乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第20話 ウェポンブレイカー
「お前らよ、ちょっとうるせぇぞ」
そう俺達にいいはなった男がつかつかと足音を鳴らしながらこちらに近づいてきた。
「そのお詫びってことでお前らが受けた依頼の報酬金半分で許してやってもいいぜ」
ずいぶんと無茶な要求だな。騒いだだけで報酬金の半分はないだろう。俺達だって金に余裕があるわけではない。ここは謝るか。
「あの騒いだのは謝るからさ。報酬金は勘弁してくれないか?」
「あ? 報酬金はやめて下さいだぁ? そんなん知ったこっちゃねーよ。さっさと金だしな」
「いやだから無理だって」
「つべこべ言ってねーで出すんだよ!」
男は背中の剣に手をかけるとそのまま剣を引き抜いた。
「え、武力行使……」
俺は突然の出来事に驚きを隠せない。
「俺はここらでは数人しかいないBランクの冒険者なんだぜ。最初から素直に言うこと聞いてりゃ痛い目見ずに済んだかもな」
周りにいる人達はこの光景を見てみぬふりをしていた。
誰もが俺達と目も合わせようとしない。それもそうかBランクの冒険者っていったらそこそこ強いもんな。
「ボケッと突っ立ってねーで何か言えよ!」
男は両手に持った剣を横凪ぎに払ってくる。
だが俺は考え事をしていたため反応が出来ずに咄嗟に目を瞑ってしまった。
ガキーンと辺りに不愉快な金属音が鳴り響く。どうやら誰かが介入して助けてくれたらしい、助かった。
俺はそう思い目を開けると信じられない光景が目の前には広がっていた。
俺はその金属音を剣と剣によって起こるものだと思っていたのだが、実はそうではなく剣が俺の体にぶつかって砕け散る音だったのだ。
男が剣を引き抜いたあたりから俺達のやり取りを見ていた周りの人達も皆口を開けていた。
一番驚きたいのは俺だ。まさか剣が体にぶつかっただけで砕け散るとは普通思わないだろう。
この出来事の発端である剣を持っていた男を見てみると既に戦意を喪失している様子だった。
「俺の剣が……」
周りの人達の視線が俺に突き刺さる。
何故か俺が悪いことをしたという感じになっているが違うよね? 俺ってただの被害者だよね。
「まぁそんな日もあるわよ」
「ドンマイ」
ソフィーとリーネの二人が俺の肩を叩いて俺を慰める。
──そうだ、俺は何もしていないのだから胸を張っていればいい。
俺が一歩進むと前にいた人達が横へとはける。もう一歩進むとさらに横へとはけた。
──気にしない、気にしない、気にしないことが一番だ。
俺達がそのまま歩いているとどこからか声が聞こえてくる。
「ウェポンブレイカーだ……」
その誰かの呟きは一瞬にして周りへと広がる。
「ウェポンブレイカー?」
「アイツはそんな能力を持っているのか?」
「実はアイツ武器を破壊するためだけの技を持っているらしいぜ」
──そんな技を会得した覚えはないんだが。
俺は話している人達の元へ説明しに行こうとするがソフィーに止められる。
「行っても無駄よ。一度広まった噂は簡単には無くならないわ。諦めて受け入れなさい」
確かに今から行っても無くなるとは思えない。むしろ悪化しそうな気さえする。ここは大人しくソフィーの言うとおりにするか。
「分かったよ」
「今はそれよりも依頼の報告をしに行きましょう」
俺達は視線にさらされながら受付へと向かう。俺が受付につくとエリーが俺達に頭を下げた。
「すみません。本当は私達が止めないといけないことなのですが……相手が相手でして」
そういえばあの男、Bランクの冒険者とか何とか言っていたな。
「まぁ気にするな。結果的に怪我もしなかったからな」
「そうです、それです! 一体どんな技を使ったのですか?」
ただ防御力がカンストしているだけとは口が裂けても言えない。
言ってしまったが最後何をされるかわからないからな。
ここは誤魔化すしかない。
「剣が折れたのはその剣がたまたま寿命だったからじゃないか」
「いえ、そんなことはありません。あの剣は少し特殊な鉱石で出来ていまして剣が折れる、ましてや粉々になることなんて絶対あり得ないんですよ!」
エリーがどんな技でその剣を粉々にしたんですか? という目を俺に向けて来る。
それに対して俺は掃除の依頼で無理やり話を逸らすことにした。
「そんなことよりも今日は依頼の達成報告をしに来たんだよ」
「あれ? 新しく依頼受けてましたっけ?」
「いや例の掃除の依頼だよ」
「えっ? もう達成したんですか?」
どうやら上手く話を逸らせたらしい。
「ああ、なんなら屋敷内を見てもらっても構わないよ」
「少々お待ちください。アドルフ様に連絡を入れてきます」
エリーはそう言い残すと俺達を置いて奥へと行ってしまった。そしてしばらく待っているとエリーが受付に戻ってきた。
「お待たせしました。個室に案内しますので私についてきて下さい」
「おう、分かったよ」
俺達はエリーの後をついていきある部屋の中へと入った。
「こちらにお掛けになってお待ちください」
「これはご丁寧にどうも」
