乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第28話 終結
「……リーネ! リーネ!」
俺はソフィーの看護受けて眠っているリーネを何度も呼ぶ。
「ちょっと、静かにして! まだ寝てるでしょ!」
何度もリーネを呼ぶ俺の声が煩かったのかソフィーは俺を注意した。
「おう、すまん。心配でな」
「その気持ちも分かるけど、今は寝かせておきましょう」
「そうだな……」
俺はサイクロプスを倒した後、真っ先にリーネの元へと向かった。
ソフィーによるとリーネは特段命に別状はなかったようだが、骨は数本折れており痣もいくつかある状態だった。
今はソフィーがリーネに『回復魔法』をかけたおかげで症状は和らいでいるが実際にリーネが起きるまでは安心出来ない。
「それよりももっとリーネから離れてちょうだい!」
「え、なんで!?」
「あなた周りを見てみなさいよ」
「周り? 周りってなんだ? まだ魔物でもいるのか?」
俺はぐるりと辺りを見渡す。だが近くには魔物の魔の字もなく、遠くに一、二体だけいるような状態だった。この分なら後数十分で全てが片付くだろう。
「魔物のことじゃないわよ! 人のことよ、ひ・と!」
「人?」
俺は再び辺りを見渡す。
周りにいる人達はこちらを、正確には俺を見てヒソヒソと何やら話している様子だった。
「何を言いたいのか分かった?」
「ああ、分かったけどどうして俺を見ているんだ?」
俺の問いに一度ソフィーははぁとため息を吐いて答える。
「本当に分からないなんてね。カズヤは本気で戦ってたでしょ?」
「あぁ、リーネの仇だからな」
「それよ、それ。周りの人達はそれを見たらどう思う?」
「どうって……」
「ようやく気づいたみたいね。でももう遅いわよ」
「どうしてだ? オークのときはそうでもなかったはず……」
「それはあなたが気づいていなかっただけじゃない?」
「それは……」
自慢じゃないがステータスが周りの人よりも飛び抜けている俺が本気で戦ったらどうなるか。多分だが周りの人達は俺が何をやったのかすら気づくことが出来ないのではないだろうか。
消えたと思ったら、敵が倒されていた。
人間それほど恐怖なことはない。誰しも未知というのは怖いのだ。誰も俺に近づいて来ないのもつまりはそういうことなのだ。
適度に強いならば称賛されるがいきすぎると、それは逆に恐怖へと変わる。その辺りのコントロールは実に難しい。
現に俺の立たされているこの状況もコントロールを間違えて招いた結果だ。
「そうだな、この状況は居心地が悪いけど仕方ないか。リーネに迷惑かけちゃなんだから少し離れてるよ」
「悪いわね」
俺はゆっくり休めるようにとリーネの元から離れる。
歩きながら辺りを見るとそこら中に魔物の死体が散乱していた。どうやら魔物は全て倒し終えたようである。
「随分と多くの魔物を倒したな」
魔物の死体が広がっている面積が今回の戦闘はかなり大規模なものだということを表していた。
「よぉ! 新入り。お前は無事だったんだな」
辺りの様子を見ているとある男が後ろから話しかけてきた。
この声で俺を新入りと呼ぶ人はあの人しかいない。
「ガンゼフさん、こんにちは。おかげさまで俺は無事だったよ」
「その言い方だとお前以外は無事じゃなかったように聞こえるが?」
「一緒に戦った冒険者が多数と仲間が一人やられたんだ」
「そのお仲間は無事なのか?」
「無事とは言えないが命に別状はないよ」
「そうか……」
ガンゼフはそれからしばらくの間何も言葉を発することはなかった。俺を気遣ってのことなのか、それとも話すことがないからなのかはガンゼフではない俺には分からない。
だが俺には彼が悲しんでいるように見えた。この気まずい空気に耐えきれず、俺はガンゼフに話しかけようとするが先にガンゼフに話しかけられてしまう。
「まぁ冒険者をやってりゃ今回のようなことの一つや二つは必ずあるさ。だったら次は誰でも守れるほど強くなれば良い。ただそれだけだ」
ガンゼフの言葉には何とも言い難い重みがあった。
ガンゼフがこれまでで何度も考えて考えて考え抜いて出した答えなのだろう。それを簡単に受け取って良いのか俺は迷っていた。
「……」
「まぁそう難しく考えるな! 要は強くなればいいんだよ」
