乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第61話 再会 Ⅳ
「まぁなんというか和哉らしいっちゃ和哉らしいよね」
「まさかそんな理由で黙っていたなんて酷いよ、お兄ちゃん」
「それについては本当にすまん」
俺は二人に謝った後、当然理由についても話していた。
話した結果は先ほどの会話の通りだ……っとここで俺のことについても話しておくとするか。
「一応二人とも俺のことについて知っておいた方がいいよな」
「ああ、洞窟の中でちらっと言っていたこと?」
「ん? 何のこと? お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないの?」
「あかりには少し話したんだが俺は幽霊なんだよ」
「え? 幽霊なの!? じゃあどうしてはっきり見えてるの? 私そんなに霊感強くないと思うんだけど……」
「いやそういうことじゃないんだ。この世界に来たときに少し特殊なスキルを覚えていたんだ。そのスキルのおかげで見えてるし触れるしって感じなんだ」
「この世界に来たときってもしかして私達と一緒に!?」
「ああ……というか死んでからこの世界に来るまではずっとあかりとか鈴音の側にいたぞ」
「「え!?」」
俺の発言に二人が驚きの表情を浮かべながら固まった。
俺は何かまずいことでも言ったのだろうか?
そんなことを考えていると二人の内、鈴音が俺に詰め寄ってくる。
「ずっと見守ってたってもしかして私の部屋とかも見たりしたの?」
鈴音の部屋か。流石にそこまでプライベートなところは見てないな。
「いや鈴音の部屋は見てないよ。死ぬ前も部屋に入れてくれなかっただろ?だから死んだ後に入るっていうのも悪い気がしてな」
「そう、ならば問題なし」
「そ、そうか。良かったよ」
鈴音の部屋に何か見られてまずいものでもあったのか?
まぁ今さら気にしても仕方ないか。
鈴音も知られたくないことのようだしな。
「じゃ、じゃあ。私の部屋も見てないよね?」
「あ、ああ。だってプライベートな空間だしな」
俺がそう答えるとあかりも見るからに安堵した表情を浮かべた。
まぁあれだな。
女の子には詮索してはいけないことがあるってことだな……。
さて昔話はそろそろ終わりにして話さなければならないことを話すとするか。
今ので俺の説明はしたから後は二つだな。
まずはあかりのことから……。
「急に話が変わるんだが驚かないで聞いてくれよ? 特にあかり」
「な、何? 急に」
あかりが明らかに挙動不審になっている。
余計な前置きを言わない方が良かったか。
「あのな。あかりは気づいていないかもしれないがあかりはもう人間じゃないんだよ」
「「へ?」」
うん、分かる。
突然お前は人間じゃないと言われてもただの悪口にしか聞こえないだろう。
だがなこれは決してふざけているわけではないんだ……。
「これはふざけているわけじゃないんだ。あかりは吸血鬼なんだよ」
「吸血鬼……」
あかりは一言そう発するとゆっくりと顔を下に向ける。
やはり吸血鬼になったことがショックだったのか。
まぁ無理もない……。
「……やった……これで」
さっきあかりは下を向いて落ち込んでいるように見えたのだが、今見ると喜んでいるようにも見える。
どういうことだ?
「おいあかり、どうかしたのか? 様子がおかしいけど……」
「いやそんなことないよ、いつも通りだよ。でもそうだね今私が吸血鬼だってことには驚いたよ」
あかりは見た者を虜にしてしまうであろう良い笑顔で俺にそう答える。
あかりがこんなに笑顔のときは何かあるときだ。
一体このあとに何が待っているのだろうか……。
とにかくこれであかり自身の状況を本人に知ってもらう目的は達成したな。
後はこの三人を帰すことだけだ。
三人が元のところへ帰りたいかどうかは分からないが他の皆が心配するからな。
「それで帰りはどうする? 何か食べてからにするか?」
「ちょっと待ったぁ!」
俺がそう言ったタイミングであかりが大声で俺を呼ぶ。
「なんだ? あかり。そんなに大声を出して」
「私ってもう吸血鬼なんだよね?」
「ああ、正真正銘の吸血鬼だぞ」
「ということは私が城になんて帰ったら討伐間違いなしだよね?」
「場合によってはそうかもしれないな」
「ということは私って帰れないよね?」
「そうかもな」
「あぁ困ったな。ということは今日のご飯も今日寝るところもないよ」
あかりはそう言い終えるとチラッチラッと俺を何度も見てくる。
これはあからさま過ぎるアピールだな……。
仕方ない、あかりについては元からこういう事態も想定していたしな。
「それなら俺のとこに来るか?」
「え、本当に!? じゃあお言葉に甘えて……」
「ちょっと待ったぁ!」
この声が目の前のあかりからではないとすれば当然……。
「私もあかりちゃんと一緒が良い。ねぇお兄ちゃんいいでしょ?」
鈴音のこの上目遣いは破壊力が高い。
こんな目で見られたらどんな人でも断れないだろう。
そうだから俺が断れなくても何らおかしいことはない。
「仕方ないな。じゃあ鈴音も来るか」
そう今は仲間が増えたことをただ喜ぼう。
今だけはこのあと待っているであろう面倒なことは考えないようにしよう。
これは現実を逃避しているのではない。
今を楽しく生きるための知恵だ。
面倒くさいことは実際にそういう状況に陥ったときに考えればいい。
「とりあえず町まで戻るか」
俺は未だに目を覚まさない鈴音と一緒に捕らえられていた勇者を肩に担ぎ上げ暗い森の中をあかり達二人と共に進んだ。
◆◆◆◆◆◆
日が暮れて夜の町が完全に姿を見せる頃。
とある宿屋の前で俺と大男は会話をしていた。
「今日三人を探してたら森の中で倒れていたぞ」
「この娘は!? 間違いねぇ。今日いなくなった勇者の嬢ちゃんだ。一体どこで?」
「それだがな。あんたが探してた場所の少し奥で見つけたんだよ」
「少し奥か、確か探したはずなんだが探しそびれたのか……とにかく本当に助かった。それで残りの二人は……」
「ああ、すまないが見つけることが出来なかった」
「いや一人戻ってきただけでも奇跡だ。本当にありがとう」
俺は今鈴音と一緒に捕らわれていた勇者をその勇者のグループのところに引き渡しに行っている最中だ。
あかりと鈴音については見つからなかった体で話を通すつもりなので二人には離れた場所で待っていてもらっている。
「用事はそれだけだ。夜遅くにすまなかったな、じゃあ」
さて、これから二人を連れて宿に戻るとするか。
明日も森の探索があるしな。
俺はその後路地裏に隠れて待っていてもらっていた二人と合流し自らがお世話になっている宿へと向かった。
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