乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第48話 ◆勇者 Ⅱ◆
SIDE 藤堂あかり
私達は今グループごとに分かれて森の中を散策中です。
今回は戦闘が初めてということで護衛の兵士が二人ずつ各グループについています。
「はぁぁ!」
──スカッ……。
「ギャゴ?」
「まだまだ!」
──スカッ……。
「ギャギャ?」
「このっ!」
──スカッ……。
「ギャギャギャ!」
当たらないです。
何回やっても攻撃が当たりません。
何が悪いんですかね?センスですか?
私には戦闘センスがないんですか……。
私以外のグループの人達は上手に攻撃を当てているのになぜ私だけ……。
私が本気で攻撃が当たらないことに落ち込んでいるとリンちゃんがどうしたのという感じで駆け寄ってきてくれました。
やはり持つべきものは幼なじみです。
「リンちゃん、助けて……」
「様子がおかしいから来たけど一体どうしたの?」
「それが……」
「それが?」
「敵に攻撃が当たらないの……」
「は、はあ……」
「あ、今なんだそんなことかって思ったでしょ!」
「あ、いやそれは……うん。でもそれは武器が合わないだけじゃない? 今は何の武器を使っているの?」
「今? 今は果物ナイフみたいなやつだけど」
「果物ナイフ……ああ短剣ね」
「そうそうそんな感じだったよ」
「なるほど、それであかりちゃんの職業って何だったっけ?」
「えーと、確か『聖女』だったかな?」
「え? そうだったの? あかりちゃん本当にすごいわね。『勇者』の次に珍しい職業じゃない?」
「え、そうなの?」
「そうよ。『聖女』なら武器は短剣よりも杖がいいんじゃないかしら。もしかしたら職業によってある武器が使えるとか使えないとかあるかもしれないわよ」
「なるほど、リンちゃんいろいろありがとね」
「どういたしまして」
やはりリンちゃんは頼りになります。
流石はリンちゃんです。
早速ですが兵士の人に頼んで武器を変えてもらいましょう。
それからしばらくして兵士の人に武器を杖に変えてもらうことが出来ました。
何だかさっきの果物ナイフみたいな武器と違って体に馴染みます。
この武器で再びゴブリンの討伐を再開です。
◆◆◆◆◆◆
「はぁぁ!」
「グギャ!」
「もう一回!」
「グギャギャ!」
「さいごっ!」
「グギャー!」
ゴブリンが地面に膝をついて倒れます。
これで何体倒したことでしょう。
武器を変えてからというもの攻撃が外れなくなりました。
まぁ攻撃が外れなくなっても最初の方は命を奪うこと自体が難しかったですけど……。
それでも命を奪わないと私の身が危険に晒されますからね。
本当はいけないんでしょうけど仕方ないと割りきってしまいました。
他の人も似たような感じです。
命を奪うことに忌避感を覚えているようでは魔王を倒すまで道のりはまだまだ長いのでしょうか?
とにかく今日の訓練はこれで終了のようです。
正直に言うとかなり疲れました。
肉体的に疲れたのはもちろんですが、やはり命を奪うという面で精神的にかなりの疲れが出ているようです。
今日は戻ったらすぐに寝てしまいそうですね。
兵士から私達のグループに訓練終了の知らせがあった後、私達のグループはすぐに城へと戻りました。
どうやら私達のグループが一番戻りが早かったようです。
城へとついた後は食事をとり、城内の豪華な浴場へと入り、それから自室へと戻りその後は寝てしまいました。
それからというもの毎日訓練が行われるようになって、訓練の内容も森でゴブリンを討伐のような実戦形式ではなく城内で兵士相手に模擬戦をするという演習形式が続きました。
そんな訓練が毎日続く中、私の耳にある一つの噂が入ってきました。
その噂とは数日後に町の冒険者を交えて近くにあるダンジョンの探索を行うというものでした。
「リンちゃん、リンちゃん、聞いた?」
「聞いたよ。ダンジョンに行くってやつでしょ?」
「そうそう。今回は町の中とかいろいろ見て回れるかな?」
「分からないけどそうだといいね」
私とリンちゃんが話をした翌日、ダンジョンの探索の話が公式に城の兵士から発表されました。
今回この事はどうやら全員知っていたみたいで驚く人は一人もいませんでした。
それと今回も前回と同様に出発は明日という急な決定だったのですが流石に二回目ということもあって慣れてしまいました。
「……これでダンジョン探索をするにあたって注意する点は以上となります。他に質問等はありますか?」
兵士の人が注意点を説明してくれていますが残念ながら聞いている人は半分もいないようです。
しっかり聞いておかないといざという時にどうするんでしょうかね。
もちろん私は聞いていましたよ。
とにかくダンジョンは危ないから気をつけろということとダンジョン探索の期間は一週間くらいということですよね。
細かいことをまとめるとこんな感じでしたので間違ってはいないと思います。
「……無いようですのでこれにて説明を終了します。皆様、今回も前回と同様にしっかりと力をつけていって下さい」
兵士の人の話が終わった途端、クラスメイトの人達はそれぞれどこかへと行ってしまいました。
「おーい、リンちゃん!」
さて、私も今日は早めに寝てしっかり休むとしますか。
◆◆◆◆◆◆
ダンジョン探索当日の朝。
私達勇者一行は町の中を歩いています。
そう、ようやく町に出ることが出来たのです。
今は朝の市場という毎朝開催される市場でどこも人で賑わっています。
見たことあるものから見たことがない珍しいものまでいろいろと売っているので歩くだけでも楽しいです。
ただ今回の目的が朝の市場に行くことではないのが残念といったところでしょうか。
その私達の今回の目的ですがもちろんダンジョン探索です。
私達はまず冒険者ギルドに集合することになっていますが今の調子だと決められた集合時間までに着きそうにないですね。
自分達のいた世界と違う世界のものが珍しいのは分かりますがもうちょっと好奇心を抑えて欲しいです。
まぁそれは私も言えないことなのですが……。
そんなわけで集合時間に遅れると思ったのですがどうやら無事冒険者ギルドには時間通り間に合ったみたいです。
「おう! お前らが勇者達か! 思ったよりヒョロいんだな! カカッ」
私達が冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると全身が筋肉で出来た大男が私達の目の前に立っていました。
この状況はまずいです。
どうやら私達は早々にギルドの荒くれ者に捕まってしまったようです。
私も含め、多くの人はその場から動けない状態です。
そんな中、流石というべきでしょうか。
風間君が皆の前へと一歩出てくれました。
「煩くてすみません。私達はダンジョン探索の件で来たものなんですが……」
「ああ、知ってるぜ。こっちに来な!」
悪い人ではないんですかね……。
とにかく荒くれ者ではなくてホッとしました。
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