乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第53話 森林散策 Ⅲ
グループが決まり、それぞれメンバーに挨拶を済ませた俺達は他のグループより一足先に森の探索を始めていた。
「それにしてもぉ足場が悪いですねぇ」
「それは森の中だからな」
人がよく通るところなら別だが森、それは決まって足場が悪いものだ。
現に今も盛り上がった木の根っこに足を取られている。
「あ、前方に敵が見えましたよ! 皆さん準備をお願いします」
今話していた俺達に敵がいることを教えてくれた人物。
今回の合同グループのリーダー、戌井真姫だ。
「ああ、ありがとう戌井さん。ほら皆、敵がでたぞ」
俺達、冒険者は基本的に戦闘に関しては手を出さないことになっている。
森の探索にあまり関わらないことで勇者達の成長を促すのだ。
だがもしもの時はその限りではない、グループを組んでいるのはそのもしもの時のことを考えての結果だ。
「後ろからの援護は私達に任せてください!」
「分かりました。では前は私に任せてください!」
敵はゴブリン、数は五体と現在の前衛一、後衛四の構成ではいささか前衛が厳しいようにも見えるが、こと高崎さんに関してはまったく問題がない。
なぜなら高崎さんには『弱体強化』というスキルがある。
高崎さんはグループを組む際に『弱体強化』のスキルがあるためにどこのグループにも入れてもらえなかったが、それはスキルの表面的な部分しか知らなかったためかもしれない。
『弱体強化』は確かに周りの味方を弱体化させてしまう。
だがそれで終わりではない。
『弱体強化』の効果は周りにある全ての弱体化だ。
そこには当然敵も含まれる。
敵も共に弱体化させてしまえば周りへの影響は結果的には何も変わらないのである。
違いが出るとすればスキル使用者が強くなるというくらいだ。
ある程度格上相手には戦力差を埋められ、格下相手には逆に戦力差をつけることが出来る。
『弱体強化』は特殊な身体強化スキルなのだ。
ちなみに始めにこのことを新しく組むことになった四人の勇者に伝えたところかなり驚いていたので表面上の効果である周りの仲間が弱体という効果しか知らなかったのだろう。
「はあぁ!」
高崎さんはその掛け声と共に五体のゴブリンの群れへと突っ込む。
「グギャ!」
「グギャギャ!」
高崎さんの力はスキルのためか圧倒的で五体のゴブリン相手でも一歩も引けを取らない。
ゴブリン達がそれぞれ振り回すこん棒を全て見切り、避けていくのだ。
それに加えて着実に剣でダメージを与えていく。
完全に敵を圧倒していると言えるだろう。
「南ちゃん! いくよ!」
高崎さんが前衛で頑張っている中、このグループのリーダーである戌井さんが同じグループのメンバーである高橋南に合図を送る。
「オーケー! 了解!」
戌井さんのその合図が伝わったのか合図に肯定を返した。
「「ウォーターボール!」」
二人の放った魔法の水の玉はゴブリンへと向かっていき、ゴブリンに当たるとゴブリンの頭にたちまち水が覆った。
どうやら二人は高崎さんの援護に回ったみたいだ。
それも高崎さんに被害が出ないような魔法を選んでいるあたり二人は援護に慣れているようである。
「スピラド!」
「えーい、アタクドぉ」
先ほどの遊撃二人から少し後ろにいる二人、田辺さんと内藤愛理は高崎さんにバフ魔法をかけていた。
『スピラド』・・・対象の俊敏力を上昇させる魔法。
『アタクド』・・・対象の攻撃力を上昇させる魔法。
魔法の説明を見る限り、二人は前衛の攻撃力と俊敏力を上昇させるバフをかけていたみたいだ。
全体的に戦いかたを見る限り、グループで手分けしてというよりは前衛の一人に力を集結させたり、前衛を補助をしたりと前衛のワンマンに頼ることが多い。
予想外のことが起きなければこれは問題のないやり方なのだが、予想外のことが起きてしまった場合例えば……。
「!?……愛理! 後ろに大きい狼が!」
そう今戌井さんが言ったように突然後ろから敵が現れてしまった場合などは前衛のワンマンに頼りきった戦いかたでは問題が起きてしまう。
「きゃっ!」
「よっと」
なので少し戦いかたを変えた方が良いのだが戦闘についてまったく知らない人にそう言っても伝わらないので実際に体験してもらった方が良いだろう。
そう、今のように。
「おい、大丈夫か?」
俺は大きい狼、フォレストウルフに襲われて腰を抜かしている内藤さんに手を差し出す。
「はい! ありがとうございます」
「いやこれが俺達、冒険者の仕事だからな。気にするな」
護衛、それが俺達冒険者がいる理由。
しっかりとお金をもらって受けている仕事だ。
助けて当たり前、守って当たり前なのだ。
「それより戦闘に戻った方が良いんじゃないか? ほら、仲間も待ってるぞ」
「あ、そうですね。本当にありがとうございました」
内藤さんは装備についた土を払い、自分の持ち場へと戻っていった。
◆◆◆◆◆◆
「ていやぁ!」
高崎さんがゴブリン最後の一体を上段から剣で切り下ろす。
「ギャ……」
これで先ほど現れたゴブリン五体は片付いたわけだ。
ついこの間までただの高校生だったことを考えれば欠点があったとはいえ戦いかたを確立しているだけでもすごいことだろう。
「おつかれぇ。さきりん」
「田辺さん、さきりんって?」
「やだなぁ、あだ名だよぉ。だってぇ高崎さんってよそよそしいじゃない?」
「確かにね」
そこで高崎さんは一瞬俺を見るがすぐに目を逸らす。
「もう仲間なんだからもっとぉフレンドリーにいこうよぉ」
「そうだね。今度から私も田辺さんじゃなくて梨香ちゃんって呼ぶね! もちろん他の皆も!」
高崎さんも新しいグループメンバーに溶け込めたようで良かった。
一緒に戦うグループの仲間は互いに命を預けあっているのでいわば自分の体の一部も同然だ。
信頼関係が強くなるほど連携が上手くなりグループとしての強さが上がっていく。
例え個人個人では弱くてもグループを組めば単純に各人の戦闘力を足した数ではなくなりグループ特有の戦闘力になるのだ。
それこそがグループの強みであると言えるだろう。
「そろそろ移動した方が良いんじゃないか? いつまでもここにいるとさっきみたいにゴブリンの血の匂いに釣られて狼とか寄って来るかもしれないぞ?」
俺はさっきのフォレストウルフのことがないようにグループメンバーにこの場を離れるように注意を促す。
「そうね。早く移動しましょう」
その後は俺の注意を聞いた戌井さんが全体に声をかけ、すぐにこの場を後にした。
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