乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第52話 森林散策 Ⅱ


俺が前へと出るとそこには既に他のグループメンバーが集まっていた。

「ようやく来たか。では早速どことどこのグループが組むか決めるとしようか」

前に出てきている人数は全部で十二人。
まぁ十二グループあるので当然といえば当然なのだが。

「ではグループ分けは俺が独断で決めるぞ。まずそことそこ……」

このように一人の冒険者の独断でグループとグループの組み合わせは決まっていった。
そして俺達のグループと同じになったグループは……。

「あの……よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むよ」

女性勇者四人と男性冒険者一人のグループだった。
ただでさえ男女比率で男が少ないのにさらに男女比率が偏ると思うと肩身が狭くなる思いである。
そこはともかく相手のグループの構成は魔法を主体として戦う者が二人、味方の支援を得意とするものが二人、それに加えて近接戦闘をする冒険者が一人という後続支援に偏っている構成となっている。
一方のこちらのグループは全員が近接戦闘を得意とする所謂脳筋的な構成なので相手との相性は良さそうである。

「はいはぁーい! あのぉ一つ良いですかぁ?」

そう元気よく手を挙げたのは全体的に天然そうなゆるふわ女子、田辺梨香たなべ りかである。

「ああ、どうぞ」

「わたしぃグループのリーダーは一人にした方が良いと思いますぅ。今って二人じゃないですかぁ?」

「確かにな。それはそうだと思うよ」

リーダーが二人だとどっちの指示に従っていいか分からなくなるからな。

「それでぇこの二つのグループの代表リーダーをうちのリーダーにやってもらいたいんだけどぉいいかなぁ?」

「俺は別に構わないが高崎さんとアメリアはどうだ?」

「私も特に反対ではないです」
「わたしもそれで良いと思うです」

「じゃあこれで決まりだねぇ」

まさかこのリーダーを一人にする案が田辺さんから出てくるとはな、人は見た目にはよらないということか。

「あと一ついいかなぁ?」

まだあったのか。まぁこの際、一つも二つも変わらないか。

「続けてどうぞ」

「そこにいるぅ。小さくてぇ可愛い子は誰の連れ子なんですかぁ?」

その発言に場が凍りつく。
少なくとも俺は凍りついた。

小さいという言葉がこれでもかというほど似合う人もそういない。
だが俺が所属しているグループの中には一人だけそれに当てはまる者が存在していた。
それは言わずもがなアメリアである。
確か彼女は背が低いことを気にしていたはずだ。
それに加えて彼女は凶暴である。
以上のことからある一つのことが導き出される。

ある一つのこと……それは今から惨劇が始まるということだ。

俺は恐る恐る隣にいるアメリアへと視線を移す。

アメリアは表面上は笑顔を浮かべているように見えるがその実はかなり頭に血が上っている。
なぜ分かるかって? だって俺は一回アメリアに半殺しにされているだぞ? そんなの見ただけで分かる。
それに手を強く握りしめていることからも怒っていることは分かるだろう。
ここまでのことから彼女が怒っていることは確実だ。
さて、ここからが問題だ。
新しいメンバーが増えた俺達のグループは開始早々壊滅の危機に陥っている。
今からグループを組んで森を散策しようというのにだ。
それにその危機を理解出来ているのはグループ内で俺だけだろう。
ということは俺がこの場を全て丸く収める必要があるというわけだ。
これで分かっていただけただろうか?
俺が凍りついた理由が。
例えるなら怒り狂ったドラゴンがいる檻の中に武器を落としたから拾っている間ドラゴンを惹き付けておいて欲しいと依頼される冒険者のようなものだ。
完全なる囮、いや生け贄である。

「アメリア!」

俺は覚悟を決めてアメリアへと話しかける。

「なんですか? そんなひきつった顔をして何かあったんですか?」

アメリアは怒っていることを表面に出していないつもりなんだろうがそれが怖さに磨きをかけている。
怒っている人の笑顔が一番怖いというのは誰もが知ることだろう。
ただでさえ怖いのに俺は今からその原因となる部分を解消しなければならない。

「あのな、その……さっきのは若いってことを言いたかったんじゃないかな?」

「さっきのって何のことです?」

「さっきのことって……あれだよ。小さいとか何とかの……」

「そのことですか。別に私は気にしていませんですよ?」

「そ、そっか……」

嘘つけ! さっきから手を握りしめる強さが強くなっているじゃないか! 絶対気にしてるだろ!

そう言いたかったが言えないのはこの空気から分かるだろう。
ここはとにかく連れ子に見えるという部分から若いというのを強調してなだめるとしよう。

「それにしてもあれだよな。アメリアって見た目より若く見えるんだな。羨ましいな」

「わたしはまだ十八歳です。それで若く見えるって子供に見えるってことですよね。侮辱しているのですか?」

ですよね……。若いと言われるのが嬉しいのはある程度歳がいっている人だけだ。
年頃の女の子に言って喜ばれる言葉ではない。

「いやそんなことはないよ。ただいつまでも若々しいなんて憧れるなって思っただけだよ」

だが俺はその言葉であえてアメリアが若く見えることを強調する。
それは先ほどと違いいつまでも若々しい状態のままで入れて羨ましいですねという意味を込めてだ。
確かに今だけのことを考えれば子供だと言われているのと同じに思うかもしれないが、長い目で見ればその意味はガラリと変わる。その証拠に……。

「いつまでも若々しいですか。悪くないですね」

このように悪くはないと思うようになるのだ。

「だろ?」

これでアメリアを無事に宥めるミッションは完了したわけだ。

「それでぇそこにいるぅ。小さくてぇ可愛い子は結局誰なんですかぁ?」

アメリアを宥めることに夢中ですっかり田辺さんの存在を忘れていた俺はアメリアを田辺さんに紹介する。

「ああ、彼女はアメリアって言うんだ。こう見えて俺達より歳上だからな」

「へぇそうなんですねぇ。この娘が歳上だなんて驚きましたよぉ。本当ですか?」

「ああ、本当だ。なぁアメリア?」

「ええ、もちろんですとも! なんせわたしは若々しく見えますですからね!」

アメリアはえっへん! という感じに無い胸を反らせて若々しさを強調する。

今思ったがアメリアは少し頭が弱いのかもしれない。
流石にこんなにアメリアを宥めることが上手くいくとは思わなかった。
宥めることが成功したのはひとえにアメリアの頭の弱さのおかげだ。

俺はアメリアに対してそう思いながら新たなグループのメンバーの顔を確認するのだった。

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