乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第30話 模擬戦 Ⅰ
「堅苦しいのはなしだ。とりあえずそこに座ってくれや」
俺達はガンゼフに勧められたソファーに腰掛ける。
「それでガンゼフさんは俺達に何が聞きたいんだ?」
「お、いきなり本題とは短気だな。ガハハハ!」
「で、どうなんだ?」
「こりゃまいったな。じゃあ単刀直入に聞くぞ」
ガンゼフは途端にスッと目を細め、膝に腕を乗せて手を組んだ。
「お前のその力はなんだ?」
やはりそう来たか。俺が戦っているところを人から聞いたのか、それとも実際に自分の目で見たのかは分からないがガンゼフはそうだと確信しているようだ。
「その力って?」
「そんな誤魔化しはいいんだよ。それよりも事実を聞かせてくれ」
最早、ガンゼフには生半可な誤魔化しは通じない。ここは話すべきなのか。それとも話さぬべきか。
話すか話さないかの二択に悩んだためか、しばらく間が空いてしまう。
「なるほどな、話すか躊躇うほどの力か」
その空いてしまった間が自分には力があることを自ら証明してしまっていた。
「いや……その……」
話せば話すほどボロが出てしまう。
「じゃあこうしようか」
ガンゼフは途端に不敵な笑みを浮かべる。
「俺と戦え!」
その一言は先程まで騒がしかったこの部屋の扉の向こう側が一瞬で静かになるほどの威力を持っていた。
それもそうだろう、元Sランク冒険者が俺と戦え! なんてなかなか言うことではない。そんな誘いをただのFランク冒険者が断れるだろうか?
「は、はい。喜んで」
否、断れるはずがない。答える際に若干自分の顔がひきつっていた気がしたが、気のせいだろう。
こうして俺とガンゼフは模擬戦をすることが決定した。
◆◆◆◆◆◆
「カズヤ様、カズヤ様!」
俺達がガンゼフと話し終わり部屋の扉を出てきたところでエリーに呼び止められた。
エリーはなにやら楽しそうである。
「おう、エリーどうかしたのか?」
「どうかしたじゃないですよ。カズヤ様はガンゼフさんと模擬戦をするのですよね」
やはり聞こえていたか。話しているときに扉の向こう側が一瞬静かになったことから聞こえているのは分かってはいた。
まぁあんなに大きな声で話されたら仕方ないのかもしれない。
「ああ、模擬戦はするな」
「それでいつ模擬戦をするのですか?」
「今日の昼過ぎだ」
俺も唐突すぎると思ったのだが決まってしまったものは仕方ない。もうなるようになれだ。
「それは急ですね。ですが見に行きますよ!」
「仕事はどうするんだ?」
「そんなの他の人に任せれば大丈夫です!」
「そ、そうか。じゃあまたな」
俺は受付のカウンター近くを後にする。
エリーよ、受付嬢として仕事より模擬戦を優先していいのか。そうは思ったがこれは本人の問題だ、俺が口出し出来ることではないだろう。それよりも周りの視線が気になる。別にナルシストな訳ではない。ウェポンブレイカーと初めて言われたときと同じ視線。そう、興味の視線だ。
「アイツがうちのギルドマスターと戦うのか?」
「勝負にならないだろ」
周りからはそんな声が聞こえてくるので視線の原因は先程話したギルドマスターと模擬戦をする件だろう。
全くギルドマスターも余計なことをしてくれたものだ。本人は普通に言ったつもりだろうが、聞く側からしてみれば声が大きすぎる。
あんなに声が大きければ話した情報が周りに伝わってしまうのも必然的なことだろう。
「はぁ……」
心身が休まらないこの状況にため息を吐く。
この視線の中、昼までギルドで待っているというのも居心地が悪い。それなら外にいた方がましか。
「時間まで外でふらつきたいんだが、いいか?」
俺はソフィーとリーネの二人に外に行っていいかの確認をとる。
「良いわよ、この視線の中だと疲れるわよね。外に行くんだったら私も行くわ」
「私も」
二人もこの視線は居心地が悪いようで俺と一緒にギルドの外へと出た。
◆◆◆◆◆◆
「準備は出来てますか?」
「ああ、バッチリだ。それよりもギルド内にこんなところあったんだな」
「いつも広場として開放していますよ」
