乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第23話 襲来 Ⅰ


冒険者達の準備が一通り落ち着き、ギルド専属の調査員が戻ってきてから数十分が経った頃。
ジョゼフの報告が正しかったことが確認され、ギルドマスターの指示でこの魔物騒ぎが緊急依頼として掲示板に張り出された。

「お前ら! 準備は出来てるかぁ!」

「「「「おぉぉ!」」」」

「俺達がこの町を守るぞぉ!」

「「「「おぉぉ!」」」」

一部の冒険者が指揮を高めるためかギルド全体に大声で掛け声をしている。そんな中俺達三人はギルドの端のスペースに居座っていた。

「集まったのは結局七十五人か」

外に依頼に出ている人達を合わせてギルド内に集まった人数は俺達を含めて七十五人、そのうちの二十人くらいが俺達と同じFランク、五十人くらいがCランクからEランク、残りがBランクだ。
集まった冒険者のランクが最高でもBランクと厳しい状態だ。

「よぉ! 新入り! もう依頼の説明が始まるっていうのにこんなところにいたのか。ここじゃ説明が聞こえないだろうからもっと真ん中に行きな」

ギルドの端のスペースに居座っていた俺達だがガンゼフにギルドの中央に行くようにと体を無理やり押される。

「分かったからあまり強く押さないでくれ」

「おお、すまんすまん。つい癖でな意識しなくても力が入ってしまうのよ。ガハハハハハ!」

ここは笑うところなのか?とにかく俺達が中央へ行かないとガンゼフはいつまでもここにいる気がする。そうなると面倒くさいのでここはガンゼフの言う通りギルドの中央へ行くとしよう。

「早く来いよ! 新入り! もう始めるからな。」

ガンゼフが早く来いと急かすので急いでギルドの中央へと向かう。ギルドの中央につくと先程まで騒がしい空気はなく、真剣な空気が張り詰めていた。

「お前らに集まってもらったのは他でもねぇこの町がピンチだからだ。今この町を囲む森のあらゆるところから魔物達がこの町に向かっていてな、その数はおよそ三千体だ」

「三十体って大丈夫なのか?」
「戦力的に厳しいな」

三千体という数字を聞いた途端ギルド内には困惑の声が挙がった。それは無理もない。今現在ギルド内の戦力は七十五人、どうやったって対処出来るわけがないのだ。

「だが安心してくれ、魔物のほとんどがゴブリンだ。強いのも数体いるが対処出来ない程じゃねぇ。それに今回の依頼には俺も参加する!」

大規模な戦闘において一人加わったくらいでは何も戦況は変わらない。だが周りの人達を見てみるとさっきまでの絶望的な表情が一変、希望に満ち溢れた表情になっていた。

「ギルドマスターが参加してくれれば勝ったも同然だ!」
「ギルドマスターは元Sランク冒険者だからな、これで安心だぜ」

ギルドの所々からはギルドマスターの依頼参加に喜ぶ声がちらほらと挙がっている。

それにしてもギルドマスターが元Sランク冒険者だということは初耳だ。隣にいるソフィーとリーネに聞いてみたが二人とも知らなかったみたいなので知る人ぞ知る情報なのだろう。
とにかくギルドマスターが元Sランク冒険者だったら話が別だ。
Sランク冒険者は単身で千体規模の魔物の群れを壊滅させることが出来る存在だとエリーに聞いているのでこの依頼に参加することで戦力が大幅に強化されるのは間違いないだろう。

「次に冒険者の配置のことだが…………」

その後もしばらく説明は続き……。

「説明は以上だ! お前らの健闘を祈る!」

最後にその一言だけを言い残してこの場を解散した。
解散後ギルド内にいた人達は駆け足でそれぞれの持ち場へと向かう。先程の説明で北南西東の地点のうち誰がどこの守りをするのかを決めたのだ。
ちなみに俺達三人はこの依頼において南側の守りを任された。というのも今回の魔物達は四方からやってくるので一ヶ所に固まっていると迎え撃つことが出来ない。ある程度の人数を北南西東に分散させないと対処出来ないのだ。
その中でも南側は比較的に弱い魔物が多いのでFランク冒険者が多く配置されている。
一方の北側は魔王が統べる国である魔国があるためか比較的サイクロプスなどの強い魔物が多い。ここはもちろんBランク、Cランクなどの強い冒険者が配置されている。
残りの西と東は数が少ないので主にDランク冒険者が配置されている。
このように今回は北南西東でそれぞれ冒険者達が待ち構え撃破するという作戦だ。

