乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第43話 護衛依頼 Ⅷ
「ちょっと速いですよ……はぁはぁ。もう少しゆっくり走って下さいです」
「私もちょっと疲れました」
「あ、悪いな。今はちょっと気にしてる余裕がなくてな」
俺は走っていた足を止め、後ろを振り返り二人の方へと顔を向ける。
「もう近いからここからは歩いて行こうか」
俺達はここから一つ下の階層まで進んでいたがこのダンジョンにしては異様な剣と剣がぶつかり合うような音が聞こえたため、こうして一つ上の階層まで戻って来ていた。
「助かるです……」
「高崎さんはともかく、アメリアは冒険者なんだからもう少し体力をつけた方がいいんじゃないか?」
「それは余計なお世話なのですよ。わたしは脳筋のような頭を使わずに力でねじ伏せるような戦い方はしないです。もっとスマートで華麗な戦い方なのですよ!」
そういってアメリアはピョンピョンと飛び跳ねながらスマートで華麗な戦い方とやらを表現してくれる。
アメリアのスマートで華麗な戦い方とやらを見て思ったのだが、アメリアが戦っているところはまだ一度も見たことがない。
今現在は基本的に高崎さんが戦闘をし、補助に入るとしても毎回俺が入っている。
なんとも不思議なことがあったものだ。
戦闘を見たことがないグループメンバーがいたなんてな……。
おっと今は早く音のする方に行かなければ。何だか嫌な胸騒ぎがするんだよな。
「ここで話している場合じゃないな。早く音のする方に走るぞ!」
「ええ!? さっき歩くって言ったです。嘘をついたですか?」
「それは休まなかったときの話だ。もう休憩したからな、さっさと走るぞ!」
「そんなの聞いてないです! ズルいです。反則です」
「ほら、早く! 高崎さんはもう来てるぞ!」
「走りすぎて体力が持たなくなって魔物に殺られたら絶対呪ってやるですよ!」
そう言いながらもアメリアはしっかりと走ってついて来ているので大丈夫だろう。
俺達はそれからさらに音のする方へと走って近づいていく。
既に目的の場所が近いからか剣と剣がぶつかり合うような音が辺り一帯に鳴り響いていた。
「だいぶ近いな、いったいどこからなっ……「誰か助けて!!」」
突然ダンジョン通路にある横道の先から助けを求める大きな声が聞こえてくる。
「そこの通路の先か!」
俺は助けの声が聞こえてきた通路へと飛び込みそのまま通路を走り抜ける。
しばらくして長い通路を抜けるとその先にはちょっとした広場があった。
そこにはついさっき出来たであろう全身に切り傷がある冒険者が地面に倒れており、その近くには勇者である風間亮太、いつも風間の近くにいて空手部の桐生哲平そして幼なじみの藤堂あかり、俺の妹の三森鈴音がその場で立ち竦んでいた。
まさか、ここで会うことになるとは。
だがここは感傷に浸っている場合ではない。
今、姿は見えないがこのグループを襲った何かがまだ近くにいるはずだ。
俺は広場一帯を見渡すが、敵の姿は一切見つからない。
もうどこかに行ったのかと俺が気を抜いたその瞬間、後ろから何かに突き刺される感触を感じた。
「新しい客人か? 普段なら歓迎なのだが今は邪魔しないで欲しいな」
俺の後ろからは落ち着いた大人の男の人の声が聞こえてくる。
お腹に違和感を感じ自分のお腹を見てみると背中から刺されて出てきたであろう剣の刃が顔を覗かせていた。
俺の体に普通の武器は効かない、効かないどころか寧ろその武器を破壊してしまうだろう。
そんな俺の体に剣が刺さっているのだから、その刺さっている剣は普通じゃない何か特殊な武器に違いない。
「まったく哀れなやつだな。さっさと逃げれば良かったものを。来世では命を大事にするんだな」
まぁこんな考察をしているのも剣がお腹に刺さったくらいじゃどうにもならないからなわけで……。
俺はお腹に剣が刺さっているのが不快だったのでとりあえず手始めに自身の体に刺さっている剣の刃を掴んで折りにいくように横に力を加える。
「そんなことをしても意味はないぞ!」
パキッっと予想していたよりも簡単に剣の刃の先が折れてしまったのでその後も某細長いお菓子をポキポキ食べるような感覚で剣を折っていく。
「そ、そんなバカな!? 数百年に一度しか作ることが出来ない高級な魔剣なんだぞ!?」
そんなこと知ったものか。先に剣を突き刺して来たのはそっちの方だろう。俺はやられたのでやり返しただけだ。
「や、やめてくれ! これは!」
だが止めない、剣の刃を折りきるまで俺の気がすまないからな。
俺は自分のお腹から剣の刃が見えなくなるまで剣を折り続けた。ここまで折ったらもう剣は使い物にはならないだろう。
これでコイツも諦めて……。
「うわぁぁ! 魔王様に頂いた貴重な剣が……」
ん? 今コイツはなんて言ったんだ?
