについてはあかり自身の判断に任せるしかないか……。

「あかりは大丈夫なのか?」

「さっきも言ったけど体が怠いだけだから私もリンちゃんと一緒に調べるよ」

「無理はしないようにな」

「分かってるって」

あかりはこう言っているがやはり心配である。
あかりのことは一緒にいる間常に気にかけておくとしよう。

「じゃあ、俺は探索の準備があるから部屋に戻るよ」

「私達もそうしましょうか、リーネ」

「そうだね」

それから俺達はそれぞれのやるべきことのためこの第一回朝の食事会議イン宿を解散した。

◆◆◆◆◆◆

「皆さん本当にありがとうございました」

「いやぁリーダー頑張ったねぇ」

「そうです。初めの方はいろいろと心配でしたが最近はもう言うことなしです! わたしが保証しますです」

今現在俺達が何をやっているのかというと探索グループの人達に別れを告げている。
というのも今日は探索の最終日、今日でグループは解散なのだ。

「そうだな。戌井さんは良くやったよ。グループへの指示も俺なんて必要ないくらいにな」

「そんな……まだまだですよ……」

戌井さんは頭から湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にして俯いてしまった。
どうやらグループの皆に誉められ過ぎて照れてしまったらしい。
だがそれくらい誉められるほどに彼女は成長した。
初めは出来ていなかったグループの皆への気配りも今となってはメンバーの一人に異変があると誰よりもいち早く気づくほどに成長している。
戦闘に関しても今自分達が戦える状態であるか敵の強さは自分達が対処できる範囲であるかを判断して見極められるほどになっている。
それほどまでに彼女、戌井さんは成長しているのだ。

「そんなことはないだろ。ここ数日は俺達冒険者の手を借りていなかったじゃないか」

「そうですかね」

「そうだ、戌井さんは堂々と胸を張っていればいいんだ」

「私達にはぁ何もないんですかぁ?」

戌井さんだけ誉められることが面白くなかったのか。
田辺さんが俺に自分達も誉めるようにと要求をする。

「もちろん、戌井さん以外も確実に強くなっているよ。戦闘のときなんてアイコンタクトで会話していたじゃないか。普通は数日でそんなこと出来ないよ」

「まぁいいですよぉ。それくらいでぇ」

どうやら田辺さんは自分で誉めろと言っておいて照れてしまったみたいだ。

一体何がしたかったんだろうか……。

そう思いつつ俺は上を向く。

このやり取りも最後か……。

空を見上げようとしたがまだ森の中にいるせいで木が邪魔をして空を見ることが出来なかった。

「とにかく今日で探索は終わりだな」

「そうですねぇ。なんだか寂しくなりそうですよぉ」

本人は寂しがっているのだろうがまったく寂しそうに聞こえないのは俺だけだろうか……。

「本当寂しくなるですね。わたしは明日からまた依頼を受ける毎日ですよ」

「そうだな、俺達は明日からまたあの戦場に行かないとな……」

勇者達が寂しがっている一方アメリアとジョゼフは明日からの依頼争奪戦に気分を落としていた。

「勇者というからには今後もこういう野外演習みたいなことをやるのか?」

「それは私達ではなんとも言えないですね。でも今回、何人か勇者が行方不明になったじゃないですか。しばらくこういう演習はないと思いますよ」

何人か行方不明……正確に言えば二人、もっと正確に言えばその二人は俺の住んでいる宿の部屋にいる。
そういえば俺があかり達を助け出した後、勇者が行方不明になるということは起こらなくなった。
原因である暗黒騎士と吸血少女がどこかへと逃げたからであろう。

「そうだな……それじゃしばらく演習はないかもな。おっと……用事があるから先に行くよ。また今度会ったときは一緒に冒険でもしようぜ!」

「おうよ、またな!」
「はい、楽しみにしてますね」
「次はわたしの本気を見せるです」

一通りグループメンバーとの別れを告げた俺は急いでこの場を後にした。

この町もそろそろ見納めだな……。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品