こんなところがあるなんて知らなかった。
今俺がいるのはギルドの地下にある広場である。地下にあるとは思えないほど巨大な円型の空間の壁は全て何かの金属で出来ており近未来を感じさせる。
ちょっとやそっと攻撃を加えたくらいでは傷すらつけられなさそうだ。そんな空間の中央に見覚えのある影が一人。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
今回の模擬戦の相手、ギルドマスターのガンゼフだ。
「じゃあエリー、ここまでありがとう」
俺はそう一言発してガンゼフの元へと向かう。
「カズヤ様、頑張って下さいね! 私は外から応援していますので」
エリーが言ったようにこの空間の様子は魔法で外に写し出されている。
これを初めて聞いたときは魔法の凄さを実感したものだ。
この世界では科学技術よりも魔法に頼っている面が多々ある。というよりも科学技術など使わなくても魔法で事足りてしまうのだ。確かにここまで魔法が使えるなら確かに科学技術などいらないと思ってしまっても仕方がないのかもしれない。
「よう、新入り。愛しの人に別れは済ませてきたのかい?」
「ガンゼフさん、その発言どこかの悪党っぽいぞ。それにエリーとはそんな関係じゃない。俺なんてあっちからお断りだろ」
「見ている限りそんなことはないと思うがな」
「それよりも早く始めよう」
「じゃあ始めるか。そこの線に立ちな」
ガンゼフが近くにある白い線を指差す。
どうやらこれが模擬戦の開始地点のようだ。俺はガンゼフの指示に従い、白い線まで移動する。それと同時にガンゼフも反対側の白い線へと移動した。
「ここでいいか?」
「ああ、そこでいいぞ。好きなタイミングでかかってきな」
どうやら先手を譲ってくれるようだ。相手は元Sランク冒険者だ。遠慮なく行かせてもらおう。
「それじゃお言葉に甘えてっ!」
その言葉と同時に全力で前へと飛び出す。ステータスを最大限に活かしたスタートダッシュは誰の目にも映ることはない。
その証拠に目の前にいるガンゼフは目を閉じて固まっている。
このままガンゼフの後ろに回り込んで、気絶させれば勝てる。
そう思ったのが間違いだったのか。
ガンゼフの横を通って後ろに回り込もうとしたとき突然横から腕が伸びてきた。
「なっ!?」
胸ぐらをその腕に掴まれる。それから突進の力を利用されてグルグルと振り回され、最終的には広場の壁へと投げつけられた。
「ぐはっ!」
肺の空気が全て口から出ていくのが分かる。
何故だ? 何故投げられたんだ? 俺がそう疑問に思っているとガンゼフが話しかけてきた。
「なっちゃいねぇな」
「一体何が……?」
「力があってもな。それを百パーセント引き出せてなきゃ意味がねぇよ」
「……」
力を引き出せていない? そんなことはないはず、ステータスの力は全て出しきっている。
「何でだ? って思ってるだろ? お前はまだ戦闘経験が浅い。はっきり言うがまだ弱いんだよ」
「弱い……」
「そうだ、お前冒険者をやる前は戦ったことすらなかったんじゃないか?」
確かに冒険者をやる前は元の世界で暮らしていた。
元の世界ではこの世界と比べて戦う必要がないほど安全だ。そう、安全なので戦う必要がないのだ。そんな俺が今まで戦ったことがなくても仕方がないだろう。だがな……。
「確かに今まで戦ってこなかった。だから戦闘経験は冒険者になるまで全くない……だけど!」
そんな俺でもこの世界で一生懸命生きようとしてまだ少しの間であるが生きてこれた。そこで少しは強くなったはずだ。
「だからこそ! 俺は精一杯やって来たんだよ!」
戦闘経験がないのは事実だ。その分まだ弱いのもまだ分かる。
だけどガンゼフの弱いの一言で努力を全てを切り捨てる発言は俺の努力を全てを否定しているような気がして俺にはどうしても許すことが出来なかった。
「そこまで言うんだったら、その精一杯やって来た成果を俺に見せてみな」
「言われなくても見せてやるよ!」
それから俺とガンゼフの戦いはようやく始まった。
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