乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第37話 護衛依頼 Ⅱ
「俺に何の用なんだ?」
ガンゼフが机の上の書類を片付けながら、俺に問いかける。
「ああ、この前勇者の護衛の依頼を受けるって言っただろ? そういえば説明を受けてないと思ってな。説明を頼めないか?」
「その依頼は確か明日だったな。ギリギリじゃないか。もう少し前に来てほしかったな」
某ギルドの一室、大量の書類が俺達を取り囲む中、ガンゼフに勇者を護衛する依頼の説明を求めていた。
「それは悪かったな……とにかく説明を頼むよ」
「……ったくしょうがねぇな」
ガンゼフは作業していた手を止め、顔を上げる。
「助かるよ」
「まぁ説明するって言ったのも俺だしな、気にすんな」
それからガンゼフに依頼の詳細を細かなところまで説明してもらった。依頼の内容としては初めから分かっていた通り、最近召喚された勇者の護衛である。明日、勇者達はこの町の近場にある初心者用のダンジョンに潜るらしい。
その際、まだ争い事になれていないだろう勇者に何かあっては大変だろうと思った国が今回の依頼を発注したわけだ。
「詳細はなんとなく分かったよ。今回の依頼は俺達だけじゃないだろ?」
召喚された勇者は大体一クラス分、それを三人で護衛するなど不可能だ。三人の勇者に対して一人の護衛がつくとして後少なくとも、十人くらいは護衛が必要だろう。
「ああ、そうだな。これは元々Cランクの依頼だからCランクの冒険者が十人くらいは参加する予定だ。お前達を入れて十人ちょいってところだな」
「なるほどな、聞きたいことは大体聞けたよ。仕事の邪魔して悪かったな」
「いや構わない。これも仕事の内だからな……ガハハハ! まだ分からないことがあったらこの依頼用紙をやるから、それを見てくれ」
ガンゼフはそう言いながら自分が作業していた机の引き出しから一枚の用紙を取り出し、机の上に置いた。
俺は机に置かれた依頼用紙を手に取り、中身を見る。
「これ説明されたことが全て記載されてるじゃないか。これなら説明しなくてもこの依頼用紙を渡せば良かったんじゃ……」
「細かいことは気にすんな」
どうやらギルドマスターというほどのものであっても簡単なミスをするらしい。これがギャップ萌えというやつなのだろうか? いや、違うか。とにかく分からないことがあったらこれを見るとしよう、そうしよう。
「今日は説明ありがとうな」
「私も依頼内容をよく知れたわ。ありがとうね」
「ありがとう」
俺達はガンゼフにお礼の言葉を言った後、すぐに部屋を後にした。
◆◆◆◆◆◆
「……というわけでダンジョンって言ったらやっぱりこれしかないわね」
ソフィーは水晶玉のようなものを手に持って、俺に熱弁する。
「ソフィー、ダンジョンは明るいから光で照らす必要はないぞ」
「そ、そんなの分かってるわよ! でももしかしたら暗いところがあるかも知れないでしょ? そのためのものよ」
ソフィーよ、その言い訳は少し厳しいと思う。俺はハァっとため息を吐く。
今俺達はダンジョンに潜る準備のため町の魔道具屋で必要なものを調達している最中だ。
今回、俺達が勇者を護衛するダンジョンは洞窟型のダンジョンで地下へ地下へと階層が続いている。
ダンジョンには最下層にヌシと呼ばれる魔物がいるらしいがダンジョン構造が一定期間で変わってしまうため滅多に最下層に辿り着くことはない。
そのためヌシについての対策などはあまり必要ないらしい。だがダンジョンは何かと危険が付きまとう。トラップが仕掛けられていたり、モンスターハウスなどがあったりだ。
そのときに役立つものがあるかも知れない。その思いで魔道具屋にいるというわけだ。
「そんな不満そうな顔するんだったらカズヤも何か探しなさいよ!」
「良いのか? そんなことを言って……後悔しても知らないぞ?」
「上等よ! かかって来なさい!」
ソフィーがここまで愚かなやつだったとは知らなかった。
俺の持ってきた魔道具に恐れ戦き、そしてひれ伏すがいい!
俺は一直線に目当ての魔道具のもとへと向かう。
そう俺が選ぶ魔道具すでに決まっている。その名も……。
「マジックハンド!」
「マジックハンド?」
「そうだマジックハンドだ」
マジックハンド、それは長い棒の先にアームのようなものがあり、その反対側にアームに連動する取ってがついている特殊な棒。
「そんなの何に使うのよ……」
ソフィーは呆れたようにやれやれと首を横に振る。
「分からないのか? ダンジョンでマジックハンドを使うと言ったらあれしかないだろ」
「あれ?」
ダンジョンでこういう経験はないだろうか?
ダンジョン内で宝箱を見つけることは出来たけど開けた者にダメージを与えるトラップが仕掛けられていたり、宝箱に扮した魔物かもしれないと疑心暗鬼になりなかなか開けることが出来ない経験が……。そんなときあれが役立つ。
そう、マジックハンド! マジックハンドを使えば安全かつ迅速に開けることが出来るのだ。つまり……。
「ダンジョン内で宝箱を開けるときにマジックハンドを使うんだよ!」
決まった。俺の説明で確実にマジックハンドはダンジョン内で必要なものだと理解出来たはずだ。
その証拠にソフィーを見て欲しい。完全に動きが止まっている。きっと今にもダンジョンでマジックハンドを試したいという衝動に駆られているのだろう。
補足するとこのマジックハンドはただのマジックハンドではない、魔道具というだけあって魔力、つまりMPで動かすことが出来る。それに加えてマジックハンドの長さも最大二十メートルまで伸ばすことが出来て、何故かフルメタル加工なのだ。そんなの欲しくなるに決まっている。
俺が心の中でそう思っていると成り行きをずっと近くで見守っていたリーネが一言呟いた。
「カズヤなら私達の首輪を外したときみたいに安全に外せるんじゃないの?」
リーネの一言は俺へと絶大なダメージを与えた。
リーネの言ったことは確かにその通りだ。わざわざマジックハンドなど使う必要もない。だが宝箱が宝箱に扮した魔物だった場合はどうだろうか。そうだ、そのときに使えるじゃないか。
「宝箱が魔物って場合もあるだろ?」
俺はリーネに顔を向け、自信満々に言い放つ。
「それならダンジョン内に落ちてる石とか投げて確かめればいいんじゃない?」
だがそれすらもあっさりと否定される。それでも俺は負けじと次々案を出すが……。
「でもマジックハンドの方が使い易いし……」
「マジックハンドだと持ち運びが不便」
「武器としても使えそうじゃないか……」
「なら、武器を持っていけば?」
出した案を片っ端からリーネに否定される。
「ごめん、少し言いすぎた」
最後には同情までされる始末。完全に俺の敗北である。
「何かに使えるときがあるかもしれないだろ? そのためのものだよ」
この状況に俺はそう言うしかなかった。それは先ほどソフィーが持ってきた魔道具を俺に熱弁した際に最後に放った苦し紛れの言い訳と同類のものだった。
すまない、ソフィー。ソフィーもこんな気持ちだったのか……。
俺は初めソフィーが紹介してきた魔道具を特に考えもせずにバッサリ切り捨てたことを反省しながら、自分が持ってきたマジックハンドを元の位置に戻すのであった。
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