乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第60話 再会 Ⅲ


出口を抜けるとそこは松明が等間隔に壁にかけられた狭い一本の通路だった。
俺達はその通路を慎重に進む。
それからしばらくその一本道を進むと通路の終わりが見えた。

「この先に鈴音達がいるかもしれないな」

「私達を拐った人もいるんでしょ? 気を引き締めないとね」

「ああ、そうだな」

俺達は通路終わりのその先へと足を踏み入れる。
足を踏み入れた先はこれまたドーム状の空間が広がっていた。
先ほどまでとは違う点があるとすればとても明るいということだろうか。

──何故こんなに明るいんだ?

上を見上げるとそこには光を放つ大きな球体が浮いていた。

「なんだ? これは?」

「それはダンジョンの核だよ」

俺の独り言に返事をするものが一人。
あかりではない。ということは……。

「お前……よくノコノコとやってこれたな!」

「なんだ? 来てはダメだったのか? それに俺の名前はお前ではない。ゼガールだ」

そう二人……いやあかりを含めれば三人を拐った張本人、暗黒騎士である。

「そんなことはどうでもいい。二人はどこだ?」

「そう焦るな。まだ二人には何もしていないと言っただろう。俺は取引をしに来たんだ」

「取引?」

「ああ、そうだよ。取引だ」

一体何を考えているんだ? 罠か?

そう思ったがどうも嘘をついているようには見えない。

「とりあえず話は聞こうか」

「話が分かるじゃないか」

「いいから早く話せ!」

「そう怖い顔をするな。取引の内容は簡単だ。二人を解放する代わりに俺達を逃がして欲しい」

それは本気で言っているのか? それともやっぱり何かの罠なのか?

「本気なのか?」

「本気も本気だ。俺がお前と殺りあったところで俺が負ける未来は見えている。俺達の目的はなにもお前を倒すことじゃないからな。それでどうだ? この取引を受けるか? それとも……」

あかり達三人を拐った犯人達を逃がすのは気持ち的には納得できないが、鈴音達が無事に帰ってくるなら……。

「分かった受けよう」

「おお、そうか。これで取引成立だな。あとこれは忠告なのだが二人を解放した後で俺達を追いかけようとは考えない方が良い」

「どういうことだ?」

「とにかく考えるなってことだけだ。二人のところまで案内するからついてこい」

納得のいかない返答だが鈴音達を助けることは出来そうだ。

それから暗黒騎士の後をついていきドーム状の空間に一つしかない出口とは反対側にある隠し通路らしき通路を通る。
その通路をまっすぐに進み、ある一つの木で出来た扉の前までたどり着いた。

「ここが二人のいる部屋だ」

俺とあかりは暗黒騎士前へと出て目の前の扉を開ける。
扉を開けた先では地面に寝かされている二人の姿が見えた。

「大丈夫か? 二人とも」

「怪我とかない? リンちゃん!」

慌てて二人のもとへと駆け寄る俺とあかり。

「……むにゃむにゃ」

俺達の声に反応してか寝かされている二人のうち鈴音が目を覚ます。

「……ん……あかりちゃん……?」

「そうだよ。私だよ」

「……ああ、あかりちゃんか……ってえ!? あかりちゃん? どうしてここに?」

「その話は後でね、早くここから出よう!」

「そうだぞ、鈴音。早く行くぞ!」

「お兄ちゃん……ってお兄ちゃんまで!?」

鈴音の頭は突然の超展開について行けずにパンクしてしまったようだ。

「あかり! あかりは鈴音に肩を貸してやってくれ。俺はこの娘を運ぶから」

「了解! とにかくリンちゃんこっちに来て」

それから俺達四人は洞窟の外へと脱出するため行動を開始した。
脱出しているときに暗黒騎士や吸血少女からの攻撃に警戒していたが彼らの姿は既にどこかへと消えており、その心配は必要なかった。
どうやら本当に取引は罠ではなかったらしい。
こうして俺達四人は誰の邪魔も受けることなく洞窟の入り口まで戻ることが出来た。

残念ながらあかり達を拐った二人を殺ることが出来なかったが捕らわれていた全員を救い出すことが出来たのでよしとしよう。
しかしこれでハッピーエンドではない。

ここでいくつかの問題が発生する。
まず一つ目、あかりが吸血鬼になってしまっているという点だ。今は丁度夜なので問題はないが、昼になり太陽が上がると何か問題が起こるかもしれない。
昔から吸血鬼は太陽に弱いって言うしな。
それにまだあかりが吸血鬼になっているということに鈴音達は気づいていないし、多分本人も気づいていないと思う。

「なんだか暗いのによく見えるよ。私の視力って上がったのかな?」

その証拠にこんなことを言っている。
このややこしい状態をどう解決するかが頭の悩ませどころだろう。
そして二つ目は俺の存在についてだ。
あかりには勢いで俺が和哉だと正体を明かしたが鈴音には俺からは正体を明かしてはいない。
それに俺について二人共にしっかりと説明していないのだ。
なので俺のことについては説明する必要があるだろう。
最後に三つ目、それはこの三人をどうするかだ。
帰すことは帰すつもりなのだが、あかりについては現状帰していいものかを悩んでいる。
何せ吸血鬼になっているんだからな。
あかりの判断によって鈴音が城に帰らない可能性も考えられる。
まぁ最終的には本人達の意思に任せるしかないのだからどうしようもないと言ったらどうしようもない。

「ところであなたって私達を助けてくれた冒険者だよね」

さっき俺のことをお兄ちゃんとか呼んでたからてっきり気づいているものだと思っていたが単に寝ぼけていただけだったようだ。

「そうなんだけど実はな……」

「リンちゃん! 実はねこの人和哉なの!」

先に言われてしまった。
せめて正体を明かすときは自分の口から言いたかったのだが……。

「え!? それって本当なの? じゃあやっぱりこの人お兄ちゃんだったの?」

「そういうことになるな……」

これは今まであかり達を避けていた理由を話すっていう流れだよな。
避けていた理由が気を使われたくないからというわりと自分勝手なだけに怒られそうだな。
どうするか……でもまだ聞かれると決まったわけではないからこのまま様子を……。

「じゃあなんで今まで黙ってたの? 挙げ句の果てには嘘までついて騙そうとしたよね?」

ですよね……そうきますよね……。

「あのそれについては……」

残された道は謝ることのみ。
それしか道がないのならばやることは一つだろう。

覚悟を決めた俺は今まで正体を隠していたことを誠心誠意あかり達に謝った。

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