乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第31話 模擬戦 Ⅱ


「ぐはっ!」

俺はまたもや壁に投げつけられる。これで何回目だろうか。
結局俺は実力を見せる宣言の後もガンゼフに対応できずにバンバンと投げられていた。

「おいおい、さっきまでの威勢はどこいったんだ?」

正直言い返す言葉もない。
事実、今このように投げられていることが全てを証明している。だが宣言してしまった以上、なんとかするしか道はない。なんとかする、つまり倒すしか道はないのだ。

「……Sランク冒険者は本当にこんなやつらばかりかよ」

そう言葉が漏れてしまうほどにこの元Sランク冒険者は異常な強さを誇っていた。

「今なんか言ったか?」

「ああ、言ったよ。Sランク冒険者はこんなやつらばかりかよってね」

ステータスではこちらが圧倒的に勝っているにも関わらず、それでも全体的な強さを越えることが出来ない。その圧倒的な戦闘センスは脅威であろう。まずはガンゼフに一撃を与えたいがどうするべきか。

「おいおい、もう怖じ気づいたのか? 情けねぇな。そっちが来ないならこっちから行かせてもらうぜ!」

どうするべきか俺が考えている間にガンゼフはいつまでも攻めてこない俺に痺れを切らしたのか、こちらへと攻めてきた。

「今は一先ず攻撃から身を守るのが先か」

ガンゼフはその巨体から想像が出来ないほどの速さで俺へと一直線に迫ってくる。
だが俺の速さほどではないためなんとか対応することが可能でありそうだ。
直線で来たのなら横に跳んで避けよう、そう思ったのだが流石は元Sランク冒険者で俺の足の動きから瞬時にどちらへと避けるかを予測したのか俺がその方向へ跳んだ瞬間にガンゼフはその先の地点へと軌道を修正して先回りし俺に拳で一撃を叩き込むような構えをとった。

「全てお見通しかよ!」

「長いこと冒険者やってたからな。そのくらい予測出来なきゃ逆に恥ずかしいってもんよ!」

「そんなもんか!」

俺は一撃に備えて腕を体の前でクロスさせて攻撃が来るのを待つ。

「まだまだ甘いな。何の攻撃が来るのかはギリギリまで見極めろ!」

ガンゼフはそう言うと攻撃の構えをとく。それから俺は地面に着地したタイミングに合わせて足を払われた。

「うおぉ!」

俺は突然の足払いにバランスを崩し地面へと倒れてしまう。そこにガンゼフが容赦ない拳の追撃を加えようとしていた。

「戦いじゃあな、倒れたらもう詰みなんだよ!」

ガンゼフの言う通りだ。倒れた状態だと逃げる場所が左右に限定されてしまう。もし運良く一撃を避けれたとしても次の一撃で仕留められるだろう。

「くっ!」

俺は咄嗟に地面の土を握り、ガンゼフへと投げつけた。

「うおっ!前が見えねぇ。」

投げつけた土は見事にガンゼフの視界を奪うことに成功する。
それから俺はガンゼフの視界が土で遮られている間に横へと転がり、ある程度距離をとってから立ち上がった。
危なかった。そのまま何もしていなかったらやられていた。
俺がそう心の中で呟いているとガンゼフが口に入ったらしい砂をペッと吐き出しながら立ち上がる。

「ペッペッ……なるほどな。やるじゃねぇか! 新入り!」

「……?」

一体何を褒めているんだ? 俺はただ逃げようと土を投げて足掻いただけだ。

「その様子だと分かってねぇみたいだな」

「何をだ?」

「戦いは必ずしも力のぶつけあいじゃないってことさ。もっと頭を使わないとな」

俺はその言葉を聞いたとき体に衝撃が走った。
確かにそうだと思ったのだ。戦いは必ずしも拳だったら拳、剣だったら剣と相手と同じ条件で戦う必要はない。それと同じように誰から見ても卑怯だと言えることも別にやってはいけないというわけではないのだ。卑怯な真似はしたくないならそれでいい。それでもし大きな怪我を負ったり、死んだとしても全て自己責任だ。
卑怯というのは結局のところ自分のプライドを傷つける行為というだけで戦いに使えるものは数多くある。
今行った土を投げることだって、立派な戦法だ。それで勝てるなら喜んでしようじゃないか。今の俺は別に世の中で一番強い訳ではない。現にこうして追い詰められている。
正攻法で勝とうとするなど強い相手にはそれこそ失礼なのではないだろうか?それはつまり自分の全力を出さないということなのだから。
俺はキッとガンゼフを睨み付ける。
そうだ、やってやろうじゃないか。どんな手を使ってでも勝ってやるよ。

