乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第45話 護衛依頼 Ⅹ
俺は絶賛アメリアから半殺しされた後、宿まで戻って来ていた。
「ただいま」
「カズヤさん、お帰りなさい! 今日はお早いですね」
「ちょっといろいろあってな」
この場所こそが俺の癒しの場所だ。
これだけは絶対に譲れない。
絶対に譲れない場所のはずなのだがそんな俺の癒しの場所によく見慣れた幼女がいた。
それは先ほど俺を半殺しにした幼女型の悪魔、名をアメリアという。
「あ……」
悪魔との再びの対面に思わず俺は声を漏らしてしまった。
その声で悪魔の方も俺に気づいてしまう。
「変態……いやもう制裁は与えたですね。これからは同じグループのメンバーとしてカズヤと呼びますです。さっきのことは忘れてわたしと仲良くしましょうです」
そう言って幼女型の悪魔、もといアメリアが俺へと手を伸ばしてくる。
いやいやいや……。
殺られたのついさっきのことだから。
いきなり仲良くとか怖くて出来ないから。
こんな幼女に何を怯えているのかとでも思っているのだろうがこの幼女は本当に本物の悪魔なのである。
相手の突かれたくない急所を的確に突いてくるのだ。
その攻撃は実際に突かれてみないと分からないのでせひ受けてみて欲しい。
いや今はそういうことが言いたいのではない。
今重要なことそれはこの場を穏便にやり過ごすことである。
「よ、よろしく頼むよ」
ちょっと声が上ずってしまったが問題ないだろう。
そう、例え周りから幼女にペコペコしているように見えてもまったく問題はない。
それこそが正解の行動なのだから。
「よろしくです。せっかくなので一緒に夕食でもどうですか」
どうするか。出来れば遠慮したい。
ここはソフィー達を利用させていただこう。
「ちょっと連れの人と約束があってな」
「そうなのですか。残念です」
アメリアは見るからに落ち込んでいる様子だった。
まるで俺が約束していたことを破ったかのような空気に周りからの厳しい視線が突き刺さる。
だが例えそんな視線が俺に突き刺さったとしても俺の気持ちは揺れることはない。
「そうなんだよ。悪いな」
俺が足早にこの場を後にしようとしたとき、宿の入り口から二人がこの宿へと入ってくる。
「お腹すいた」
「確かにそうよね。早くご飯食べましょうよ」
入り口から入ってきたのはソフィーとリーネの二人だった。
二人はどうやら俺の姿を見つけたようでこちらへと近づいてくる。
「あら、カズヤじゃない」
「よう、二人が戻るまで夕食を待ってたんだよ」
「そんなこと気にしなくて良かったのに……ところであちらにいる可愛い子はどうしたの? さっきからずっとこっち見ているみたいだけど」
「ああ、アメリアか?」
「あの落ち込み具合からして、まさか…………誘拐してきたわけじゃないわよね?」
「いや違うから! アメリアは護衛依頼で俺と一緒のグループなんだよ」
「なるほど勇者の中にはこんな小さい子もいたのね」
「いや勇者じゃないよ、冒険者。それと信じられないかもしれないがアメリアは俺達よりも年上だ」
「何言ってるのよ、流石に冗談が下手すぎじゃない? …………本当なの?」
「本当だ」
ソフィーはしばらくアメリアを見つめた後、ポンっと手を叩いた。
「そうだ、そのアメリアちゃんとも一緒にご飯食べるのはどう?」
「げっ……ソフィーそれはちょっと……」
「何よ! 何かまずいことでもあるの? アメリアちゃんのあの私達を見る羨ましそうな顔を見てみなさいよ!」
俺がアメリアの方を向くと確かに俺達を羨ましそうな目で見ていた。
「あれを見てもまだ一緒にご飯を食べるのは無理なの? ねぇねぇ!」
ソフィーが顔をグイグイと俺に近づけてくる。
なんだか今日のソフィーは圧が強いように感じる。
しかし、ソフィーの言うことは間違っていない。他の人とご飯を食べるのを羨ましそうに見ている人に一緒に食べようと言うのは別に悪いことではないのだ。
むしろ相手からしたら喜ばれるかもしれないこと。
だが俺はまだアメリアが単純に怖い。
半殺しにされたのだから当然といえば当然だ。
でもそうだな、一度くらいなら一緒に食事をしてもいいかもしれない。
「そうだな。アメリアも夕食に誘おうか」
「よし、これで決まりね。せっかくだからカズヤが呼んできなさいよ!」
何がせっかくなのか分からないがこれは相手に歩み寄る良い機会だろう。
「分かったよ。任せろ!」
それから俺はアメリアを夕食に誘うため彼女の元へと向かった。
「アメリア!」
「ん? 何ですか?」
「良かったらでいいんだけどアメリアも一緒に夕食をとらないか?」
「いいのですか? お邪魔じゃないですか?」
「ああ、仲間も歓迎してるよ。さぁ行こう!」
「それなら良かったです。わたし、実は皆でご飯食べるのって夢だったんです。さっきダンジョン後に他のグループの冒険者さんが誘ってくれた夕食にはちょっと用事があって行けなかったですけどこれで叶いましたです。ありがとうです」
ダンジョン後の用事ってもしかして俺を殺ることか……なんだかアメリアの発言にふと恐怖を感じるときがある。
これは俺がまだ恐怖を捨てきっていれてないということなのか?
しかしその反面アメリアの心の底から喜んでいるような顔にほっこりした印象を受けたのも事実だ。
まぁまだまだアメリアのことを全く知らないわけだ。
もしかしたら過去に色々あってまともに生活出来ていなかったのかもしれないし、逆に王族のような豪華な暮らしをしていたのかもしれない。
だが俺は別にアメリアの過去を詮索することなどはしない。
大事なのは今だからな。今楽しければそれでいい。
アメリアの嬉しそうな笑顔を見ているとそんな気さえしてくる。
とにかく今日はアメリアも込みで夕食を楽しもうじゃないか。
「おーい、誘ってきたぞ!」
「あ、来たわね! アメリアちゃん宜しくね!」
「宜しく」
「皆さん宜しくですよ。わたしお邪魔じゃなかったですか?」
「いやまったく、寧ろ一度話してみたいと思っていたところ。あ、私はソフィーよ」
「リーネ」
「ソフィーさんとリーネさんですね。宜しくです」
「じゃあ自己紹介も済んだわけだし、夕食を頼みましょうか」
それからはアメリアとソフィーが主に話をし時折リーネや俺がその話に混ざるという構図で夕食をとった。
この夕食はアメリアに歩み寄る一歩としては中々有意義な時間の使い方だったのではないだろうか。
たまには今回のような仲を深めるために夕食を一緒にとるというのもいいかもしれない。
夕食をとり終えた俺はそう思いながら宿の自室へと戻るのだった。
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