乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第44話 護衛依頼 Ⅸ


いったいこの状況はどう収拾をつければいいんだ?

「和哉なの……?」

と幼なじみのあかりが。

「お兄ちゃん……」

と妹の鈴音が。

「君は事故で亡くなった……」
「お前は……」

と風間と桐生が。

「和哉くん……」

と高崎さんが。

「あのときの変態!」

とアメリアが。

もう一度問おう。
この状況どうすればいいんだ。

俺がこの世界で初めて本格的に困った状況に陥った中、この空気を読まない人物が一人。先ほど俺が助けた冒険者である。

「お前らいつまでここにいるつもりなんだ? アイツの気絶が解ける前に早くここから出るぞ」

ナイスだ。
今はこの空気を読まない冒険者がありがたい。
この流れに俺も便乗するとしよう。

「とにかくここを離れようか」

それから俺達はここから上の階層にある入り口へと向かった。
入り口へと向かっている間、俺には多くの視線が注がれていたが俺は気づかない振りをした。
主に妹と幼なじみのこととアメリアのことがあるためだ。
妹と幼なじみのことに関しては正直俺の方でもどう接していいか分からない。
何事も無かったかのように久しぶり! という感じでいけばいいのか、はたまた別人として接すればいいのか判断がつかないのだ。
二人のことなので俺が死んだのは自分達のせいとでも思っているに違いない。
もし俺が和哉本人だとバレてしまえば気を使われることだろう。
だがそれでは俺が嫌なのだ。
俺は今まで通りに接して欲しいと思っている。
そのためには和哉ではダメなのだ。
カズヤとして新たに人間関係を始めないといけない。
だが心のどこかに和哉としても接して欲しいという願いがあるのが厄介なところだろう。
つまり訳が分からなくなっているのだ。
一方のアメリアのことに関しては簡単だ。
視線を合わせたが最後、俺は殺されてしまう。
何故そんなことが分かるかって?
それは疑いの目を向ける勇者達とは違ってアメリアの方からは殺意が伝わってくるからだ。
以上のことから俺は気づかない振りをし続けているのだ。

「おーい、そろそろ入り口が見えて来たぞ!」

先ほどまで死にかけていたとは思えないほどの元気を取り戻した例の冒険者が入り口に近いことを俺達に知らせてくれる。

「やっと外か」

ようやくこの重々しい空気から解放される。

そう思った俺は少し気分が晴れるのを感じながら入り口へと急いだ。

◆◆◆◆◆◆

俺の後ろには妹と幼なじみ、さらにアメリア、高崎さん、風間がついて来ていた。
もちろん隠れながらである。
本人達は上手く隠れているつもりなんだろうが時折話し声が聞こえているのでバレバレである。
さて、何故こんな状況に陥ったのかは数十分前まで遡る。

少し前、俺達はダンジョンを抜けた後少し早いが解散することにした。
まぁ魔王軍の幹部に襲われたのだから当然と言えば当然だ。
他のグループにも魔王の幹部がダンジョン内に現れたという情報が共有され全グループが今日のところは解散することとなった。
解散といっても依頼された護衛の期間は約一週間なので今日で依頼が終了ということはない。
ガンゼフ曰く、勇者も冒険者としての生活をしばらく続けていれば肉体的にも精神的にも強くなるということだそうだ。
というわけで解散した俺達のグループはそれぞれ思い思いのところへと行くと思いきや誰一人動くものはいなかった。

「ちょっと早いが皆で飯でもどうだ? そこのグループも一緒でよ」

そこに風間のグループを担当していた冒険者が少し早い夕食へと皆を誘った。

「悪いな。俺はちょっと用事があってな」

だが俺はもうこれ以上この重い空気の中にいたくないという思いからその誘いを断った。そのときは本当に悪いことをしたと思う。

そんなわけで誘いを断った俺は一人町の方へと歩き出した。
ここから逃れるために……。

どうか皆で楽しんでくれ。

そう思ってた俺だがどうだろうか。
他の人はというと……。

「本当は行きたいんですけどわたしは殺ることがあるです。残念です」
「せっかくのお誘いごめんなさい!」
「私も少し用事が……」
「す、すみません!」
「私も今回は辞退します」
「俺は行く。よろしく頼むよ」

桐生以外全員が様々な理由をつけて誘いを断っていた。

流石にそのときは誘った冒険者が可哀想に見えたものだ。
行ってやって欲しかった。俺も人のことは言えないが。

それから俺が再び町に向かって歩を進め、しばらく経つとこの状況になっていたというわけだ。

まさか冒険者の夕食の誘いを断った理由が俺を尾行するためだったとは。
もっとすることはなかったのかと言いたい。
まぁ気持ちは分からなくはない。
元の世界で死んだ人に瓜二つな顔した人がいれば気になるだろう。だがそれでは俺が困るのだ。主に俺の日常生活において。
なので俺は一つの決断をすることにした。
そう、それは単純明快な方法。逃げるである。

そう決断した俺は尾行を撒くため町の方向に向かって全力疾走を始めた。
ここまですれば俺に追い付ける者などいない。
これこそステータスの暴力。

「え、気づかれたの?」
「早く追いかけようよ」
「いや速すぎて追い付けないわよ!」

鈴音、あかり悪いな。
お前らに和哉として会うのはしばらく先、俺の整理がついてからだ。それまではカズヤとして頼むよ。

しばらく走り続け、尾行をかなり引き剥がしたところで再び歩きへと戻った。

「やっと撒けたか」

「誰が誰を撒けたのですか?」

「あれだよ。尾行のことだよ」

あれ? 俺は今誰と会話を……。

俺は恐る恐る後ろを振り向く。
するとそこには笑顔を浮かべた幼女、もといアメリアがいた。

「やっと一人になってくれたですね。わたしはずっと一人になるのを待っていたですよ」

アメリアは笑顔を浮かべながら徐々に俺へと近づいてくる。
それに合わせて俺も一歩一歩後ずさる。

何故だ、アメリアは体力がなかったはず、それに俺に追い付けるくらい速く走れたか?

「何でアメリアがここに……」

「それは決まっているです。殺るためですよ」

ですよね……。
それはアメリアから漏れ出ている殺気を見れば分かる。
それよりも気になる点が一つ。

「アメリアってこんなに体力あったか? 全力疾走でしばらく走ってたぞ?」

「確かに疲れましたです。ですが獲物が目の前にいるときは疲れなど忘れてしまうのですよ」

「ハハハハ……」

俺はただただ笑うことしか出来なかった。
正体がバレた時点で既に詰みだということに今気がついたからだ。さようなら、俺の幽生。

それからの俺は無駄な抵抗はしなかった。
されるがままの人形と化したのだ。
ただ一つ、俺はその後確かに死んだ。
主に精神的な意味で。
どんなことをされたかって? それは秘密だ。
まぁ秘密というか口に出すのも恐ろしいのだ。

とにかくこの出来事はもう忘れよう……。

その後は徘徊するアンデッドのように何も考えることなく町へと戻るのだった。

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