乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第34話 報酬金


「それじゃこれから例の緊急依頼の報告会を行う。準備はいいか?」

ガンゼフがギルド内をくまなく見渡す。そしてギルド内にいる冒険者の全員が自分に注目しているのを確認すると一回ゆっくりと頷いてから話を始めた。

「よし、準備は良いみたいだから話を始めるぞ。まずは今回の依頼の概要からだが……」

しばらくの間、依頼の説明それから敵の総数、その依頼で出た被害などの報告がされた。依頼の内容についてはすでに知っている部分も多かったが、一部知らない情報もあった。
それは依頼では絶対に欠かすことが出来ない報酬金のことについてである。詳しくは分からないが魔物によって金額レートが決まっており、それに当てはめて全体の金額を算出するらしい。例えばゴブリンだったら一体三百コルクという具合だ。
次に敵の総数だが予想の三千体を大きく越えて四千体ほどいたそうだ。四千体を七五人で対処することなど普通は考えられない。しかもそのうちほとんどの人達がFランク冒険者なのだ。たとえ敵がほぼゴブリンだったとしてもそれをたった七五人で対処できたことは奇跡と呼べるだろう。
最後にこの緊急依頼で出た被害だが死者が数名、建物の被害はなしと大規模の魔物が攻めて来たにしては比較的少ないというかかなり少ない被害で抑えることができたようだ。これも元Sランク冒険者のギルドマスター、ガンゼフが参加したおかげだろう。

「……以上で報告会は終わりだ。これからお前らが一番楽しみにしている報酬金をやるから三列になって受付カウンターに並べ!」

「「「おぉぉぉ!」」」

ギルド内の冒険者達が我先にと受付カウンターに走り出す。
この光景はまさに元の世界でのバーゲンセールを思わせる。元の世界と違う点を挙げるとすれば、群がっているほとんどの人が強面で筋肉隆々の男だという点だろう。

「これはしばらくの間、受け取れそうにないな……」

「あの中に飛び込むくらいだったら報酬金なんていらないくらいよね」

まさにソフィーの言う通りだ。あんなところに飛び込んだ日の夜には筋肉隆々の人達にもみくちゃにされる夢でうなされることだろう。それだけは勘弁だ。
ソフィーと俺の二人が気長に待とうという結論を出した状況の中、一歩前に出る少女が一人いた。

「分かった。皆が受け取れるようにあそこの人達を力ずくで退かす」

「……いやそれは危ないから止めてくれ!」

主にあちら側にいる群がっている人達が。

「なんで……?」

「いやそんなことをしたら今後のギルドとの関係に問題が起きるかもしれないだろ?」

「うん……」

「問題が起きた後の状態で、もしギルドの力が必要になったら困るだろ? だから出来るだけ争いごとは生まないようにして欲しいんだ」

「確かに……勝手な真似してごめんなさい」

「いや、分かってくれればいいんだ、分かってくれれば」

危なかった、このまま俺が止めなければ悲惨な状態になっていたに違いない。リーネはこう見えてレベルが普通の冒険者よりも高い。そんな彼女が本気で力を使ったら止められるものはそういないだろう。
問題を起こせば何かしらの処分がある。それで冒険者の資格剥奪もあり得るのだ。俺は自然とリーネの人生を救っていたのかもしれないな。

「……カズヤ! カズヤってば!」

「ん? なんだ?」

「……やっと気づいたわね。とりあえずあっちの方に並んでおきましょうよ」

ソフィーはいつの間にか出来ていた受付カウンターへの長蛇の列を指していた。

「そうだな、気長に待つしかないよな」

それから俺達は別に急ぐ用事もないので列に並ぶことにした。
なんやかんやで一時間ほど経ち、ようやく俺達の番が訪れる。

「次のかたー!」

「お、エリーなのか宜しく頼むよ」

「あ、カズヤ様ですか」

「早速だけど、報酬金を頼むよ」

倒した魔物の種類、数につきいくら支払われると言われて思ったのだが、一体どうやってどの魔物を何体倒したかを判断するのだろうか?
何体倒したかなんて本人以外分からないだろう、下手したら本人ですら何体倒したか分からない可能性だってありえる。

