乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第33話 後処理


模擬戦があった日の夜が明けて次の日。
俺達はいつもと同じようにギルドへと顔を出していた。

「おーい、エリー!」

「あ、いらっしゃいませ! こちらへどうぞ、ガンゼフさんが待ってますよ」

いつもと同じではないのはギルドにきた目的が依頼ではないという点だろう。

「おう、案内ありがとうな」

「いえいえ、事務作業より面白そうだったので」

「そ、そうか」

エリーは本当に仕事をしているのだろうか。そう疑問に思うほど依頼の受付以外の仕事をしている姿を見たことがない。

「それでどんな話なんだろうな」

「昨日のことじゃないですか?」

「それはそうだと思うんだが何があるのか気になってな」

「まぁ昨日ギルドマスターを倒しちゃったしね」

ソフィーは随分と痛いところを突いてくる。確かにギルドマスターを倒して、はいおめでとうで話が終わるわけがない。
これから一体どうなるのだろうか。

「とにかくガンゼフさんのところに行くしかないか」

エリーがガンゼフの部屋の扉の前まで歩いていき扉をノックをする。

「ガンゼフさん! カズヤ様とお連れの方達を連れてきましたよ!」

それからしばらく部屋の中から物音がする。
一体何をしているんだろうか。そう思っていると突然音が止んだ。

「おう、とりあえず部屋に入ってくれ。散らかってるのは勘弁してくれな」

その言葉を聞き、エリーが部屋の扉を開ける。

「失礼します」

俺達もそれに続き部屋の中へと入った。

「うわっ!」

「なにこれ!?」

「……」

部屋に入った俺達を待ち受けていたのは隙間という隙間が書類で埋め尽くされた、まさにこの世の末のような場所だった。
部屋の中は世紀末である。

「なにそこで突っ立ってんだ。早くこっちに座れよ」

この書類の山の中一体どこに座れというのだろうか。

「一体どこに?」

「こっちだ」

ガンゼフはこっちと手招きをしてくる。
よく見てみると書類の山の中で、ある地点だけ全く書類がない場所があり、そこにはソファーが設置されていた。
そうかさっき返事するまでに時間がかかってたのはこの場所を作ってたからか。納得である。

「じゃあ、ここに座るぞ?」

「ああ、早く座ってくれ」

俺達はソフィー、俺、リーネの順でソファーに腰掛ける。

「で、これから何を話すんだ?」

「そうだな、だがその前にエリー、飲み物を頼む」

「分かりました、ガンゼフさん」

エリーは飲み物を持ってくるため部屋から出ていく。
それからしばらくしてエリーを合わせた五人分のグラスと水の入ったポットを持ってきた。

「エリーもここにいるのか?」

「はい、暇……最後まで見届けないとと思いまして」

「なるほど」

今この受付嬢、暇って言いかけたぞ。そんなことをここのギルドマスターであるガンゼフに聞かれて大丈夫なのか?
俺はチラッとガンゼフの方を見るが特に気にしていないみたいだ……ってそんなことはどうでもいい。
問題なのは何の用件でここに呼ばれたかだろう。

「それでどんな用があって俺を呼んだんだ?」

「そうだ、そうだったな。まずはよく頑張ったと言わせて欲しい。俺の無茶に付き合わせて悪かったな。まさか倒されるとは思わなかったが……」

「それはどうも」

「それでだな。俺を倒したってことでお前の冒険者ランクを一気に上げたいところなんだがギルドの決まりでそれは出来ないんだ」

「はぁ……」

「その代わりと言っちゃなんだが、これやるよ」

そう言われて渡されたのは文字が印字されているその上にガンゼフのものと思わしき拇印がされている手のひらサイズのカードだった。

「これは?」

「これはな、俺の権限でお前にAランクまでの依頼を受けさせることが出来るっていうカードだ」

「え?」

「だからお前はこれがあればAランクの依頼まで自由に受けられるんだよ。分かったか?」

もちろん意味は分かるが、それだと冒険者ランクを上げたのと変わらなくないか?
俺がそう疑問に思っているとガンゼフがさらに話を続ける。

「まぁお前にそのカードを渡したのもこの依頼を受けてもらいたいからだ」
そう言ってガンゼフは一枚の依頼用紙を俺達に向ける。

「なんだ? あなたも勇者様と一緒に戦いませんか……これは!?」

俺はそこまで読み上げて思い当たる節が一つ頭の中に浮かんだ。

「あー知ってるか? 最近勇者が召還されたんだよ。それでこの依頼はそいつらのおもりだ」

多分ここでの勇者様というのは俺と一緒にこの世界にきた生徒達のことだろう。

「やっと城から出てきたのか……」

「そうそう、よく知ってるな。最近になってようやく外で訓練しようっていう話が出たんだよ。それで受けるのか? それとも受けないのか? これは別に強制じゃないから受けなくても何もペナルティとかはないぞ」

俺は城内には謎のシールドに阻まれて入ることが出来ない。そのため今まで中に入ることが出来なかったが今回はあちらから外に出てくる。ということは……。
思ったより早くあの二人と再会が出来るな。
俺は久しぶりに妹と幼なじみに会える可能性があることを嬉しく思っていた。
だが一つ問題があることに気づいてしまう。
俺は確か前の世界では死んでいるんだったよな。
その死んだ俺がいきなり目の前に現れたらどう思うだろうか?
混乱して戦闘にならず、最悪命を落とすという可能性がある。
これは受けない方が良いのか? いやでも、様子は気になるしな……。

「よし受けるか!」

迷ったあげく、依頼を受ける方を選んだ。

「よくぞ言ってくれた! 今回は俺が別件で参加出来ないからな、お前がいてくれると他のメンバーも心強いだろうよ」

なるほどそういうことか。今、依頼を受けているメンバーでは少々戦力に問題がある。だがガンゼフ自身はこの依頼には参加出来ない。ならどうするか?
それならガンゼフに勝った俺に参加させれば良いじゃないかということだ。少し利用されている感じがするが、俺は俺で妹と幼なじみの様子を見るという目的があるのでこの際は目を瞑ろう。

「それで依頼の詳細はどうなってるんだ?」

「依頼自体は一週間後だ。詳細は依頼前に説明するからそれまで別に何をしててもいいぞ」

「分かったよ、説明するときは教えてくれ。じゃあ話すことはこれで終わりみたいだし俺達は帰るよ」

「おい、ちょっと待て!」

この部屋から出ようとソファーから立ち上がったとき突然ガンゼフに呼び止められる。

「……?」

「今から緊急依頼の報告会するから帰るなよ」

そういえば、あれから何も報告とかなかったな。

「それから報酬金も出るから期待しておけよ!」

「なら帰るわけにはいかないな」

「報酬金出るって聞いた途端その態度かよ。お前面白いな、ガハハハ!」

ガンゼフは口を開けて大きく笑う。

「そりゃどうも、じゃあ俺達はギルドの中で待っていれば良いのか?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ今度こそまたな」

「おうよ!」

俺達はガンゼフとエリーに一旦の別れを告げこの大量の書類で散らかった部屋の扉からギルドのメインホールへと出た。

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