乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第55話 捜索 Ⅰ
夜が明けて次の日。
俺達のグループ及び他のグループは昨日探索した森の入り口へと集まっていた。
昨日、あかりが行方不明になったことが皆に知られているせいか全体の雰囲気が暗い。
「えー皆も知っていると思うが昨日ちょっと事件があってな。今日はグループの中でも二人一組で行動して欲しいんだ。それじゃあよろしくな」
まだあかりの行方は分かっていない。
というか既に諦めている人もちらほらといるのだ。
──夜が明けたら絶望的だと……。
そう考える人の気持ちも理解は出来る。
だが分かりたくはない。
そう思うのは不自然なことだろうか。
「それじゃあ、今日も探索をしましょう」
ただグダグダと考えていても何も始まらない。
あかりのことは気になるが、今は自分の仕事をこなすことにしよう。
もしかしたら探索している途中であかりを見つけられるかもしれない。
「さっき冒険者の人が言っていたように私達も二人一組で行動しましょうか」
二人一組か。それで互いにいなくならないか見張るというわけだな。
「じゃあこっちで組み合わせを決めますね。まず、私と南ちゃん……」
このように戌井さんの指示で二人一組を作っていく。
最終的に戌井さんと高橋さん、田辺さんと内藤さん、高崎さんとアメリアの組み合わせになった。
その前後に俺と戌井さん達の護衛であるジョゼフがつくという体制だ。
「これで組み合わせは決まりましたね。それでは出発しましょう」
それから俺達は昼間でも薄暗い森の中へと足を踏み入れた。
◆◆◆◆◆◆
森の探索を開始してから大体一時間が経過した頃。
「はっ!」
「グギャ!」
「よくやったよぉ。さきりん」
「ありがとう、梨香ちゃん」
高崎さんがゴブリンに止めを刺したそんなときだった。
「おーい、どこだ! っく、またか!」
前方からなにやら慌てている男の声が聞こえる。
この声は……まさか!?
俺は昨日あかりを捜索している最中に聞いた声と今の声が似ていることに嫌な予感を覚える。
俺がそう感じている間にも前方にいた男は徐々にこちらへと近づいて来て俺と目が合うと大慌てで俺へと駆け寄ってきた。
「あんたは昨日の兄さんじゃないか。今ちょっとまずい状況でな話を聞いてくれないか?」
「ああ、なんだか慌てているみたいだな」
彼はやはり俺が予想した通り昨日あかりを捜索していたグループのメンバーの一人であった。
彼が慌てているということは……。
「今日もまたいなくなっちまったんだよ。今日は昨日以上に気をつけていたってのにこの様だ。一体どうして……」
──またいなくなった……。
その言葉に俺の心は激しくかき乱される。
彼がいなくなったと焦って言っているのは彼のグループメンバーのことだろう。
そのグループの中にはもちろん俺の妹である三森鈴音もいる。
あかりに続いて鈴音までもがいなくなる。
考えたくはないが鈴音が被害にあっている可能性だって十分あるのだ。
「いなくなった人の特徴とか分からないか?」
「一人目は元々俺のグループで護衛していた長い黒髪の女勇者だな」
彼の言葉を聞いた瞬間、決して喜んでいいことではないだろうが俺は心の中で安堵していた。
少なくても鈴音ではないと。
だが安堵しながらも先程の男の発言に一つ引っ掛かる点があった。
引っ掛かる点。それは「一人目は……」と話し始めた点だ。
一人目ってことは二人目も……。
俺が二人目がいることに気づくのと男が話し始めたのはほとんど同タイミングだった。
「二人目が肩くらいの長さの黒髪の女勇者で……そういえば昨日いなくなった勇者と仲良くしていたな」
二人目がいることに気づくと同時にその二人目が俺の妹だという予想していた中で最も最悪な展開に少しの間思考が停止する。
嘘だろ……? 肩くらいの長さの髪にあかりと仲良くしていたってもしかして、いや確実に俺の妹じゃないか……。
俺は衝撃のあまり頭が真っ白になりその場に膝をつく。
なぜ俺達だけこんな目にあわなければいけない?
俺達が一体何をしたっていうんだ。
ここに来て、いままでずっと心の中にしまい込んできた感情が一気に外へと溢れだした。
それは俺が死んだときのことから今の今までのことまでで心に溜め込んできた負の感情そのものだった。
なぜ俺だけが死んだんだ?
なぜあのとき車が突っ込んできたんだ?
なぜ俺が死んだとき周りのやつらは携帯を向けて来たんだ?
そんなに死体が珍しかったのか?
それとも俺の死は単なるネタだったのか?
なんで俺だけが他の人と話せない?
なんであかりが……。
なんで鈴音が……。
俺はこんなにも人を助けているのになんで……。
なんで…なんで…なんで…なんで……。
「おい、大丈夫か? 急に膝をついてどうかしたのか?」
男は俺の突然の行動に心配そうに近寄ってくる。
その姿に俺は苛立ちを覚えた。
そもそもお前達、冒険者がしっかりしていればあの二人は……。
一発顔面を殴ってやろうかとも思ったがすんでのところで思い直す。
今は俺の憂さ晴らしをしている場合じゃないな。
他にやるべきことがあるじゃないか。
俺の頭は先程の感情剥き出しの状態とは打って変わって自分でも不思議なくらい冷静だった。
冷静だからといって怒りが収まったわけではない。
今から俺のやるべきこと、それはあかりと鈴音がいなくなった原因を潰すことだ。
あかりや鈴音が一人で勝手にいなくなることなんてない。
必ず原因があるはずだ。
俺はスッとその場を立ち上がる。
「うわぁ!」
俺が突然立ち上がると俺を心配していた男は大きな声で驚いた。
だが俺はそれを気にすることなくグループメンバーの前へと行く。
「すまないが、今日はここで探索を切り上げないか?」
「え? でもまだ明るいですよ……」
「それでもだ。俺にちょっと個人的な用事があってな。頼むよ」
「わ、分かりました。ではまた後日に……」
「ありがとうな。ジョゼフさん後は頼んだよ」
「ああ、任された。さぁ行くぞ!」
ジョゼフの指示で勇者一行は森の中を戻るように進む。
それからしばらくして一行の姿は森の中へと消えた。
「さて、手がかりを探すとするか」
「おい、兄さん。どこに行くんだ?」
「ああ、ちょっといなくなった人達を探しにな」
「場所が分かるのか?」
「そんなの知るわけないだろ」
「じゃあどうやって……」
「どうやってって普通に探すんだよ」
俺はそれだけ言い終えると森の奥へと歩を進めた。
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