「自分の持ち場につけぇ!」

現在南側では一人のCランク冒険者の指揮のもと、二十一人態勢で後衛には魔法が使える者、前衛には近接攻撃を得意とする者、そして補助として回復が使える者が後方の一ヶ所に固まっている。俺達三人の内、俺とリーネが前衛の前方に配置され、ソフィーが回復が使える者として後方の一ヶ所に配置されていた。
しばらくして視界後方の森の中から土煙をあげながらこちらへと向かっている魔物の一団が姿を現す。後数分でこちらへとたどり着くことだろう。

「リーネ! 準備は大丈夫か?」

「大丈夫、問題ない」

迫ってくる魔物の一団にリーネが慌てていると思い、声をかけたが慌てるどころか全く動じていないようだ。
実に頼もしい仲間を持ったものだ。とにかく今は指示を待つのみ。

「魔法隊! 魔法準備ィィ!」

Cランク冒険者の声とともに後方では下級魔法『火の玉』が次々と生成される。一つ一つは小さいが数を合わせれば自然と威力も玉の大きさも大きくなっていく。火の玉は段々と大きくなり、ついには半径二十メートルまでの大きさになった。
その時点で土煙の中から魔物の鳴き声と姿が見える位置まで魔物達が迫って来ていた。

「はなてぇぇ!」

その声を合図に巨大化した火の玉が魔物の集団の真ん中へと向かっていく。
ドガーン! と火の玉の着地点を中心に巨大な爆発が起こり、その衝撃は爆風となってこちらにまで届いた。
これで今見えている敵全体の二割は減らせたようだ。ここからが前衛である俺達の番だな。

「前衛! 準備ィィ!」

指揮をとっているCランク冒険者は手を上げ、そのまま下へと振り下ろした。振り下ろす合図で前衛である俺達は一気に敵がいる方向へと走る。
一方、敵はというとグギャグギャと鳴き声を鳴らして笑っているようだ。

「全くなめられたものだな」

確かに端から見ればこちらが二十一人に対して魔物側が数百体とこちら側に全く勝ち目が無いように見えるだろう。だがそれがやつらの油断を招く。相手が油断をしていればその分戦いやすくなる。つまり勝ち目が生まれるということだ。
俺は走りながらサバイバルナイフを二本実体化する。そしてその実体化した二本のナイフで迫ってくる二体のゴブリンを同時に斬り伏せた。

「グギャ!」
「グギャー!」

実体化したナイフはなぜだか知らないがやたら切れ味がいい。それはもう紙のように斬れるのだ。斬れやすさもあってか俺はその後も魔物を斬って斬って斬りまくった。
相手は俺のスピードについてこられず、戸惑っているようだが俺はそれに構わず、斬る斬る斬る。
相手がもし警戒していたら、相手にとってはもう少しましな結末になっていたかもしれないが時は既に遅い。
気がつくとゴブリンやビッグラッドなどの魔物を数百体倒しており俺の周りには不自然に穴が空いた空間が生まれていた。
どうやら俺は魔物達に避けられたようだ。

「リーネの方は大丈夫か?」

襲いかかって来なくなった敵に少し余裕が出来た俺は後ろを振り向きリーネの姿を目で探す。

「見当たらないな」

ざっと見渡したが見つからず諦めて前を向こうとしたそのとき……。
ドガーン! という爆発音とともに魔物の一団の中心から複数の魔物が宙へと舞った。

「うお! なんだ?」

気になり爆発の中心地点を見てみるとそこにはリーネがものすごい速さでゴブリンを殴り飛ばしているのが見えた。
どうやら敵陣に乗り込んでいたらしい。ざっと見たかぎり、既に百体程は倒しているようだ。

「俺も負けていられないな」

俺は再びゴブリンの集団に突っ込みゴブリンを蹴散らす。他の冒険者もそれなりによくやっているようだ。
ある者は魔物を一体ずつ斬り伏せ、ある者は魔物の集団に魔法を放ち、またある者は傷ついた者を癒すために駆け回る。
こうして効率良く戦闘不能の者を出さずに立ち回ったおかげか気がつくと既に全体の魔物の数は百体を切っていた。

「後少しだ! そのまま押しきれぇぇ!」

予定より早く終わりが見えたためか指揮をとっている冒険者も心なしか興奮しているように見える。

「「「「おぉぉぉ!」」」」

冒険者達は残りの魔物を我が先にとものすごいスピードで狩っていく。勢いに乗った冒険者の攻撃は残った魔物達では当然止められるはずもなく、ついには最後の魔物を倒すまでに至った。

「倒しきったぞ! 俺達の勝利だぁ!」

最後の魔物を倒した後、指揮をとっていた冒険者が戦っていた冒険者達に自分達の勝利を告げる。それを受けて冒険者達が喜びの雄叫びをあげた。

「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」

こうして南側は死者なしの完全勝利をおさめた。

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