乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第29話 休息
「お帰りなさい!」
エリカが宿に戻ってきた俺達を迎える。
「おう、ただいま」
「早速ですけど食事にしますか? それとも部屋で休まれますか?」
「そうだな、先に食事だな」
エリカと俺の食事という言葉を聞いて反応するものが二人。
その内の片方、ソフィーは今日の献立を熱心にエリカに聞いている。そして二人のうちのもう片方、リーネはというと俺の背中でもぞもぞと動いていた。
リーネの食に対する熱い気持ちは十分に理解した。
だからあまり背中で動かないでくれ、もぞもぞ動いて背中がくすぐったい。
だが俺の願いは当然リーネに通じるわけがなく、ついには背中から落ちてしまう。
「あっ!」
リーネが背中から落ちた瞬間、まだ上手く立てないのではないかと心配したが実際はそんなことはなくリーネはフラフラしながらも見事に宿の床に立つことに成功し、ソフィーと一緒になってエリカに今日の献立を聞きに向かった。
「奇跡だ……」
さっきまでまともに立つことさえ出来なかった者が一つの思いだけでまさかここまでするとは。
俺は奇跡を目の当たりしたときのような不思議な気持ちになっていた。
いや奇跡目の当たりにしたときのようなではなく、今このときリーネに奇跡が起きたのだ。そう言わざるを得ない。
「あのーちょっといいですか?」
「……ん?」
「先に食事ということでしたらあちらの席にどうぞ」
「あ、そうか案内してくれてありがとう」
「あの、どうかしたんですか?」
「いや、ちょっと考え事をしていただけなんだ。気にしないでくれ」
「そうでしたか。てっきり何か悩み事でもあるのかと」
どうやらエリカに心配をかけてしまったようだ。彼女には悪いことをしたな。
「そんなまさか、悩み事なんてないよ」
「ホントにホントですよね?」
「あぁホントにホントだ」
「なら良かったです。食事を持ってきちゃいますね」
エリカは俺の目をジッと見つめた後、大丈夫だと判断したのか俺達の食事を運ぶためカウンター奥の厨房へと向かった。
それにしても何故あんなにも俺を気にかけてくれるのか。いや、エリカは誰に対してもあんな感じだったか。困っている人を放っておけないのかもしれないな。
そこでふと俺は宿の中を眺める。
「それにしても俺達って随分この宿に馴染んだな」
「まぁもう二週間近くいるんだし当然よね」
「そうかもうそんなに経つのか」
俺がこの世界に召喚されてなんやかんやでもう半月も経っていた。初めの内は手探り状態で生活していたのが今ではもう懐かしく思えてくる。それほどまでに時間が過ぎたのだろう。
「初めのときはいろいろあったな。俺も拉致されたりしたな」
「私達が閉じ込められてたときのことね。そのときのことは私達二人ともカズヤにはすごい感謝してるわ」
「結果的に助かっただけだろ」
「結果的に助かっただけでも助かったことには変わりないのよ」
「そういうもんなのか」
俺達が昔話に花を咲かせているとエリカが食事を持ってこちらへとやってきた。
「皆さん! お待たせしました!」
「これは食べごたえがありそうだな」
俺達の前に運ばれてきた食事はまさに肉、肉、肉の肉尽くしだった。
一番目立つのはやはり大皿を埋め尽くす勢いで盛られた肉のタワーだろう。その大きな皿の近くのバケットには焼きたてであろうパンがこれでもかというほど盛られている。
肉とパンというシンプルな献立だが、戦いで疲れた体にはこれくらいインパクトのあるものが欲しいものだ。
香ばしい肉と焼きたてのパンの芳醇な香りが程よく食欲を刺激する。これがまさに冒険者飯というやつではなかろうか。
「パンはおかわり自由ですので、おかわりの際は声をかけて下さいね」
そういってエリカは自らの仕事へと戻っていった。
「じゃあ早速いただきますか……ってあれ?」
俺の目の前には確か盛りに盛られた肉のタワーがあったはず、それにも関わらずこの光景はなんだろうか。
俺の目の前には半分以上食べられた肉のタワーだったものがあった。