「じゃあカズヤ様が何体倒したかを調べますのでそこの台座に手を置いてください」

俺がそう疑問に思っていると、エリーが目の前の台座に手を置くように指示をした。

「これは……?」

これは確か冒険者登録するときに使った台座。そうかこれで調べていたのか。でもどうやって……。

「どうかされましたか?」

「いや、この台座で本当に魔物を倒した数が分かるのかと」

「確かに基本的には冒険者登録の時以外使わないですからね。この台座で最初に手を置いたとき、その置いた本人の情報を記憶すると同時に魔法を付与するんですよ」

「魔法?」

「はい、詳しくは分からないのですがなにやらその魔法は冒険者本人の行動の記録を常に取り続けているらしいですよ。それでこの台座で記録した情報を読み取っているわけです」

「なるほど、それはすごいな。それにこんなことを知っているなんてエリーって実は優秀なのか?」

「そんなに褒めないで下さい。褒めても何も出ないですよ」

「いやいや本心を言っただけだよ」

「仕方ないですね。今回だけ報酬金を少し上乗せしておきます」

ちょっとエリーさんや、チョロすぎやしないか。他の人に騙されていないか途端に心配になってきたな。ここは一言言っておいた方が彼女のためだろう。

「エリー、他の人にも金額の上乗せとかやっているのか?」

「はい、たまにですけど」

「そうだな、それは出来れば止めた方がいいかもな。たかられている可能性があるからな。正直エリーはチョロすぎる」

「わ、私ってそんなにチョロいんですか!?」

「そうだな、心配になるほどくらいには」

「そうでしたか……確かにたまに私を褒めに褒めまくる人がいるんですよ。そのときは金額の上乗せとかやっていたかもしれないです」

「とにかく今後はそういうことはしないようにな」

「カズヤ様、ありがとうございます。今後は気をつけますね」

「おう、そうしろそうしろ……っと話がだいぶ逸れたな」

「そうでした。少々お待ち下さいね」

エリーは慌ただしくペンを片手に書類を書く作業を始める。
自分から話を逸らした手前、早くしてくれなんて言えるわけがないので俺は大人しく待つことにした。
それから数分後エリーが作業を終わらせたのかペンの動きを止め、ガバッと勢いよく顔を上げた。

「出来ました!」

「おう、ありがとうな」

「いえいえ、仕事ですので……それよりも一体何をしたらこんな金額になるんですか?」

「こんな金額?」

「これを見てください」

「なになに……!?」

先ほどまでエリーが処理していた書類を見る。するとそこには桁を間違えているのではないかと思うほど巨額なお金が書かれていた。

「見ました?」

「ああ、これって間違いとかは……」

「ありませんよ。台座で読み取った情報をそのまま書き写しただけですから」

「ですよね……」

「とにかくこんなにたくさん貰えるんですからラッキーってことで良いじゃないですか」

「そうか? なんだか怖くないか?」

「そんなことないですよ。貰えるものは貰っちゃっていいんですよ」

そう言われて無理やり金額の書かれた紙をエリーから渡される。

「額が額なので後日あらためてお渡ししますね。その際今渡した紙をお持ちになってお越しください。ではまた!」

「ちょっと……」

「次のかたー!」

俺に紙を渡した後、説明を少しするとエリーは次の人の対応へと行ってしまった。
しかし困ったな……。急にこんなお金が入ってくるなんて。
宝くじで一等に当選した人はこんな気持ちなのだろうか? 嬉しさより怖さの方が強い。

「まぁ怖がっていても仕方ない。貰えるものは貰えばいいんだ。そうもっと気楽に行こうじゃないか」

しかし、俺の体は正直で実際にはブルブルと手が震えていた。
その手に七千万コルクと書かれた紙を持って……。

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