魔王様って言ってなかったか?
俺はいまだに自分に剣を突き刺してきた相手の顔を見ていないことに気がつき後ろへと振り向く……。
「うわぁ……」
するとそこには明らかに魔王の部下ですといった風貌の全身黒鎧の暗黒騎士が地に膝をついて手で地面を叩いていた。
一番関わってはいけない人に関わってしまった気がするのは俺だけだろうか。
これは絶対何か面倒事になる気がする。いや、なるに違いない。
暗黒騎士はしばらく地面に膝をついた状態のままだったが何か吹っ切れたのかノロノロと立ち上がり暗黒騎士の剣を折った人物、つまり俺を睨み付けて一言言った。
「貴様、よくもやってくれたな! この罪は大きいぞ!死をもって償うといい!」
完全なる逆ギレである。
俺は降りかかる火の粉を払っただけにすぎない。
それなのにこの仕打ち……。魔王の軍勢はこんなやつばかりなのか……。
これから魔王と戦うことになる勇者様、本当にお疲れ様です。
それはともかくこの火の粉は俺が払わなければいけない。
幸い、ガンゼフよりは強くはなさそうなのでその点に関しては良かったと思う。
まぁそうほいほいとガンゼフのような強さの敵がいてたまるかっていう話なんだが。
「貴様、その余裕はこの俺に勝てるとでも思っているのか? 俺はな……」
「ああ、あれだろ? 魔王軍とやらの幹部とかだろ?」
「ふん、この俺を知っていてそんな大きな口を叩いたのか。全く舐められたものだな」
いや、知らなくてもそんな出で立ちに魔王様と呟いていれば誰でも分かるだろう。
そんなことよりも早く戦いを終わらせなければ今地面に倒れている全身切り傷だらけの冒険者が出血死してしまう。
勇者達は状況についていけていないのかボーッと突っ立っているだけで使い物にならないし、後ろの二人も追い付くまでしばらく時間がかかるだろう。つまり俺があの冒険者を助けるしかないということだ。
「早く終わらせてやるから来いよ」
「その生意気な口が利けなくなるほどいたぶってから殺してやるわ!」
暗黒騎士は重そうな鎧とは裏腹に素早い動きで俺へと迫ってくる。
そうして俺の近くまできた暗黒騎士は片方の手に闇のオーラを纏わせて突きだしてきた。
「よっと……ほい」
俺はその暗黒騎士が突きだした手に触れないように避けながら暗黒騎士の鳩尾を狙って正拳突きを繰り出した。
「ぐはぁ!」
暗黒騎士はそのまま地面へと倒れる。
あまりの痛みに気絶したのだろう。
鳩尾は痛いからな。分かるよ……まぁやったのは俺なんだが。
一先ず決着がついたので俺は倒れている冒険者の下へと向かう。
「おい、大丈夫か?」
「……これが……大丈夫に……見えんのか?」
そうだよな。大丈夫ではないよな。
「待ってろ、今ポーションを飲ませるから」
「悪い……助かる……」
俺は腰に下げていたポーションを一本取り出し、冒険者の口元へと近づけて飲ませる。
するとみるみるうちに全身の傷が塞がり、冒険者の顔色が良くなった。
良かった。これで助かった。
俺がそうホッと息を吐いていると俺の近くにいた勇者達とやっと追いついたらしいアメリアと高崎さんの二人が俺を見て驚いていた。
周りのそんな姿に一瞬疑問に思ったが自分の姿を見ると納得だった。
何故なら俺が今までずっと身につけていた外套のフードが取れていたからだ。つまり正体がバレたかもしれないというわけだ。
さてこの状況どうするかな。
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