「それでは私はアドルフ様を呼んで参りますので失礼しますね」
エリーは部屋の扉から出ていった。
「無事何事もなく終わると良いんだがな」
「それは言っちゃいけないやつじゃない?」
ソフィーが言いたいのはきっとフラグとかいうやつだろう。
だが俺はそんなことを気にする男ではない。
フラグなんて気にしていたら冒険者などやっていけないのだ。
それからというもの個室内の小物を観察したり、ソフィーやリーネと話したりして時間を潰した。
部屋に入ってから一時間程経ったくらいであろうか。
扉の向こう側がやけに騒がしくなった。
「どうやら来たみたいだな」
ガチャッと部屋の扉が開く。
「待たせて悪いな。お前達とは違って私は忙しいものでね」
「失礼します」
騒がしさの正体は案の定アドルフだったようで彼と彼を呼びに行っていたエリーは部屋の中へと入ってくる。
そしてアドルフは俺達と机を挟んで対面にあるソファーにドサッと座り、エリーは扉付近で待機を始めた。
「それでいきなり本題なのだが本当にあの屋敷の掃除は終わったのか?」
「はい、無事に」
俺がそう答えた瞬間にアドルフの顔が不機嫌そうになる。
「ふんっ……本当のことだか分からんな。もしやこの私を騙しているのではないか」
「まさかそんなことは。何なら屋敷を見に行きますか?」
「ええい、うるさい。とにかく私は信じないぞ。金は支払わんからな」
──何を言っているんだ? それだと俺達はただ働きじゃないか。
「少しお待ちください、アドルフ様」
アドルフの金を支払わない発言にエリーが待ったをかける。
「ギルドの方では屋敷内を掃除したことを確認済みです。ですので依頼は達成ということになりますがそれでも支払わないおつもりですか?」
「そうだ。私は自分の目で見たものしか信じないのだよ」
「それでは私達と共に今から見に行きますか?」
「いやいい。私は忙しいのでそんなことをしている暇などない」
「あくまで支払わないおつもりですか……ギルドの信頼も落ちることになりますがよろしいのですね」
──ギルドの信頼が落ちるってなんだ?何かまずいのか?
「……!? それだけは勘弁してくれ。報酬金を払えばいいんだろ?」
アドルフはふところから袋を取り出して机の上に置いた。
「袋の中身を確認しますので少々お待ちを」
エリーは袋の中のお金を数え始める。そして数え終わったタイミングで顔を上げた。
「アドルフ様、お支払いする報酬金は十五万コルクなので後五万コルク足りないようですが」
「クッ……」
アドルフは無言で残りの報酬金をふところから出し机の上に置く。
「はい、これでちょうどですね」
それから勢いよく立ち上がり俺達をきつく俺達を睨み付けてから部屋を出ていってしまった。
──意外と何とかなったのか……?
俺は若干疑問に思いながらも無事に終わったことに安堵する。
「そういえばさっき何でギルドの信頼が落ちるって言ったときにあの男は急に態度を変えたんだ?」
「それはですね……」
俺の呟きはエリーに聞こえていたようで説明をしてくれるようだ。
「ギルドの信頼は国の信頼と同じということですよ。私達冒険者ギルドは組合なのでそれこそ領土などは持っていないですが様々な国に点在している分、影響力はそこら辺の国なんかよりもあるんですよ」
なるほどな。アドルフが恐れるのも分かる気がする。
「つまり影響力は国一つと同じ規模ってことか」
「そうですね。そう考えてもらって問題ないと思います」
そう返答しながらエリーは扉を開けて俺達に部屋を出るように促す。
「次の方も待っていますので退室をお願いします」
俺達は大人しくエリーの言うことを聞き部屋から出た。
「報酬金の方は受付でお渡ししますね」
その後、受付でこの依頼の報酬金を受け取り、俺達はギルドを後にした。
◆◆◆◆◆◆
「おい、受け取った金とそこの二人を置いてどっか行きやがれ!」
そう俺に言った男が手に持ったナイフをこちらに向けてくる。
どうしてこうなったのか?それは俺達がギルドを出てそのまま買い物に行こうとしたときのことである。
俺達は近道をしようと裏路地に入った。そこで急に後ろから声をかけられたのだ。
「どちらも拒否したら?」
「お前を殺して、女は遊んでから売り捌くさ」
絵にかいたようなクズっぷりである。それにコイツって……。
「お前ってもしかしてアドルフってやつに頼まれたのか」
「……!? 何のことか分からんな」
口ではそう言っていても顔には出ている。やはりそうか、さっきから受け取ったお金と俺達しか知り得ない情報だからな。
仮に俺達が報酬金を受けとるところを見ていたとしてもFランク冒険者の報酬金に誰が目をつけるだろうか? 以上のことからアドルフと当たりをつけたのだがどうやら正解だったようだ。
「アイツに関わるのは止めた方がいいぞ?」
「お前には関係ねーよ!」
俺が忠告したにも関わらず男はそのまま俺に突っ込んでくる。その突っ込んできた男の首を俺はトンッと叩いた。
男は叩いた瞬間そのまま地面へと倒れる。
まさか本当に出来るとは。ここで安心しろ峰打ちだとでも言うのだろうか?
