乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第19話 屋敷の大掃除 Ⅴ
「決まったわ!」
「こんなものかな」
どうやら二人は取得するスキルを選んだようだ。それにしてもえらく時間がかかったな。それだけ真剣に選んでいたということか。どんなスキルを選んだのか今から楽しみである。
「じゃあソフィーから選んだスキルを教えてくれ」
「分かったわ。私の選んだスキルは『回復魔法』、『MP自動回復』、『消費MP軽減』の三つよ」
意外である。私の力が覚醒的なことを言っていたからてっきり攻撃系のスキルばかりを選ぶと思ったんだが全て補助よりのスキルを選んだようだ。
「ソフィーならもっと攻撃系のスキルを選ぶと思ったんだが意外だな」
「そうでもないわよ。私はただこっちの方がバランスが良いと思っただけ」
そうかソフィーもよく考えているんだな。
「よし、選んでもらったスキルを取得するぞ。本当に良いんだな?」
「もちろんよ」
ソフィーの返事を聞いた俺はソフィーのステータス画面でスキル画面を表示させソフィーが選んだ三つのスキルを連続で取得した。
「これで取得したと思うけど、どうだステータスに表示されているか?」
「バッチリよ。ありがとう」
続いてリーネの番である。
「リーネはどんなスキルを選んだんだ?」
「私のは『拳闘術』、『索敵』、『硬化』、『俊足』の四つ」
リーネはソフィーとは真逆で補助というよりはガンガン攻めていくタイプのスキル構成である。
ガンガン攻めていく中で最も近接攻撃の拳闘術を選んだようだ。
「リーネはえらく攻撃的なスキル構成だな。格闘が好きなのか?」
「戦うときにものを使うより自分の拳の方が楽だから」
何とも男らしい理由である。それにステータス的にも物理に片寄っているのでこの拳という選択は意外にも合っているんじゃないかと個人的には思う。
「なるほど。じゃあスキルを取得するよ」
俺はソフィーの時と同じ手順でリーネのスキルも取得していく。
「ほい、スキル取得完了っと。リーネも取得出来ているか確認してくれ」
「大丈夫、しっかり取得出来てる」
よし、これで全員分取得し終わったな。
「今日はもう疲れただろうし寝るか」
「私は少し外でスキルの効果を試してくるわ」
「私もちょっとどんなものか試してみたい」
この二人は元気だな。
「それはいいけど明日も依頼の続きがあるんだからほどほどにしておけよ」
「大丈夫よ。そんな遅くにはならないと思うわ」
ソフィーは本当に分かっているのか怪しい。
「リーネはとにかくソフィーを頼むよ。それにリーネも明日の依頼のことも考えて今日はほどほどにな?」
「分かった。それとソフィーのことは任せて私が責任を持って監視する」
リーネに任せておけば安心か。俺はもう眠気が限界なので寝よう。ドラゴンとの戦いで精神的にかなり堪えていたみたいだ。
「はぁ疲れた」
俺は誰もいないベッドに一人ダイブする。
「じゃあ行ってくるわ」
「行ってきます」
「いってらっしゃい……」
俺は見送ったか見送っていないか判断がつかない中意識を手放した。
◆◆◆◆◆◆
「二人とも準備は出来ているか?」
「出来てる」
「大丈夫だけど……」
ん? 今から屋敷の掃除を行うっていうのにソフィーはあまり乗り気じゃないな。そういえば始めから乗り気ではなかったか。
「二人とも準備が出来ているみたいだし、早速始めるか」
まぁ始めるといっても特に動く必要は無いんだがな。
この屋敷の掃除のため俺は昨日の内にスキル『掃除魔法』を取得した。このスキル初めはただ掃除の補助をする程度の魔法しか思っていなかったがその認識は間違っていた。
確かにこの『掃除魔法』というスキル、掃除の補助をすることももちろん出来る。だがそれは主な能力では決してない。
『掃除魔法』の主な能力、それは指定したエリア内の対象の物質を完全に消滅させることである。
指定したエリア内の対象の物質を完全に消滅させるということはどういうことか。
例えば、仮にこの屋敷を指定のエリアに選ぶとしよう、そうした場合俺は屋敷内のいかなる物質であっても完全に塵すら残さず消滅させることが出来るのだ。