「ようやくやる気になったか。ちょっとは楽しめそうだ。そうじゃないと面白くないからな」

ガンゼフはガハハと笑っていた。そんな中、俺はガンゼフの元へと走り出す。

「おっかねぇな。まだ戦う雰囲気じゃねぇだろ。まぁいいけどな!」

一方のガンゼフは自ら俺の元へと向かって来た。
両者の間の距離が五メートル程になったとき俺は地面の上を思い切り蹴りあげて、砂を巻き上げる。

「またそれかよ! そう何度も同じ手は食わねぇよ!」

そう言ってガンゼフは腕を思い切り横に薙いで砂を全て吹き飛ばす。だが砂を吹き飛ばした先には俺はいない。
いや正確にはいると言った方が正しいのか。俺は砂埃を巻き上げた後、『実体化』を解除したのだ。普段、消えるところを見られるのを防ぐため使わないようにしているのだが、周りを見えなくすればそんなことは関係ない。他の人にはイリュージョンか何かに見えるだろう。これが今の俺が出来る最大限の技だ。

「クッ、どこ行きやがった!」

どうやら流石のガンゼフもこの状態の俺は見ることが出来ないみたいだ。というか見ることが出来たら、ガンゼフは正真正銘の化け物であろう。
俺は念のためガンゼフの死角へと入り、全力のストレートをガンゼフの背中へと叩き込んだ。

「グハッ!」

ダメージは入っているようだが倒すまでには至らないか。

「クソッ、どっから殴りやがったんだ!」

ガンゼフは攻撃を受けた後方へと腕を振るってくる。
俺はその攻撃を受ける前に後ろへと後退した。
危ない、攻撃をしたらそりゃ位置はバレるか。ガンゼフの拳は一見ただの物理攻撃に見えるが、その実は魔力を纏っている。これは自らの拳を守るためでもあり、攻撃力を上げるためでもあるのだろう。
この事はさっきまで散々投げられていた俺がダメージを受けていたことが証明している。とにかく今は目の前の相手に集中しよう。元とはいえSランク冒険者相手になめてかかると痛い目を見るからな。
それにいつまでもこの優位な状況ではないだろう。今は慣れていないだけでその内順応してくると俺はみている。その前にガンゼフを倒したい。

「面白いぜ! その攻撃、何かの魔法か? まぁそんなことはどうでもいいか。これなら久しぶりに暴れられそうだぜ!」

途端にガンゼフがオーラを纏い始める。
おいおい、マジかよ……。もしかして今まで全力じゃなかったのか。

「どこにいるかは分からないがかかってこいやぁ!」

少し警戒した方が良さそうだが、いつまで待っても埒があかない。早く蹴りをつけるには行くしかないか。
俺はオーラを纏ったガンゼフへと一撃を入れるため死角から近づく。だがガンゼフとの距離残り一メートル程まで来たとき、急な寒気が俺を襲った。

『……!?』

俺は本能的に危険を感じ攻撃を中止して咄嗟に後ろへと跳ぶ。
そのすぐ後、俺のさっきまでいた位置には太い腕がつき出されていた。危ない、どうやら間一髪避けることが出来たみたいだ。

「ん? おかしいな。確かここら辺だと思ったんだが」

感覚で攻撃を当てようとするなんて全く恐ろしいことをするものだ。それに加えて攻撃を当てようとした場所がまさに俺のいる場所だったことがさらに恐ろしい。

「次は当てるぜぇ!」

最初に当てた攻撃がクリーンヒットしたのは偶然かと思うほど攻撃が通じない。やはりSランク冒険者はだてじゃないか。

『物理攻撃が危険となると遠距離攻撃しかないか……』

俺はガンゼフに向かって『メテオ(笑)』を放った。

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