「カズヤ、さっさと行きましょ」
「お腹すいた」
「そうだな」
「待ちたまえ!」
俺達は倒れた男を置いて先に行こうとするが裏路地の小道から出てきた男がそれを許さなかった。男は俺達の前に立ち塞がる。
──新手か?
「よくも私に恥をかかせてくれたな」
そこには先程ギルドから出ていったアドルフがいた。
「また何か用があるのか?」
「……」
アドルフが自分の出てきた小道の方を見るとそこからぞろぞろと冒険者らしき屈強な男が四人とさらに俺達を挟むように後ろからも四人の冒険者らしき男達が現れた。
「お前達はもう終わりだよ。諦めて受け取った金とそこの女二人を置いて行きな」
「Fランク冒険者三人にこれはやりすぎだろ……」
「ふん、徹底的に潰すだけだ。私に恥をかかせおって。楽には殺さんぞ!」
逆恨みか、これで先程の建てたフラグは回収したことになるんだな……フラグなんて建てるんじゃなかった。
後悔していたのも束の間俺は気持ちを切り替える。
とにかく今はこの状況を打開することを考えるか。
ざっと相手のステータスを見たところ平均で20レベルくらいなのでやつらはCかDランク冒険者だろう。
20レベルくらいならば二人には後ろの四人を相手にしてもらうか。
「二人とも、後ろの四人を任せてもいいか?」
「分かった」
「任せなさい! カズヤも怪我したら私に言うのよ?」
「俺は幽霊だから怪我はしないと思うぞ」
「そうだったわね。私の活躍するときはいつ来るのかしら?」
それって間接的に誰か怪我しないか期待しているのと同じじゃない?
「ククッ……作戦会議は終わったか?」
相手の冒険者の一人が丁寧にこちらに確認をしてくる。
「おかげさまで準備バッチリだよ」
その言葉を合図に相手の男達が一斉に俺達に襲いかかってきた。
「じゃあ二人とも頼むぞ!」
俺はそのまま前方の男達のもとに突っ込む。
「なんだ? コイツ!?」
男達が驚いている隙に一人の意識を首トンで刈り取る。
男達がついていけないのも当然だ。俺のDEXは相手の倍以上もあるからな。
「……!?」
一人やられたことに戸惑っている間にもう一人の意識も刈り取る。
「こんなの勝てるはずがねぇ!」
「なら降参するか?」
別にコイツらは雇われただけだしな。
「ああ、降参するよ。だから許してくれないか?」
「なら邪魔だからどっか行ってくれ」
俺は二人の援護に行くため後ろを向く。
「こんなときに隙見せんじゃねぇよ!」
後ろを向いた瞬間、何を思ったのか降参したはずの男二人が俺に再び襲いかかってきた。
「面倒くさいな」
再び男二人の方向に体を向け、二人連続で意識を刈り取る。これで前方四人は片付いた。
「さて後方はどうなっているかな」
後方を見てみるとリーネが最後に残った男の顎にアッパーをかましている最中だった。
「あっちも終わりか。後はアドルフだけ……っていない?」
「どうしたの?」
二人とも冒険者達を片付けたようで俺のもとに合流する。
「それがな最後にアドルフを絞めてやろうかと思ったんだがいなくてな」
「私達が戦っている最中に逃げたのね」
やっぱりそうとしか考えられないよな。
「まぁそれで悩んでいても仕方ないし当初の目的通り買い物に行きましょ!」
──アドルフのことは気になるがあまり気にしていても仕方ないか。
俺達はその後何事もなかったかのように広場へと向かった。
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