ということは屋敷内のゴミやホコリといったものも一瞬で消滅させることが出来る。つまり一瞬で掃除が完了するのだ。
ただこのスキル『掃除魔法』はスキルの効果が強い分、一回使用する度にMP500を消費する。
まぁこれは仕方がないことだと思う。それほど規格外のスキルであるということだ。だらだらと説明するよりは実際に見てもらった方が分かりやすいか。論より証拠ってよく言うしね。
「二人ともちょっと下がっててくれ」
手を自分の胸の辺りまで持ち上げ、足を開く。
「……広範囲殲滅型魔法キレイキレイ!」
唱えた途端俺の周りで強い風が吹き荒れる。
その風は徐々に大きくなり、自分が立てなくなるほどの風にまで達すると全方向へと拡散した。
ふぅ、決まった。
スキル名などは実際は口にしなくても問題ないがそこは気にしないで欲しい。とにかくもうこれで屋敷の掃除は完了したのだ。
俺は掃除が完了したことを告げるため後ろの二人に振り返る。
振り返ると二人がキョトンとした顔で俺を見ていた。
だがそれも数分の間で二人ともすぐに正気を取り戻した。
「い、い、い、今のは何よ!」
やはりそのことを聞かれたか。まだこのスキルのことは話してなかったからな。
「屋敷の掃除をしたんだよ」
「今の行為のどこで掃除したっていうのよ」
「今のはな俺が新しく取得したスキル『掃除魔法』ってやつなんだ。そのなかでも指定したエリア内のある物質を消滅させる魔法を使ったんだよ」
「つまりどういうことなのよ」
「ホコリとか汚れを消滅させて掃除したってわけだ」
「それだったら私達がついてくる意味はなかったんじゃない?」
「皆で達成することによってチームの結束が強まるとか言うだろ。そんな感じだ」
「まぁよく分からないけど、早く終わったことは良いことだわ。さぁ早くギルドに報告しに行きましょう」
ソフィーは後ろを振り返りこの場を後にしようとする。
「ちょっと待った。まだ屋敷内を確認してないだろ」
ソフィーはその言葉を聞いた瞬間ギクッっと聞こえてきそうな動きをしてその場に立ち止まる。
だがそれも束の間、ソフィーは屋敷の外に向かって全速力で走り出した。
「ちょ、ちょっと!」
「ソフィーは本当に怖いの苦手なの。その分私がやるから、だから許してあげて」
初めのときから怖いのは苦手だ、苦手だと聞いていたが相当なものらしい。そんな状態なのにも関わらず、今の今まで付き合ってくれていたのだ。
「全くソフィーってやつは」
そんなに怖いのがダメなら断れば良かったはず、それなのに彼女は迷惑をかけたくないからとこの依頼を受け入れた。
アドルフに依頼を蹴られそうになったときだってそうだ。俺達のために自ら体を張って依頼を勝ち取った。
「まぁソフィーがいなかったらこの依頼を受けることが出来なかったかもしれないしな。リーネ、二人で屋敷内を確認するか」
「分かったわ」
それから俺とリーネは屋敷内にゴミやホコリが残ってないか確認して回った。
◆◆◆◆◆◆
屋敷内の確認が問題なく終わり、俺とリーネはギルドへと顔を出した。
「…………ごめんなさい!」
そこへ先にギルドに戻っていたソフィーがバツの悪そうな顔で目の前に現れる。
「私、あのときは気が動転していて気がついたら走っていたの」
ソフィーはそれなりに自分がしたことに責任を感じているようだった。
「そのときのことは気にするな。人には誰だって苦手なものくらいあるからな。俺達も今度からは選ぶ依頼を気をつけるよ」
「ソフィー、私も全然気にしてないよ」
そう苦手なものは誰にでもある。それを乗り越えられるかよりもそれに立ち向かって行くことの方が大切だと俺は思う。
「二人ともありがとう……」
「これでこの話はおしまいだ。それじゃ依頼の達成報告に行こうか!」
「「おう!」」
俺達が騒いでいたのがいけなかったのかドガンと手で机を鳴らす音が横から聞こえてきた。
「お前たちよ、ちょっとうるせぇぞ」
机を鳴らした本人がつかつかと足音を鳴らしながらこちらへと歩いてくる。その人は背中に大きな両刃の剣を背負った男だった。
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