難しく考えるな……。強くなる、果たして簡単に強くなれるだろうか?いやきっと厳しいに違いない。
だが乗り越えた先ではきっと……。
「助言をありがとう。頑張ってみるよ」
「おう、頑張れよ! まだまだこれからだ。それに今回ので仲間は無事なんだろ? ならまだ何も失ってやしないさ」
乗り越えた先ではきっと誰もが憧れるこの人のような本当の意味で強い冒険者になっているに違いない。
「じゃあ俺はここで失礼する」
ガンゼフが手を振ってこの場を後にする。
俺がガンゼフのその後ろ姿に少しだけ格好いいと思ってしまったのは今の話を聞いていれば仕方のないことだろう。
「強くなればいいか……」
俺はガンゼフがいなくなった後一人ごちるのだった。
◆◆◆◆◆◆
「あら、もう戻ってきたの?」
ソフィーがまるでもうちょっとどこかへ行ってくれてた方が良かったのにというような顔で俺に問いかける。
「これでも時間は潰した方だとは思うんだけどな」
そう、俺はあの後結局やることがなくなって戻ってきた。
いつまでも戦場の後を見ても悲しくなるだけだからな。
「あ、そうだったわ、カズヤ!」
「ん? なんだ?」
「あなたは良い知らせと悪い知らせどちらが先に聞きたい?」
突然、ソフィーに謎の二択を迫られる。
正直どちらでも良いが、そうだな……。
「どちらかと言うと、良い知らせの方からかな」
「そう、なら喜びなさい」
ソフィーは俺から見て一歩左へと移動する。
「さっき目を覚ましたのよ」
ソフィーが手で示した先にはリーネが目を覚ました状態で横たわっていた。
「リーネ! もう大丈夫なのか」
「あの魔物は? どこ?」
リーネはまだ状況が掴めておらず、周りを見渡していた。
「サイクロプスなら俺が倒したから問題はない。それよりもまだ痛むところはないか?」
リーネはゆっくりと首を振る。
「ただ頭がボーッとしてるだけで特に痛むところはない」
「そうかなら良かった。でも今日は宿に戻って休んだ方が良い。背中貸すよ」
「大丈夫、自分で立てる」
そういってリーネは仰向けの状態から起き上がり、立ち上がろうとするが力が入らないのか中々上手く立ち上がれない。
「やっぱり背中貸そうか?」
「……ごめん」
リーネはそれだけ言うと隣にいた俺に身を委ねてくる。
俺はリーネを背中に背負い、そのまま立ち上がった。
「別に気にするな。リーネは皆のために戦って怪我をしたんだから、これくらいのことはされて当然だ」
「やっぱり下ろして……」
「下ろすのはなしだ。さぁ宿に戻って美味しいご飯でも食おうぜ!」
「……ちょっと恥ずかしい」
リーネはおぶられることが恥ずかしいのか俺の背中に顔を埋める。
少し面白いのでもっとからかいたいが怪我人だと言うことも考慮して残念だが今回は諦めよう。からかうのはいつでも出来るしな。
それとどうでもいいことだがリーネからはとてもいい香りがする。さっきまで血なまぐさい戦場にいたのに、それを感じさせない石鹸の香り。まさに戦場に咲いた一輪の花のごとき存在感だ。
良い匂いが常に漂う、これが俗に言う女子力というやつなのだろうか。
「カズヤ、顔がにやけてて気持ち悪いわよ」
「いや、そ、そんなことはないぞ!」
「だったらなんでちょっと動揺してるのよ。それよりも悪い知らせの方を忘れてない?」
そうだった。良い知らせのインパクトが強すぎて、悪い知らせのことがすっかり頭から抜けていた。
「すまん、確かに忘れてた」
「やっぱりね……まぁそれは良いわ。その悪い知らせっていうのがね明日ギルドマスターの元まで来てほしいっていうことなのよ」
「それってなんか面倒くさいことになる予感しかしないんだが……」
「だから悪い知らせなんじゃない」
ソフィーの言う通りだ。呼ばれた先ではきっと今日のこととか俺が見せた力のことを聞かれるんだろうな。
「呼ばれているのは俺だけか?」
「いや、私達三人よ」
なるほどソフィーとリーネもか。確かに俺達はまだFランクだ。Fランクで大量の魔物を倒していたら目立つか。
「分かった、明日ギルドに行こう。リーネは明日の様子を見てから判断だな」
「そうね、それが良いと思うわ」
「よし、立ち話はここまでにして続きは宿に戻ってからだ」
それから俺達は今日一日の疲れを癒すため宿へと向かった。
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