「いつの間にここまでの状況に!?」
俺は犯人であろう目の前の二人を見る。
俺の目の前にはハムスター並みに口いっぱいに肉を蓄えたソフィーとリーネの二人がいた。
俺が二人を見ていたことで肉を取られるとでも思ったのか、二人の内ソフィーがグルルと喉を鳴らして俺を牽制する。
「食事もまた戦いなのよ」
このままでは全て食べられてしまう。どうにかして肉を確保しなければ。
「こうなったら、あの手でいくしかない」
俺は自らのステータスの高さを活かして高速で肉を確保する作戦を実行する。
「なっ!?」
どうやらソフィーは驚いて声も出ないようだ。
「ははは、この肉は俺が全て頂いていく!」
「あまい……」
俺が勝ちを確信しているとリーネが突然そんなことを口にした。どういう意味だろうか。肉は今俺が全て独占しているはず。
「こうなることを見越してあらかじめ別の皿に取り分けておいた」
そういうことか! 始めから少なかったのは取り分けられていたから、確かにあの量を短時間で食べきることなど不可能に近い。
俺は始めからリーネの手のひらの上で転がされていたというのか……。
「負けた……」
俺はあまりのショックに床に手をつく。完全にリーネの作戦勝ちである。
「でも食事は皆で仲良くが一番」
だがリーネはそう言って取り分けた肉の皿を元の皿の隣に置いた。
「リーネ……」
「皆で食べた方が美味しいし、楽しい」
それからはリーネの心優しい配慮から得た肉を俺達は分け合って食べた。
今回のボリューム満点な食事は俺だけでなく二人とも満足だったようだ。食事を終えた後は今回の緊急の依頼の疲れからかお風呂に入った後すぐにベッドへと飛び込み、数分と経たない内に意識を手放した。
◆◆◆◆◆◆
「どんな話なのかしら?」
「まぁ大体予想できるけどな」
次の日、約束通り俺達はギルドマスター、ガンゼフに会いにギルドまでやって来ていた。
「リーネは休んでなくて本当に大丈夫だったのか?」
「寝たら治った」
そんな馬鹿なことがあるはずない。あんな大怪我一日では治らない。
『回復魔法』と言っても自然治癒力を高めるだけだ。なので早くて三日はかかるだろう。きっと今もまだ無理をしているに違いない。
俺はリーネの姿をチラッと確認する。
リーネは今にも倒れそうな……なんてことはなく、ソフィーと楽しく談笑していた。
無理している……のか? 見れば見るほどに元気に見えてくる。どうにかして確かめたいが方法が……。
そこで俺はふとひらめく。
「そうだ、ステータスを確認しよう」
ステータスならば健康状態も念じれば表示されるはずだ。そこで確かめれば良いじゃないか。
早速俺はリーネのステータスを部分的に表示させる。
---------------------
名前 : リーネ
健康状態 : 健康
---------------------
「まさか……本当なのか?」
今まで無理をしていると決めつけていたがリーネの健康状態にはしっかりと健康と書かれていた。
これはリーネの自然回復力が高いからか、はたまた体が元から強いからかは分からないが一つ言えることはリーネ恐るべしということだろう。
「さっきから一人でブツブツどうしたの?」
「いや何でもないよ。とにかく治ったみたいで安心した」
そもそもリーネが治ったのは良いことじゃないか。とにかく今はガンゼフに聞かれるであろう話をどう誤魔化すか考えた方が良いだろう。
「じゃあギルドマスター呼ぶわよ」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
「いや、その必要はないぞ」
俺がソフィーを呼び止めようとするがその前に誰かに呼ばれる。この展開つい昨日にもあったような……。
俺は呼び止められた方向へと顔を向ける。
「よう、新入り! 昨日ぶりだな」
するとそこにはいやに笑顔なこのギルドのギルドマスター、ガンゼフがいた。
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